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50 巨大劇場とパペットジョーカー

「報告します。現在確認された脱落者数は2694名、残存プレイヤーは2677名です。フィルターの進捗は予測通りです。」マリアンの落ち着いた声がデータの中に響いた。


「結構だ。続けろ」白いバラのマークの向こうから、野太い男の声がした。


「また、13番グループの観測範囲内で、未知の因子がダンジョン内のマップデータに軽微な干渉を生じさせているのを検知しました」マリアンの口調は平坦なままだった。「この現象は、今後のフィルタープロセスに予測不能な影響を与える可能性があります。詳細な調査が必要でしょうか?」


データの向こう側は数秒間沈黙した。


「必要ない」男の声は最終的にそう答えた。「現状維持、様子を見ろ」


「承知しました」マリアンは簡潔に応じた。


―――――――


クック――!クック――!


けたたましい、気味の悪いカッコウの鳴き声で、俺は叩き起こされた!


「うわっ!」


俺はびっくりして飛び起きた。心臓がバクバクいってる。やべっ、雪ちゃん!


幸い、俺の肩にもたれて寝てた雪ちゃんも同時に目を覚ましたから、頭を地面にぶつけることはなかった。


「ひゃあ!?な、何が起こったの?白狼様?」彼女は眠そうな目をこすりながら、ぼーっとした顔で、寝起き特有のほわんとした可愛らしさを見せた。


周りのプレイヤーたちも、この恐怖の「目覚まし」にかなりビビったらしく、あちこちから罵声が飛んでいた。


「何しやがるんだ!ハンス、てめぇ!この音で誰かをビビらせるつもりかよ?!」俺は思わず怒鳴った。


「おお、大谷!みんな、おはよー!これは俺が改良した新しい目覚ましVer.2.0だよん!」ハンスは後頭部を掻きながら言った。「前のやつ、皆にうるさいって不評だったからさ、もっと良い音に改良してみたんだ。もっと…そう、朝の田園って感じ?」


朝の田園だぁ?ふざけんな!「てめぇ、これを良い音だって言うんだ?!このガラクタ野郎のせいで俺の耳が木っ端微塵になるかと思ったぞ!てめぇのポンコツ目覚まし、ぶっ壊してやろうか?!」


「え、そうかな?ごめんごめん、俺の美的センスが、みんなの普通の美的センスとちょっと、ほんのちょーっとだけズレてるのかも…あはは、はは」ハンスは気まずそうに頬をポリポリ掻いて乾いた笑いを浮かべた。こいつ、やっぱ変人だわ。


みんなまだドキドキしながらもお互いに「おはよー」って挨拶し合って、それぞれ手持ちのパンとかお菓子、飲み物なんかを取り出して朝ごはんにしていた。


「あの…もう四時間半もないんですね…」カイナの声には、ちょっとためらいと心配が混じってた。「みんな…準備は大丈夫ですか?」


「ふふん、こっちは準備万端だぜ!」ハンスは得意げに赤いボクシンググローブを手に取って、素早く装着した。グローブには小さな金属パイプがたくさん付いていて、なんだか精密そうな歯車の部品も見えた。「最新傑作!『高圧スチームインパクトグローブMAX Turbo版』!元のグローブをベースに、小型スチームエンジン加圧装置を取り付けたんだ!」


「私の救急用品も準備は整っていますわ」隣にいたエミリーが冷静に口を開き、手に持ったパンパンに膨らんだ医療バッグを軽く叩いた。「少し手に入りにくい材料もありましたけれど、基本的な戦場でのサポートなら問題ないはずです」彼女がチームにいると、確かにすごく安心できた。


「俺のダーツも改良して、命中精度は結構上がったはずだ」トーマスは手にしたおもちゃのダーツを軽く投げ上げるようにしながら言った。


他の顔見知りのプレイヤーたちも次々に頷いて、それぞれ自分の準備の具合を見せ合った。最後の挑戦を前にして、みんなの覚悟はだいたい決まっているようだった。


「そろそろ出発するか」俺は深呼吸して立ち上がった。


俺たちは一行で、そう遠くないところにあるドアに向かった。そのドアにあった赤いモンスターの頭のマークをじっと見つめるだけで、なんだか見えないプレッシャーが押し寄せてきて、心臓がキュッと締め付けられた。ドアの向こうには、一体どんなヤバいもんが待ち構えてるんだろうな?ここまで来たら、もう後戻りはできない。やるしかない。


「とにかく、気合い入れていこうぜ。最後の最後でヘマすんなよ」俺はみんなに言った。


「おーっ!」みんなが一斉に返事したけど、その声にはまだちょっと震えが混じってた。


「あのさ…もしこの中に、まだ心の準備ができてないやつとか、最後の最後にもう一勝負賭けてみたいってやつがいたら…」俺はみんなの顔を見回して、隅っこにある不吉なオーラを放ってるジョーカーのルーレットテーブルを指差した。「あそこで運試ししてみるのもアリだぜ…?」


俺が言い終わるか終わらないかのうちに、何人かが「勘弁してくれ、あんなもんに手を出すくらいなら死んだ方がマシだ」って顔で露骨に嫌そうな表情を見せた。まぁ、そりゃそうだよな。あれの報酬は魅力的だけど、ペナルティを引く確率も低くないし。


誰も無茶する気がないのを確認してから、俺はもう一度深呼吸して、そのドアを押し開けた。「ギィィィ」という重い音を立てて、ドアはゆっくりと内側へ開いていき、内部へと続く道が姿を現した。


そこは、俺たちが想像してたような暗くて狭い通路なんかじゃなくて…その場で口をあんぐり開けて、息をするのも忘れちまうくらい、めちゃくちゃデカくて、超ゴージャスな巨大劇場だった!


「わぁ…お、おっきい…」隣にいた雪ちゃんが、思わず小さな感嘆の声を漏らした。


無理もない。目の前の光景は、マジで想像を遥かに超えてたんだ。天井は高すぎててっぺんが見えないくらいで、空っぽの観客席が無数に並んでて、そして一番奥には、分厚い暗赤色のカーテンで完全に隠された巨大なステージがあった。


ふん、どうやら、前のいまいましいサーカスと同じような手口みたいだな。どうせまた、あの見るからに高級そうなステージに上がらされて、どこぞの厄介な化け物と死闘を繰り広げる羽目になるんだろう。


俺たち数十人は、ステージ中央へと続くだだっ広い階段を、ゆっくりと、慎重に下りていった。


ステージの端まであと十数メートルってところまで来た、その時だった――バッ!


何の予兆もなく、いくつもの強烈なスポットライトが一斉に点灯して、真正面の巨大な赤いカーテンを照らし出した!


来たか!


全員が、思わず息を飲んだ。


俺たちが固唾を飲んで見守る中、赤いカーテンがゆっくりと左右に開いていった。


カーテンの向こうから、徐々に姿を現したのは…上半身だけで、高さが七、八メートルはありそうな、巨大な機械仕掛けのジョーカーだった!


そいつの体全体は、無数の木材を組み合わせて作られてるみたいだった。真っ赤な蝶ネクタイをしてて、暗赤色のスーツってのは、よく見ると布じゃなくて、木の胴体に直接ペンキで落書きみたいに塗られたものだった。デカくて重そうな白い両手が、ステージの上にどっしりと置かれていた。


そして、そいつの目の前にある「ステージ」、いや、もっと正確に言うなら、そいつの目の前にあるこの戦闘エリアは、形もすごく変わっていた。ジョーカーの真正面、およそ百五十度の環状扇形エリアで、まるで巨大なテーブルを半分にぶった切ったみたいだった。だけど、この環状扇形エリアの幅は、情けないくらい狭くて、せいぜい五、六メートルくらいしかなかった。


「こ、これ…冗談だろ…」誰かが思わず呟いた。


目の前の光景が放つプレッシャーはマジで強烈で、みんな足を止めていた。俺も手のひらに汗がじんわり滲んできて、心臓が勝手にドキドキと早鐘を打ち始めた。


こいつ…この面構え、この登場の仕方…どうやら、これがマリアンのやつが言ってた、いわゆる「パペットジョーカー」ってやつか。

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