49 目を閉じるな!雪ちゃんの急成長
こ、この反応速度…初心者だとぉ!嘘だろ!
あ、そうだ!思い出したぞ!前にジョーカーのルーレットで、あの子が引き当てた報酬!「素早さ+100%」!なるほど、あのバフの効果か!
「ん、今のは上手く避けたじゃん、雪ちゃん」俺は頷いた。「思ったよりずっといいぜ」
「ほ、ほんとぉ?やったぁ!」雪ちゃんはにっこり笑って言った。
「でもな」俺は言葉を切った。「さっきのは完全に目をつぶってむやみに跳んでただけだろ?ちゃんと攻撃を避けるには、ただの勘に頼っちゃダメだ。ちゃんと観察を学んで、相手の動きをしっかり見て、どこに避けるか判断しなきゃ」
「か、観察…?」雪ちゃんは呟いた。
「そう。俺の腕、足の動き、武器を振りかぶるモーションとかを見るんだ」俺はできるだけ簡単に説明した。「よし、もう一回だ!今度は俺の動きをちゃんと見てみるんだぞ、いいな?」
「は、はいっ!白狼様!が、頑張りますっ!」雪ちゃんは力強く頷き、マシュマロ杖を再びギュッと握りしめた。
今度は、少しだけ本気を出すか。ちょっとプレッシャーをかけねぇとな。
俺は深呼吸して、ぐっと身を低くし、勢いよく彼女に向かって突っ込んだ!彼女に迫った、その瞬間――
「ひゃあ――っ!」
雪ちゃんはギュッと目をつぶって、デタラメに横っ飛びした!
ちっ、またかよ。
俺は雪ちゃんが避けた方向を即座に予測し、右足でドンッと踏み込んで距離を詰め、同時にゴルフクラブを、彼女の回避先にある空間目掛けて振り下ろした!
ドンッ――!!!
ゴルフクラブの先端が、雪ちゃんの左足から20センチもない地面に、ズドンと叩きつけられた。
「ひぃ…っ!」
雪ちゃんはビクッと体をこわばらせ、足の力がガクンと抜け、ぺたんと尻餅をついた。顔は真っ青だった。
「ビビったか?」俺はクラブを引っこめた。「もしさっき目をつぶらずに、ちゃんと俺の動きを見てたら、お前が避けた方向に俺が攻撃したって分かったはずだぜ」
俺は彼女の前に歩み寄り、少ししゃがみ込んだ。
「そんなデタラメな避け方じゃ、戦場じゃソッコーで死ぬぞ。今のはだいぶ手加減したけどな。これがモンスターだったら…」
「うぅ…ご、ごめんなさい…白狼様…」雪ちゃんは目をうるうるさせて、「わ、わたし…次…次はちゃんと見ますぅ…」
「ん、分かればよし」俺は頷き、雪ちゃんに手を差し伸べて引き起こした。「もう一回だ!続けるぞ!」
その後も何回か続けたが、雪ちゃんはやっぱり目をつぶってデタラメに避ける癖がなかなか抜けなかった。
「雪ちゃん!目を開けろ!俺の攻撃の軌道をしっかり見ろ!」
「そっちに避けたら俺の攻撃にドカンだぞ!このバカ!」
俺は何度も怒鳴りつけ、同時に手本を見せた。繰り返し俺にどやされ、クラブが何度も体をヒュンヒュンかすめるのを目の当たりにして、ようやく恐怖で目をつぶっちまう悪いクセもマシになってきた。必死に目を開けて、なんとかマシな避け方ができるようになってきた。
「そう!その調子だ!続けろ!」雪ちゃんが本気で観察し始めた途端、例のぶっ壊れ素早さバフも相まって…あいつの上達スピードは、マジでチート級だった!ただ左右にピョンピョン跳ねるだけだったのが、だんだん体をひねったり、バックステップしたり、果ては見てるこっちがヒヤヒヤするような潜り込み避けまで覚えやがった。
「いいぞ!どんどん様になってきたじゃねーか!」俺は褒めつつ、攻撃のスピードと威力を徐々に上げていった。
しまいには、俺もほぼフルパワー、フルスピードで追い詰めたんだが、何度「もらった!」と思っても、雪ちゃんは土壇場で、ありえねぇ体勢で体をグニャリとくねらせて、ギリッギリでかわしやがるんだ!
「はぁ…はぁ…くそ…なんだコイツ…!」また全力で空振りした後、俺は思わずクラブに体重を預けて、ゼェゼェと肩で息をした。雪ちゃんも動きを止め、同じように汗びっしょりで、顔をぽっぽと赤らめていたが、でも瞳はキラキラと輝いていた。
「白狼様…い、今の…すごかった…!」雪ちゃんは息を切らしながら言った。
「すげぇのはお前の方だろ…」俺は苦笑して首を振り、どっかりと地面に座り込んだ。
「正直なところ…雪ちゃん、お前の物覚えの速さには、マジでビビったぜ」俺は彼女を見上げ、感心したように言った。「おまけにあの素早さバフだろ…もう完全に追いつけねぇよ。そのレベルなら…ぶっちゃけ戦場に出ても全然問題ねぇ」
「ほ、ほんと!?やった――っ!」雪ちゃんは嬉しそうにぴょんと跳びはね、満面の笑みを浮かべた。さっきまでの恐怖や緊張は、すっかり吹き飛んじまったみたいだった。
「ああ、本当だ」俺は頷いた。「それに、その回避スキルと、お前のマシュマロ杖のモンスターを引き付けるスキルを組み合わせれば…もしかしたら、めちゃくちゃ強いサポーターになれるかもしれねぇぞ!」
「わぁ…モンスターを引き付けて…それでシュシュシューって避けるの…なんだか…なんだか面白そう!」雪ちゃんの目はキラキラ輝いて、もうそんな光景を想像してるみたいだった。ふぅ…これで少しは自信を取り戻してくれたかな。
俺たちは二人で廊下の端っこに腰を下ろし、静かに外に広がる満天の星空を眺めていた。
しばらくして、雪ちゃんが小さな、少し震えた声で口を開いた。
「ねぇねぇ…白狼様…」
「ん?」
「今日の夜…こ、こうして白狼様とご一緒できて…わ、わたし、ほんとに…うぅ…嬉しい…です…」彼女はそう言って、声を詰まらせちゃったけど、無理に笑顔を作って、目には涙がキラって光ってた。「ほんとはね…わたし、すっごく怖くて…死んじゃうのが心配で…で、でも…白狼様と特訓して…いっぱい色んなこと教えてもらって…なんだか…うぅ…そんなに絶望しなくてもいいのかなって…」
彼女は鼻をすんっとすすり、涙がやっぱりポロポロとこぼれ落ちたけど、でも顔の笑顔はもっと輝いていた。
「わ、わたし…今日の夜のこと、絶対に忘れません…本当に…ありがとうございます…白狼様…うぅ…」
その言葉を聞いて、俺の心臓が、なんか柔らかいもんで軽くキュンとした。
「俺もだ」俺は努めて冷静な声で言った。「お前がこんなに早く成長するのを見てると、俺も…もしかしたら、俺たちにもまだ希望があんじゃねぇかって思うぜ」
「うん…うん!」雪ちゃんは何度もコクコクと頷き、涙を拭った。顔にはまだ涙の跡が残っていたけど、子供みたいに笑っていた。「私たち、きっと大丈夫だよ!」
「さて、もう遅いな」俺は立ち上がった。「そろそろ戻って寝るか。明日も厳しい戦いが待ってるしな」
「はい!わかった!」雪ちゃんも慌てて立ち上がり、さっきよりずっと元気そうに見えた。
俺たちは一緒にロビーへ戻った。ほとんどのプレイヤーはもう寝静まってるみたいだった。けど、何人か夜更かし組もいたな。
ハンスのやつは何か機械をいじっていて、周りの地面にはいろんな機械部品がゴロゴロ転がっていた。エミリーは何か薬を調合していて、周りにはたくさんの瓶やら何やらが並んでいた。
俺は壁際の比較的スペースがある場所を見つけて、そこで一晩過ごすことにした。
俺がちょうど目を閉じようとした時、雪ちゃんがそっと近づいてきた。
「あの…白狼様…」
「ん?どうした?」俺はちょっと訝しんで目を開けた。
彼女は俯いて、頬をぽっと赤らめ、指先で不安そうに服の裾をいじっていた。声は蚊の鳴くように小さくて、「わ、わたし…あ、あの…一緒に…寝ても…いい…ですか…?」
俺がすぐには返事をしなかったので、彼女は俺が誤解したと思ったのか、顔をカッと真っ赤にして、慌てて付け加えた。「ち、ちがっ、そういう意味じゃなくて!そ、その…白狼様って、なんだか…うん…安心できるから!わ、わたし、ただ…まだ一人だとちょっと怖くて…だ、だから白狼様のそばにいたいなって…だ、ダメ…かな?」
あぁ…そういうことか。
そんな風に潤んだ瞳で、期待を込めて見つめられたら、俺は心の中でため息をついた。まぁ、仕方ねぇか。こいつもまだただの女の子だしな。
俺は周りを見回した。ハンスとエミリーは自分の作業に没頭してるし、他のやつらはぐっすり眠りこけてる。たぶん…誰も気づかねぇだろ。
「…いいぜ」俺は頷いた。
「やったぁ!ありがとう、白狼様!」雪ちゃんは小声で歓声をあげ、それからおずおずと俺の隣に座り、そっと…俺の肩に頭を乗せてきた。
ん…悪くねぇな。雪ちゃんの体からふんわり香る、フルーツみてぇな甘い匂いと、ちいさな温もりが、なんか妙に落ち着いた。
雪ちゃんの寝息はすぐにすーすーと穏やかになって、マジで疲れきってたんだろうな、ほとんど秒で寝ちまった。
やれやれ…こいつ、無防備すぎだろ。
俺は苦笑しつつ、俺も目を閉じた。
すぐに眠気が襲ってきて、まぶたがだんだん重くなってきた。いつの間にか、俺もあっという間に夢の世界に落ちていった。




