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47 素早さ二倍!雪ちゃんの大勝利

「ようこそSW-4837、賭けの種類をお選びください」機械じかけのジョーカーの声が響いた。


「え、えっと…選ぶのは…『ストリート』で!」


ええっ!?ストリートだって?!ストリートって、横一列の3つの数字に賭けるやつだろ?オッズは高いけど、さっき俺が選んだ『コーナー』より当たる確率は低いぞ!こいつ、マジで勝負に出たな!ラスボス戦の前に、一発デカいのを狙うつもりか?


「連続する3つの数字をお選びください」雪ちゃんの声は蚊の鳴くようにか細かった。


「わ、わたし…22、23、24で!」


機械じかけのジョーカーがルーレットを回した。ボールが盤上を勢いよく転がり始めた。


「ひぃっ!」雪ちゃんは思わず両手でぎゅっと目を覆って、指の隙間からこっそり覗くだけだった。小さな体は緊張でぷるぷる震えて、ツインテールも一緒に揺れていた。


正直、俺までちょっと緊張してきた。頼むぜ、カルテルのおっさんの超理論!当たってくれよ!


ボールはだんだんスピードを落として、ついに…


カラン——!


ボールはぴたっと止まった、数字『23』のマスに!


「あ、当たった…!?」雪ちゃんは信じられないって感じで手を下ろして、うるんだ大きな瞳でルーレットを見つめた。


「おめでとうございます!報酬:素早さ+100%」


「やったー!!す、すごいー!!!」雪ちゃんは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねて、小さな拳をぶんぶん振り回してる。ほっぺは赤くなって、笑顔はお花みたいに満開で、全身からキラキラしたオーラが溢れ出してるみたいだった。えいえいって感じが超かわいい!


素早さ+100%?!うぉぉ!マジかよ、すげえ!スピードが倍になるってことじゃん!これで雪ちゃんの戦闘での生存率も、めちゃくちゃ上がるはずだ!大当たりじゃん!


俺と雪ちゃんの成功を見て、後ろにいた何人かのプレイヤーが勇気を出して、カルテルに自分の番号を伝えに行った。


カルテルはモノクルをくいっと押し上げ、紙の上で素早く何か計算すると、予測した数字を告げた。


しかし…その後の結果は、まあ悲惨なもんだった。


「くそっ!15だと!カルテルさん、あんた8だって言ったじゃないか?!」トーマスはペナルティを食らって、顔面蒼白になって怒鳴った。


「うわぁ!俺の予想は26だったのに!なんで3なんかで止まるんだよ?!」別のプレイヤーが頭を抱えて叫んだ。


その後も立て続けに何人か挑戦したが、報酬だろうとペナルティだろうと、実際に出た数字は、カルテルの予測とはかすりもしなかった。


「ふむ…おかしいな…データポイントのばらつきが急に大きくなった…」カルテルは眉間にしわを寄せ、数式だらけの紙を見つめて考え込んでいる。「まさか、『メタ・ルール』自体に高次元のランダムなゆらぎが存在すると?いや、あるいは関数フィッティングの選択が誤っていたか…いや、ベイズ推定の観点からすると…」


おいおい、おっさん、またワケわかんないこと言い始めたぞ!


周りで顔をしかめているプレイヤーたちを完全に無視して、カルテルは一人で紙に書き込んだり消したりしながら、ぶつぶつと何か呟いている。


「うーむ…モデルの修正が必要だ…パラメータを調整するためにもっとデータが…そこの君、悪いがベットしてくれないか?君のデータは私の研究にとって非常に価値があるんだ!」カルテルは顔を上げて隣にいたナパッタポーンを見た。


「えっ…」ナパッタポーンはビビって後ずさった。「い、いえ、結構です!カルテルさん、君の研究は高度すぎて、お、俺には無理です!マジで!」


うわっ!こいつ、完全に他のプレイヤーを実験台にしてるじゃねえか!まあ、俺は計算のおかげで助かったけど、この研究バカっぷりは、ちょっと距離を置きたくなるな。


その時だった…ぐうぅぅぅ——


俺の腹…が鳴った?


俺だけじゃなく、周りからも気まずそうにお腹の音が聞こえてきた。どうやら、みんな腹ペコみたいだ。そりゃそうか。こんなに動き回ってれば、もう飯時だよな。


「みんな腹減ってるみたいだし、とりあえず飯にするか?」と俺は提案した。


みんな、こくこくと頷いた。周りを見渡すと、ロビーに集まっているのは…せいぜい30人ちょい。ダンジョンに入った時より、かなり人数が減っている。他の奴らは…はぐれたのか、それとももう…そこまで考えて、俺は思わず眉をひそめた。


俺はシステムUIを開いて時間を確認した。カウントダウン…残り16時間27分。時間…思ったより、ないな。


「今夜はここで休まない?明日の朝イチでボスに挑むの」とエミリーが提案した。


「賛成!しっかり休んでおくのは大事だ」ハンスが珍しくまともなことを言って同意した。


というわけで、俺たちはロビーの比較的広い隅っこに陣取り、それぞれ持ってきた食料を取り出した。たちまち、パンや缶詰、それに色んなお菓子の匂いが辺りに漂い始めた。


みんなで輪になって座り、食べながら雑談を始めた。


「明日で…最後の日か…なんだか時間が経つのがすごく早く感じたり、逆にすごく遅く感じたりするわね」とヤスミンがため息をついた。


「あのパペットジョーカーって…名前を聞くだけでもう怖いよな…」カレンがぶるっと身震いした。


「それより、どんな攻撃してくるかが心配だぜ」トーマスがビスケットを齧りながら、心配そうに言った。「前のタコのボスだって、相当ヤバかったからな」


「俺は精神攻撃とかないか心配だな」とナパッタポーンが小声で言った。「ジョーカーってなんか、陰湿なことしてきそうじゃん?」


その時、パンをもぐもぐ食べていた雪ちゃんが、そっと俺の隣に寄ってきて、俺の服の裾をくいくいっと引っ張った。


「ねぇねぇ…白狼様…」彼女は顔を上げて、大きな瞳をぱちぱちさせながら俺を見つめて、甘えた声で言った。


「ん?どうした、雪ちゃん?」


「きょ、今日の夜…あのね…戦い方、教えてくれませんか?」小さな手で俺の服の裾を掴んだまま、こてんと首を傾げて、まるで餌をねだる小動物みたいだ。「わ、わたし、いつまでも後ろに隠れて、みんなに迷惑かけたくなくて…わたしも…力になりたいの!みんなを守りたい!」


戦い方を教える?頬をちょっと赤らめて甘えてくる姿を見たら、断れるわけないよな。


「ん…わかった。」俺は頷いた。


「やったぁ!ありがとう!」雪ちゃんはすぐにぱあっと笑顔になって、目を三日月みたいに細めた。「じゃあ…じゃあ、2時間後に、ロビーの外の廊下で待ち合わせ、でいいかな?」


廊下?なんでわざわざ外なんだ?ちょっと変な気もしたけど、俺は頷いた。


「ああ、それでいいぜ。」


雪ちゃんは嬉しそうに「うん!」って頷くと、俺の服の裾から手を離し、またパンをもぐもぐし始めた。


俺は別の方向に目を向けた。ハンスが古びたキーホルダーを手にして、指でしきりにそれを撫でている。目はどこか遠くを見ていた。


「ハンス、それ…大事なもんなのか?」俺はなんとなく聞いてみた。


「ん?これか?」ハンスは我に返って、キーホルダーを俺に見せてくれた。「娘がくれた誕生日プレゼントなんだ。」


娘?!マジかよ!ハンスのやつ、父親だったのか?!全然見えねえ!


「これはエニグマ暗号機のミニチュアモデルだよ。第二次大戦でドイツ軍が使ってたやつ」とハンスは少し優しい口調で説明した。「小さいけど、かなり精密にできてるんだ。うちの4歳になる娘がこんなのわかるわけないんだけどな。たぶん店で適当に選んだんだろうけど、でも…結構気に入ってるんだ。」


彼は少し間を置いて、懐かしむような表情を見せた。「なんでか…これもこのクソゲーに持ち込まれちまってさ…はぁ、早く帰ってあいつらに会いたいもんだぜ…」


なるほどな…ハンスみたいなお調子者にも、心配してる家族がいるんだな。このクソみたいな場所は、一体どれだけの人を巻き込んでるんだか…


みんな口々に話し続けていたが、話題はどうしても明日のラスボスのことに戻ってしまう。わざと明るく冗談を言うやつもいれば、顔に浮かんだ疲れや不安を隠せないやつもいた。そりゃそうだ。あのドアを開けた先に何が待っているかなんて、誰にも分からないんだから。


そろそろ時間か。


俺は立ち上がり、服についたパンくずを払った。


約束の場所に行かないとな。


俺はロビーのドアに向き直ると、ゆっくりと手を伸ばして、それを押し開けた。

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