45 ハンスの決死の観覧車修理
下の他のゴンドラから、プレイヤーの悲鳴やざわめきがかすかに聞こえた。突然止まり、みんなパニックになっているようだ。
「なんだ?引っかかったのか?」ハンスは眉をひそめ、イラついた様子で壁をコンコンと叩いた。「ちっ、外に出て確認できりゃいいんだが。どっかの部品でも外れたのかもしれん」と、ため息をついた。
「外に這い出すつもり?」カイナが不意に言った。「ここにロープがあるわ」そう言うと、彼女は肩にかけていたバッグから、本当にロープの束を取り出した。かなり長そうだ。
「うおっ、お前、そんな長いロープ持ってきてたのか?」ハンスの目がキラッと光った。「だが、もしかしたらマジで試せるかも!ロープで下に降りて、回転軸あたりを調べてみるってのはどうだ?」
「おい!ハンス!正気か?!」俺は思わず叫んだ。「ここから降りる?落ちて死んだらどうすんだ!」こいつ、メカトラとなるとすぐ自分で何とかしようとする。場所を考えろ!
「同感だ!この高さから落ちたらミンチだぜ!」ラマールも恐怖に引きつった顔で頷いた。
「だが、ここで何もしないでいても状況は良くならねぇだろ」ハンスは肩をすくめたが、表情は妙に落ち着いていた。「誰かが見に行かなきゃならんだろ?」
言いながら、ハンスはもうカイナからロープの端を受け取り、手慣れた様子で腰にしっかりと結び目を作っていた。「よし、力のあるやつはロープの反対側をしっかり持っててくれ。俺は外の鉄骨を伝って降りて様子を見てくる」
ハンスは窓際へ。窓はさほど大きくなかったが、一人ぶん通り抜けられるスペースはあった。
「おい!マジで行くのか?」俺はやっぱり無茶だと思った。
「心配すんな、気をつけるさ」ハンスは俺の肩をポンと叩くと、深呼吸して素早く窓の外へ這い出し、外側の鉄骨を掴んだ。「準備OKだ、ロープを降ろしてくれ!」
ゴンドラの中の俺たちは、慌てて全員でロープのもう片方の端をしっかり握りしめた。
「いくぞ!」俺が叫ぶと同時に、手にズシリと重みがかかった――うおっ、こいつ、見た目より全然重いじゃねえか!まったく!
みんな固唾を飲み、慎重にロープを操り、ゆっくりハンスを降ろしていった。窓の外では、ハンスの体が巨大な鉄骨に張り付くように、少しずつ観覧車の中心にある巨大な回転軸へ下りていく。俺の心臓はバクバク高鳴り、手のひらには汗がにじんだ。万が一、手が滑ってこいつを落としたらどうしようと気が気じゃなかった。
しばらくすると、下から少し反響したハンスの声。「あったぞ!小さい歯車が外れて脇に引っかかってやがった!」
続いて、下から金属がぶつかるような音や、何かを探るような音。こいつ…マジか?こんなとこで修理し始めたのか?!まさか、調子に乗って観覧車をバラバラにしちまったりしないだろうな?俺たちの命を乗せてるんだぞ!強烈な不安が胸にこみ上げた。
俺が内心でツッコミを入れていた、その時――
ガギィィン!!
突然、甲高い金属音が響き渡り、観覧車全体がガクンと大きく揺れた。そして――なんと、再びゆっくり動き出したのだ!
「うわああああぁぁぁーーーっ!?」直後、下からハンスのすさまじい絶叫!
ロープがぐいっと外へ引っ張られた!窓から下を見ると、ハンスが振り子みたいに外へ放り出され、宙ぶらりんになって危なっかしく揺れている!手足をバタつかせ、必死に何かを掴もうとしているのが見えた!マジで心臓が止まるかと思った!
「急げ!引き上げろ!早く!!全員、力で引けぇぇ!!」俺は喉が張り裂けんばかりに叫んだ。ロープが凄まじい力で手に食い込み、めちゃくちゃ痛い!
全員がすぐ反応し、それこそ火事場の馬鹿力で、顔を真っ赤にしながら死に物狂いでロープを手繰り寄せた。
「う、うおおおっ!」「も、もっとだぁぁぁっ!」
ロープが少しずつ手繰り寄せられていく。その1センチが永遠にも感じられた。ようやく、恐怖と酸欠で幽霊みたいに真っ青になったハンスの顔が窓から再び現れた。俺たちはわらわらと寄ってたかって、文字通り引っ張り込むようにして、なんとかハンスをゴンドラの中へ引きずり込んだ。
「はぁ…はぁ…っ、…び、びびった…死ぬかと思った…マジで…あとちょっとで…異世界転生しちまうところだったぜ…」ハンスは床にへたり込み、ゼェゼェと激しく息をしながら、しばらくして落ち着きを取り戻した。「あの歯車…さっき無理やり押し込んだら…そ、そいつが勝手に…動きやがって…ゲホッ、ゲホッ…」
まったく、こいつは運がいいんだか悪いんだか…
ともあれ、観覧車は動きを取り戻した。相変わらずのんびりしたスピードだったが、確実に俺たちを乗せてさらに上へと登っていった。
ゴンドラはゆっくり回転し、やがて最高地点へ達した。俺は無意識に目的地の空中回廊方向へ視線を向けた。
回廊のプラットフォームとゴンドラが同じ高さになったその瞬間、視界の隅にぼんやりした残像が映った――壁に、固く閉ざされた金属ドアが見えた気がした。病院のような、それでいてSFチックなデザインで、赤い文字で「MT-001」と書かれていたような…?だが、一瞬で視界から消えた。
「おい、今なんか変なドア見えなかったか?」俺は思わず尋ねた。
「え?ドア?」雪ちゃんはぱちぱち瞬きした。「うーんとね…なんか赤いものがサッて通り過ぎたような…?でも、よく見えなかったかな、白狼様」
「ドア?いや、見てねぇな」ハンスはまだ息を切らしていた。
「全然、気づかなかったわ」カイナは首を横に振った。
他のプレイヤーも、誰も見ていないようだった。
俺の見間違いか?それとも…?まあいい、今はそんなことを考えてる場合じゃない。
ゴンドラと回廊プラットフォームが接続されたわずかな時間を見計らい、俺たちは急いでドアを開け、空中回廊へ飛び移った。しっかりした地面を踏む感覚は、やっぱり最高だ。
プラットフォーム端で少し待っていると、後続ゴンドラのプレイヤーたちも次々到着して回廊へ降りてきた。
「行くぞ」俺はみんなに合図して、広々した空中回廊を、あの壮麗な宮殿風建物に向かって歩き始めた。
近づくにつれて、その宮殿がいかに巨大か実感できた。そして、その大きなドアの前にたどり着いた時には、そのクラシックで荘厳な雰囲気に、思わず息を呑んだ。
重々しい観音開きのドアを押し開けると、そこはちょーーーっ広いロビーだった!高く吹き抜けた天井からは、巨大すぎて笑っちゃうレベルのシャンデリアがいくつも吊り下げられ、キラキラ輝いている。四方の壁には、よく分からない壁画や精巧な浮き彫りが飾られ、床には思わず寝転がりたくなるくらいふかふかの赤い絨毯が敷き詰められている…こ、これ、どんだけ豪華なんだ?!
「きゃあああーーっ!白狼様、見て!すっごく綺麗ーーっ!キラキラだよぉ!まるでおとぎ話のお城みたい!」雪ちゃんの目は、あっという間にキラキラのお星さまになった。小さな頭をキョロキョロ忙しなく動かしながら、俺の袖をくいくいっと引っ張る。興奮で頬を赤く染め、その声は驚きと感動で弾んでいた。
内装はとてつもなく豪華絢爛なのに、このだだっ広いロビーには不気味なくらい静寂が満ちていて、ゾッとする。
はしゃいでいる雪ちゃんの向こうに視線をやると、ロビー突き当たりにある、固く閉ざされた観音開きのドアが目に入った。ドア中央には、あの巨大で、鮮やかな赤いモンスター頭のマークが!またこいつだ!前にタコボスがいた場所や、チェーンソー・ジョーカー軍団が閉じ込められていたゲートでも見たやつだ!
それを見た瞬間、以前味わった恐怖がフラッシュバックして、思わず息が詰まる。あのドアの向こうに…たぶん、マリアンが言っていたラスボス、「パペットジョーカー」がいるんだろう。
俺たちがボスのドアを睨みつけていると、ロビー右奥の隅から、聞き覚えのある機械的な呼び込みの声。「いらっしゃい、お賭けはお一人様一回限りですよ。いらっしゃい、お賭けはお一人様一回限りですよ」
声がした方へ近づくと、案の定、そこにはジョーカーのルーレットテーブルが置かれていた。こいつを見るのも、もう三度目か。




