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3 攻略の神からシステムエラー

はぁ——


俺は息を吐き出して、MindLinkデバイスを外した。額も首筋も汗でベタベタだった。


ぐるりと十畳ほどの部屋を見渡すと、そこはもう悲惨な有様だった。床にはマンガがあちこちに散らばってるし、ベッド脇の棚にはアニメグッズが山積み。あ、そうだ、ランプシェードには靴下が引っかかってて、なんとも言えない…そう、次元の壁をぶち破るほどの強烈なニオイを放ってる。たぶん…三日くらい洗ってないのかな?


ぐぅぅ~~


腹が大きな声で抗議した。だるい足取りで冷蔵庫を開けると、カビ臭い冷気が顔にぶわっと来た。一番下の隅っこに、色あせたパッケージのカップ麺が一つ転がっていた。


「はぁ、現実世界のラスボスは…貧乏かよ」ソースの袋を破りながら、ぶつぶつ呟いた。お湯がうっかりマウスパッドに跳ねて、焦げ跡がついちまった。「くそっ、これ食ったら…次は絶対コンビニで補充するぞ…たぶん。」


高校出てから何年経ったっけ?もう数えるのもめんどくさい。とにかく俺はこうして東京郊外の安アパートに引きこもって、毎月母が送ってくる「餌代」で生活し、たまにコンビニで夜勤のバイトをするくらいだ。この前母とビデオ通話した時、俺の後ろのアニメポスターだらけの壁を見てため息をついてた。「あんたの部屋、お父さんより散らかってるわよ…」ってさ。


カップ麺をすすりながら、『インフィニティ』の公式フォーラムにログインした。右下に通知が20件くらいポンポンって表示された。「『灼熱の荒野』ダンジョンテンプレート追加」?その告知タイトルを見て、麺を吹き出しそうになった。


「またかよ?」俺はやれやれって感じで、キーボードを叩いてコメントした。「公式テンプレート?AI生成のダンジョンがテンプレート通りだったことなんてねーだろ?前回これを信じたヤツは、今頃『マグマ火山』の溶岩で風呂入ってるぜ。」


マウスホイールで掲示板をスクロールすると、助けを求めるスレが目に飛び込んできた――『『戦國古城』の攻略法急募!『氷雪の荒野』のやり方で挑んだら矢だらけになった(´;ω;`)』


「アホか!」俺はフォークを咥えながら、キーボードをガンガン叩いた。「おいおい!侍の射撃軌道が放物線になったのは2ヶ月前だろ!古い攻略使ってて、誰が撃たれねぇってんだ?つーか、お前が隠れてた柱、梅の紋様入ってなかった?」


スレ主が即レス。「白狼様どうして知ってるの!?柱からいきなり毒針がプシューって!」


「だってAIは和風ダンジョンに『サプライズ』仕込むの大好きだからな。」俺はギシギシ鳴る木の椅子にもたれかかった。はぁ、新人は基本的な罠の仕組みすら分かってねぇ。AIより話が通じねぇよ。


DMウィンドウがピコピコ光った。ID「ぷかぷかアヒル」から動画が送られてきた。「白狼様!『スチーム工場』で歯車ハメ使ったら、コンベアが逆回転しちゃったあああ!」


俺は動画を一時停止して、錆びたバルブをじっと見つめた。「湿度が70%超えると逆回転ギミックが発動するんだよ」去年のパラメータ対照表を貼ってやった。「次はまず天井の結露パイプを壊しとけ!」


相手の「入力中」が十分くらい点滅した後、ようやく返ってきたのは、「どうやって…UI出して数値見るの?」


ゴン!額がキーボードにぶつかった。こいつバカか?!2年前に俺が書いた『初心者ガイド』がまだまとめに残ってるだろ!今の新人はあれすら読まねぇのか?


「『ステータスバー』って文字を心の中で念じろ」ズキズキする頭痛をこらえながらタイプした。「自然に、コップ取るみたいに…力みすぎるなよ。前に念力でニキビ潰そうとしたヤツが自爆ボタン誤爆したからな。」


教えを続けようとした時、ふとあるタイトルが目に入った――『ディスコ螺旋の豆知識10選!リズムに乗ってゾンビを踊らせろ!byゴールド攻略兄貴』。クリックしたら、カップ麺をひっくり返すところだった。


「その1:歩きながら鼻歌を歌うとゾンビがリズムに合わせて揺れる?」俺は添付画像のぐにゃぐにゃしたネオンゾンビを見て鼻で笑った。「前回これ信じたバカは、脳みそを何回ゾンビに食われたことか!」


DMウィンドウに即座に煽りメッセージが飛び込んできた。「白狼様、流行りに嫉妬?この方法は百回以上検証済みだぜ!」


「百回?」俺は自分の4ヶ月前のクリア記録を貼り付け、0.5秒の攻撃の隙間をマークしてやった。「20倍スローでゾンビに股間掴まれるとこ見せてやろうか?ポップコーン買っとけよ、お前がやらかすシーンはハリウッド映画より面白いぜ。」


相手は即レスしてきた。「てめぇ何も分かっちゃいねぇ!これは上級者向け攻略だ!」


「ゾンビにブレイクダンス踊らせるほど上級者向けってか?」椅子から転げ落ちそうになるほど笑った。「ネオンゾンビの攻撃頻度はBPMと連動してるし、曲ごとに遅延補正もあるんだよ。お前の攻略のエラー率は『マグマスライム』の体温より高いぞ!」


フォーラムは一瞬で炎上した。『最前列で神のツッコミ見物』『ゴールド攻略兄貴、はよ反論しろ』『白狼ブランドの攻略は賞味期限最低3年』とのコメントが乱れ飛ぶ。ページを更新したら、スレ主のIDは「非公開アカウント」に変わってた——まるで『トイファクトリー』のトラップチェストみたい、外見はキラキラで中身は空っぽだ。


また別の人気スレがトップに上がってきた――『3分でわかる嵐風の大地スピード攻略!by 疾風の剣聖』。俺は呆れて言葉もなく、スレを開いて動画をチェックした。竜の形のヘルムを被ったプレイヤーが大げさな口調で解説していた。「よう、ダチども!この竜巻の目が見えるか?俺様みたいに華麗な720度ジャンプすれば…」


そいつは一瞬で竜巻に引き裂かれ、画面には「プレイヤー『疾風の剣聖』がダンジョンから退出」のシステムメッセージが表示された。


「ぶはっ!」俺は口の中のカップ麺のスープを吹き出した。「名前を『疾風の墜落』に改名したら?回転技もっと練習しろよ。着地姿勢、うちの猫がタンスから落ちるよりダサいぞ。 #俺の攻略パクるな #しかも要点間違えてる #偽物の日常転落劇」


コメント欄はすぐに「白狼キタ━(゜∀゜)━!!」「この攻略、使えるか鑑定よろ」「www 偽物またやらかしたか」みたいなレスで溢れた。俺はコメントを眺めながら椅子をギシギシ揺らした。こうしてヤクザの親分扱いされる感じ…悪くないんじゃね?


DMの通知音が鳴りやまなくなった。「白狼様ファンクラブ」ってタグをつけたIDから泣き顔マークが送られてきた。「寂夜Ravenの攻略通りに『ラディエーション荒野』やったら、触手モンスターが突然変異しちゃった!」


「放射線モニター切ってるからだバカ!」俺は3ヶ月前の実験データを貼り付けた。「AIはお前が探知機使ってるのに気づくと変異率を上げるんだよ…」そこまで打って、俺はふと手を止めた。


埋もれていたあるスレが俺の注意を引いた――『AI生成法則17の仮説――by データカタツムリ』。スレ主は300個のダンジョンのデータを統計して、「廃墟」系マップでは63%の確率で第3エリアにエリートモンスターが配置されることを発見していた。


「これ、去年リークした『太古の神殿』のパラメータじゃねぇか?」俺は素早く返信した。カップ麺のスープがぽたっと垂れた。「4ヶ月前の『ディスコ螺旋』の音響トリガーコード…やっぱり第5エリアに隠されてたか!」


フォーラムを閉じようとしたその時、右下に緊急告知が表示された――『MindLinkログイン異常集中報告スレ』


スレ主が貼った写真では、MindLinkデバイスのインジケーターランプが、まるで『クリスタル鉱洞』の血コウモリの目みたいに、不気味な暗い赤色で点滅していた。コメント欄は急速に膨れ上がった。「『視界がモザイク状になった』『神経同調率が急降下』『センサーユニットから漏電』…」


俺は机の上のMindLinkデバイスを掴んだ。いつもは青く光るロゴが、今はまるで脈打つように、奇妙なリズムで点滅していた。


「一回だけ試してみよう…」すぐにデバイスを装着した。聞き慣れたログイン音が鳴った瞬間、頭皮にビリビリッと痺れるような痛みが走り、バチバチという電流の音が響いた。視界が一瞬で血のように赤い警告メッセージで埋め尽くされた――


[SYSTEM_OVERRIDE: SW-5012]

[REINITIALIZING NEURAL PATHWAY...]

[ERROR CODE: 0x7E3F_88A1]

[CRITICAL FAILURE IN SECTOR 12]


「何だこれ…」俺はログアウト画面を出そうとしたが、どうやら反応しない。目の前をデタラメなコードが高速で流れ去っていく。まるで『データアビス』の捕食者のようだ。


「切断だ!早く切れ!」俺は必死にログアウトコマンドを念じた。この方法は2年前、『氷雪の荒野』で俺の命を救ったやつだ。だが今回、システムの応答はこれだけだった――


[コマンド受信失敗、SW-5012優先モード実行中…]

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