22 迷宮での束の間の休息
ロビー内には絶望の泣き声、罵り声、壁に体を打ち付ける音が充満していた。この光景はホラー映画よりもゾッとするほど恐ろしかった。
正直、俺の心も不安でいっぱいだった。こんな場所に閉じ込められて、食料は限られ、時間も限られている。ここから出られなければ死ぬしかない。でも、それを表に出すわけにはいかなかった。みんながさらにパニックになってしまう。
グゥルルル~
俺の腹から大きな抗議の音が鳴り響いた。壁の隙間から外を覗くと、すっかり暗くなっていた。カウントダウンを確認すると、もう夜の8時頃だろうか。
「みんな、落ち着いてくれ!」俺は立ち上がって大声で言った。「もう暗くなったし、何か食べて、ここで一晩休もう。明日になったら——」
でも誰も聞いちゃいなかった。
皆は依然としてパニック状態で、てんでバラバラに騒ぎまくってる。俺はそこに立ったまま、まるでジョーカーのような気分だった。
バキッ!
突然、大きな音がロビー中に響き渡った。
ハンスが大理石の花瓶を掴むと、それを容赦なく床に叩きつけた。破片がチリチリと飛び散り、その音に全員がビクッと飛び上がった。
「てめぇら、このクソ野郎ども!」ハンスが怒鳴り散らした。「いい加減にしろって言ってんだろ!さっさと静かにして、大谷の話を聞け!まだ騒ぐんなら、その頭を花瓶みたいに叩き割ってやるぞ!」
ロビーはシンと静まり返った。
「ひぃっ!!」痩せた男性プレイヤーが恐怖に悲鳴を上げた。全員が凍りついたようにハンスを見つめていた。さっきまで暴れていたプレイヤーたちも、おとなしく静まり返り、このドイツ人の巨漢を震えながら見ていた。
俺もハンスの行動に驚いていた。
「そ…そこまでしなくても…ハンスさん…」俺は気まずそうに咳払いをした。
「ふん!」ハンスは腕を組んで言った。「大谷、続けろ」
「えっと…」俺は喉を鳴らして続けた。「とにかく、もう夕食の時間だし、何か食べて一晩休もう。このロビーは十分広いし、みんなで集まっていた方が安全だ。明日頭がすっきりしたら、きっと出る方法が見つかるさ」
みんなは元気なく頷いた。
「うん…」
「まあね…」
俺たちはそれぞれが持っていた食料を取り出し始めた——パン、缶詰、クッキー、飲み物などだ。
「ありがとう、ハンス」俺は小声で彼に言った。「さっきは助かったよ」
「ドイツ人は非効率なことが大嫌いだ」ハンスは俺の肩を叩いた。「あんな役立たずの泣き声を聞くより、体力を温存して手がかりを探した方がいい」
雪ちゃんがピョンピョン跳ねながら近づいてきた。手には小さなパンと果汁の缶を持っている。
「ねぇねぇ~白狼様~ここ、隣、いいかな~?」彼女はウルウルした大きな瞳をパチパチさせた。
「もちろんいいよ」俺は微笑んで答えた。「早く何か食べなよ」
「うんうん~雪ちゃん、白狼様と一緒にご飯食べるの大好き~」雪ちゃんは嬉しそうに座り、パンを一口かじった。「あ~ん…おいしい~ただのパンなのに~白狼様と一緒に食べると、超~美味しくなるんだよね~」
「パンくらいでそんな萌え萌えすんなよ…」俺は呆れてツッコんだ。
食事をしているうちに、みんなの気持ちは少し落ち着いてきたようだった。
「なあ」探偵風の服装をしたプレイヤーがコーラを飲みながら言った。「こんな迷宮を作った奴って絶対サイコパスだよな?」
「これこそ芸術というものさ」カルテルは眼鏡を押し上げながら言った。「狂気と創造性は常に表裏一体だからね」
「芸術がクソくらえだ!」探偵風プレイヤーは不満げに言った。「こんなの精神的虐待だ!」
「気を紛らわすために何かゲームでもしない?」マント風の上着を着た女性プレイヤーが提案した。「たとえばトランプとか?」
「いいね!」ハンスは太ももを叩き、ポケットからトランプを取り出した。「でも普通にカードゲームじゃつまらない。罰ゲーム付きの方が面白いぞ」
「罰ゲームか…」俺の心がドキッと鳴った。
彼は不気味に笑いながら、どこからか手に入れた長い羽をポケットから取り出した。「負けた奴は靴下を脱いで、30秒間くすぐり刑だ!」
「それはちょっと怖すぎるだろ!」あるプレイヤーが驚いて叫んだ。
「白狼様~」雪ちゃんは俺のジャケットの裾をつかんで背後に隠れ、顔の半分だけを覗かせた。「わたし、くすぐったがりなの~こんな罰ゲームやだよ~」
「まず俺の服から離れて…」俺は呆れて言った。
「もっとマトモなゲームはないのか?」探偵風のプレイヤーが文句を言った。「普通のトランプゲームでいいだろ。なんでそんな変態的な罰ゲームをつけるんだよ?」
「そっちの方が面白いからさ!」ハンスは大笑いした。「てめぇらビビリども!」
「人が恥ずかしがる姿が見たいだけだろ…」俺は小声で呟いた。
文句を言いながらも、みんなはハンスの熱意に負けて、集まってトランプを始めた。雰囲気は意外なほど和やかで、まるで命の危険がある迷宮に閉じ込められているのではなく、キャンプの集まりにいるかのようだった。
「ああああ!また負けた!」あるプレイヤーが悲鳴を上げた。
「さあ、刑の時間だ!」ハンスはその羽を振り回し、目には悪魔のような光が宿っていた。「靴下を脱げ、罰を受ける準備だ!」
数人のプレイヤーが集まって、哀れな敗者の手足をがっちり押さえつけた。ハンスはかがみ込むと、羽で少年の足の裏をくすぐり始めた。
「はははははは!くそっ……このドイツ野郎!はははははは!」少年は必死にもがいたが、しっかりと押さえつけられ、涙を流すほど笑っていた。
「どうだ、この感覚は?」ハンスは得意げに手に力を入れた。
「降参だ!降参!殺されるよりつらい!」少年の顔は世界の終わりを見るような歪みようで、周りから爆笑が起こった。
しばらく遊んだ後、俺は少し飽きてきたので、立ち上がって動くことにした。
「ちょっと周りを見てくる」俺は雪ちゃんとハンスに言った。「お前らは続けていてくれ」
俺はロビーの階段に沿って歩きながら、見落としている手がかりがないか探してみた。
三つ目の階段を曲がったとき、黒い短いコートを着たプレイヤーが立っているのが見えた。彼は指を空中で動かしていた。よく見ると、彼の前には半透明のプログラムコードが流れるインターフェースが浮かんでいた。
俺は彼がリオール・ラモス、あのブラジル人ハッカーだと気づいた。
「それは何だ?」俺は近づいて尋ねた。
リオールは俺に驚いたようで、素早く手を振ってインターフェースを閉じた。
「なんでもないよ」彼は振り向いて笑いながら言った。「ちょっとコンソールコマンドを試していただけさ」
「コンソールコマンド?」俺は興味をそそられて聞いた。
「ああ、いくつかのコマンドを入力して、システムに影響を与えられるか試していたんだ」リオールは説明した。
俺の目がパッと輝いた。
「お前、プロのハッカーじゃないのか?この呪われたダンジョンから俺たちを出す方法を見つけられない?」
リオールは無力そうに首を振った。「今の俺の権限じゃ低すぎて、ほとんど何もできないんだ。このシステムのファイアウォールは強力で、まだ解析しきれていない。それにマリアンに常に監視されているから、俺がコマンドを入力するたびに彼女が気づいて、コマンドの流れを切られる可能性がある」
「そうか…」俺は失望して溜息をついた。「せめてこの城の仕組みだけでも解析できないか?」
リオールは再び首を振った。「すまない、迷宮生成アルゴリズムはコア層にあって、今の俺には介入できない。システムの脆弱性を見つけない限り、俺にはどうすることもできないんだ」
時間はあっという間に深夜になった。みんな次々と休む場所を見つけ始めた。俺がロビーに戻ると、すでに多くの人が横になって眠っていた。
俺は一つの隅を選び、壁に背を預けて座った。両手でゴルフクラブをしっかりと握り、胸の前に構えた。
朝に発見したあの二つの死体が脳裏に浮かんだ。誰かが密かに人を殺している可能性がある。警戒を怠るわけにはいかない。とはいえ、これだけ多くの人がいるロビーでは、さすがに誰も堂々と殺人を犯そうとはしないだろう。
「はぁ…」俺はため息をついた。
俺は周りを見回した。ロビーには方々からいびきの音が響いていた。
俺はふぁーっとあくびをした。警戒を解かないようにしていたが、一日中の疲労と緊張で、まぶたがどんどん重くなっていく。
眠気が暖かい流れのようにじわじわと意識を包み込み、俺の頭は知らぬ間にこくりと前へと垂れ下がっていった。




