19 最後のホームラン
ヒッ——あぁぁっ!
全身が氷に覆われる感覚は最悪だ。単に冷たいだけじゃなく、骨の髄まで染み通るような痛みがある。俺は必死に暴れて、足を拘束している氷を壊そうとした。力を入れるたびに小さな氷の破片がパキパキと砕け落ちていくが、想像以上に大変な作業だった。
くそっ!砕けろおおおお!
パリンという鮮やかな砕ける音とともに、両足を覆っていた氷の殻がついに崩れ去った。よろめきながら前へ倒れ込むと、全身の感覚が徐々に戻ってきたが、それと同時により激しい痛みが襲ってきた。凍傷はマジでキツい。皮膚の下を無数の蟻が這いずり回っているような感覚だ。
「大谷!大丈夫か?」ハンスが少し離れた場所から叫んだ。
「… まだ、死んでねえ!」歯を食いしばって返事を返し、無理やり意識を試合の状況へと引き戻した。
タコの体がピクリと縮むと、まるでバネのように高所から飛び降り、再び襲いかかってきた!
「気をつけろ!速さが段違いだ!」俺は叫んだ。恐怖で声が少し震えていた。
タコのスピードは明らかに次元が違った。触手を振り回すスピードが速すぎて、同じモンスターとは思えない。今、下手に触手に突っ込んだら、マジで死ねる。ここは一旦、攻撃は見送るしかないか。
鞭を握った女性プレイヤー——確かミアという名前だったか——が柱の陰に隠れて、タコが近づいてきたところを反撃しようとしているようだ。
「ダメだ、出るな!」俺は彼女を止めようとしたが、もう遅かった。
ミアは身を躍らせ、鞭を高く振り上げ、最も近い触手を狙った。
稲妻のような触手が横から襲いかかり、彼女を一撃で吹き飛ばした。ミアの体が触手に叩きつけられ、ゾッとするような音を立てた。地面に落ちた時には、もう原形をとどめていなかった。
背中に冷や汗がダラリと流れた。クソッ、あの触手のパワー、マジでヤバすぎる!まともに喰らったら、俺の身体なんてスイカみたいに弾け飛ぶんじゃないか?
タコの触手が次から次へと襲いかかり、俺は左右に飛び回り、転がり、跳躍し、かろうじて攻撃を避け続けた。凍傷で全身が悲鳴を上げているってのに、まるで刃の上で踊っているようだ。だけど、今は絶対に気を抜くわけにはいかない!
タコも短時間では俺たちを捕まえられないと悟ったのか、再び柱を登って高所に戻った。天井が再び開き、カラフルなボールが上から降ってきた。
俺は避けながら注意深く観察していた。赤いボールが俺からそう遠くない地面に落ちた時、ボールの爆発効果は衝突直後ではなく、およそ0.3秒の遅延があることに気づいた。もしこの短い遅延を利用できれば…
頭の中でクレイジーなアイデアがピカッと閃いた。
俺は素早く周囲を見回し、雪ちゃんが遠くの柱の陰で震えているのを見つけた。小さな手でマシュマロ杖をぎゅっと握りしめていた。
まったく、この子は最初からずっと隠れてばかりじゃないか。今更、囮役を頼むなんて、いくらなんでも酷すぎるんじゃないか……?
「雪ちゃん!」俺は彼女に向かって走り寄った。
「し、白狼様!」雪ちゃんは驚いて顔を上げ、瞳がパッと輝き、目尻には涙さえ浮かんでいた。「よ、良かったぁ…!白狼様が無事で!雪ちゃん、さっきは本当にビックリしちゃったニャー〜」
「ちょっと頼みがあるんだ」俺は彼女の言葉を遮った。
雪ちゃんの顔色がパッと青ざめ、目をまん丸に見開いた。
「え?た、頼み事……?だ、ダメだよぉ!雪ちゃん無理なの!わ、私なんて、ただ隠れることしか…」
「あの杖、モンスターを引きつけるよね?」俺は素早く説明した。「タコを近くの柱に誘導するのを手伝ってほしいんだ」
「ハンス!ハンス、こっち来てくれ!」俺は振り向いて、少し離れたところにいるハンスに大声で呼びかけた。
ハンスは足早に駆けつけ、車のドアで作った盾を掲げていた。
「どうしたぁ?」ハンスは爽やかに尋ねた。
俺は手短に計画を説明した:雪ちゃんがタコを誘い寄せ、俺がボールを跳ね返し、ハンスが俺たちを守る。
「狂気じみてるな、でも好きだ!」ハンスは胸を叩いた。「任せとけ!」
一方、雪ちゃんは明らかに怯えていて、マシュマロ杖がほとんど握りつぶされそうだった。
「で、でも…タコさん、すっごく怖いもん…もし、失敗したら…」
「失敗なんてしない」俺は彼女の華奢な肩に手を置いた。「俺を信じて、そして自分自身も信じるんだ」
雪ちゃんの瞳に涙が浮かんだが、彼女は唇を噛みしめ、明らかに心の中で葛藤していた。
「わ…わかったの。雪ちゃん、頑張りますっ!」
「タコがまたボールを投げてきたら行動するんだ。雪ちゃん、準備ができたら杖を掲げて」
雪ちゃんは深呼吸をして、まつげにまだ涙を宿したまま、力強くうなずいた。俺はゴルフクラブをしっかりと握り、タコに全神経を集中した。
「じゅ…準備できたよぉ!」雪ちゃんは震える手で杖を掲げた。「え、えっと、三数えるね…」
数える必要もなかった。タコはほとんど即座に雪ちゃんの杖に興味を示し、柱から柱へと跳び移り、あっという間に俺たちから約10メートルほどの柱に飛び移った。
「雪ちゃん、もういいよ!」俺は小声で言った。
雪ちゃんが杖を下ろすと、タコの注意が俺たちに向けられた。奴は触手を一本持ち上げ、その先端で赤いボールが危険な光を放っていた。
タコの触手がビュンと振り抜かれ、赤いボールが俺たちめがけて飛んできた!
その瞬間、時間がスローモーションになったかのようだった。
俺は深く息を吸い込み、心拍を落ち着かせた。「発射物反射」は、残り一回…!絶対に 無駄にはできない。タイミングを完璧に合わせなければ、失敗すれば俺たち三人は焦げカスになってしまう。俺は目を細め、ボールの軌道を凝視しながら呼吸と姿勢を整え、心の中でパーフェクトなホームランを打つイメージを描いた。
発射物反射!
俺は渾身の一撃を放った。
パキン!
クラブがボールに命中した瞬間、強烈な反動で腕がもぎ取られそうになった。
赤いボールはすぐさま軌道を変え、タコめがけて飛んでいった!
「ハンス!盾だ!」俺は叫んだ。
「任せろ!」ハンスは身体を斜めにして駆け寄り、のドアで作った盾を俺と雪ちゃんの前に構えた。
赤いボールはピタリとタコの頭部に命中した——
ドゴォォン!!!
激しい爆発がステージ全体を揺るがした。赤い炎が一瞬で広がり、タコの体が衝撃波で吹き飛ばされた。ハンスの盾があっても、熱波は伝わってきて、肌に灼熱感を感じた。
俺たち三人は爆発の衝撃波で数メートル後方に滑り込み、ハンスの盾には焦げた跡が残った。
「せ、成功…したのかなぁ?」雪ちゃんは恐る恐る尋ねた。両手を胸の前で緊張気味に握り、声は子猫のように小さかった。
煙がゆっくりと晴れていく。と、タコの巨体が上から落下し、ステージの中央にドスンと地響きのような轟音が辺りに響き渡った。
そして……静寂が訪れた。
タコはピクリとも動かずにそこに横たわり、以前のようにけいれんすることも、起き上がろうとすることもなかった。
「マジで…これで死んだのか?」俺は信じられない思いでつぶやいた。あれだけ多くの人間がこのモンスターに殺されたのに、最後は自分のボールで爆死するなんて?
ちょうどそのとき、ステージ後方の幕が突然自動的に開き、通路が現れた。その上には「出口」のマークが掲げられていた。ステージ前方の入り口の鉄扉も自動的に開いた。
「俺たち…勝ったぞ!」誰かが叫んだ。
観客席から歓声が沸き起こった。
「あの大谷って奴…」
「マジでスゲェな!」
「白狼!白狼!白狼!」
群衆が俺のゲームIDを一斉に叫び始めた。
「さすが白狼様ですね!」雪ちゃんは目尻の涙をぬぐい、満面の笑みで言った。「雪ちゃん、白狼様なら絶対勝てるって知ってたんだよ!えへへ〜♪」
「よかった…やっと…」俺は何とか笑みを浮かべたが、突然めまいを感じた。
凍傷の痛み、さっきの緊張した戦いの後遺症、体力の消耗…すべてが津波のように押し寄せてきた。もう限界だったんだ。体はガクリと背後へ崩れ落ちた。