14 番外編1 雪ちゃんの深夜遺言
西原雪の視点
私はボロボロの小屋の入り口からこっそり抜け出して、周りに誰もいないことを確認してから、やっとホッと一息ついた。夜の遊園地は特別に静かで、遠くから変な軋む音だけが聞こえてきて、思わず背筋がゾクッとした。
「だ、大丈夫!怪物は小屋に近づかないって、みんな言ってたし」小さな声で自分を励ましたけど、両手はまだ震えが止まらなかった。
小屋の横の薄暗い隅に立って、何度も深呼吸してから、ようやく少し落ち着いた。ポケットからペンレコーダーを取り出した。これは現実世界で持っていたピンク色のペンレコーダーとそっくりで、くまさんのシールまでちゃんとついていた。不思議だな、なんでこれがゲームの世界の私の持ち物として出てきたんだろう?
「『今日の遺言』を録音しないと…」小さな声で自分に言い聞かせながら、指でペンレコーダーのボタンを優しく撫でた。心臓がドキドキと鳴り響いていた。「こんなことになるなんて思わなかったな…もし…もし私がここで本当に死んじゃったら…せめて何か残しておかないと…」
涙がうるうると瞼の裏に溜まってきたけど、唇を噛んで必死に堪えた。強くならなきゃ!星空を見上げて、深く息を吸い込んでから、録音ボタンを押した。赤いランプが点灯して、録音が始まったことを示した。
「えっと…ここは西原雪、この怖いゲームに閉じ込められて一日目です」声が少し震えていた。「もし誰かがこの録音を聞くことができたら、パパとママ、それに美奈子ちゃんと百合ちゃん、それからクラスのみんなに伝えてください。急に姿を消してごめんなさい。もし私が…死んじゃったら…本当にごめんなさい、悲しみすぎないでくださいね」
手の甲で目から流れる涙を拭いながら、自分を強制的に話し続けさせた。
「このゲーム…」一瞬言葉を詰まらせて、鼻をすすって、レースの袖のついたミニドレスを引っ張った。「このゲームは本当に人が死ぬの。マリアンっていうAIが言ってた、ゲームの中で死んだら、現実でも死んじゃうって。怖すぎる…私、あの怪物たちを見るたびに、心臓が止まりそうになるの…」
自分自身をぎゅっと抱きしめて、声が震えないように必死に頑張った。
「今日ね、超憧れの白狼様に出会っちゃったんだ!」少し明るい声色を作り出そうとした。「あの『インフィニティ』ゲームの超スゴいプレイヤーだよね!私の命を救ってくれたの!あの大きなクモ、超~怖かった、全身がバネみたいになってて、ビックリで死にそうになっちゃった!白狼様は本当にマジでスゴいの!ゴルフクラブだけであのクモをボロボロにしちゃったんだもん!彼がいなかったら、私はきっともう…もう…うぅ…」
思わずすすり泣いてしまったけど、すぐに気持ちを立て直して、無理やり笑顔を作った。
「今日は他にもたくさんの素敵な仲間に会えたの!例えばハンスさん、彼は変な機械をいろいろ改造するのが超上手で、まるで魔法使いみたいにスゴいんだから!ポップコーンメーカーから火炎放射器を作っちゃったんだよ!ヤバいくらいスゴかった~何でも武器に変えられる感じ!」
足元の小石を蹴りながら、下唇を噛んで今日のいろいろなことを思い出した。
「今日はいろんなことがあったな…怖い大クモとか、メリーゴーランドの鋼の棘の仕掛けとか、それからジョーカーのルーレットテーブルとか…」声のトーンが下がった。「何人かもう…いなくなっちゃった…私も最後は飢え死にしそうだった…でもなんとか最後まで耐えられて…みんな生き延びるために頑張ってるんだよね…」
頭を上げて夜空を見つめると、星がキラキラ輝いていたけど、それが逆に私をすごく孤独に感じさせた。
「死ぬのが怖い…パパとママにもう会えなくなるのが怖い…学校にもう戻れなくなるのが怖い…」また涙が溢れてきて、袖でゴシゴシと拭った。「でもね、私は白狼様とみんながきっとクリアする方法を見つけてくれると信じてる!みんなすごく頑張ってて、すごく勇敢だし…私も足を引っ張っちゃダメ!それに、それに私のマシュマロ杖はまだ怪物を引き付けることができるんだ!ちょっと弱いけど、持ってないよりはマシだし…」
そう思うと、両手をギュッと握りしめて、できるだけ声を力強くした。
「うん…今日はここまでにしておくね。希望…希望を持って生き延びたい、みんなが生き延びられますように、パパとママにまた会えますように」
停止ボタンを押して、ペンレコーダーを慎重にポケットに戻した。周りの闇がさらに濃くなったような気がして、ブルッと震えながら、急いで小屋の方へ走った。
「みんなを起こしちゃわないように…」そっと扉を開けて、自分の隅っこに忍び込んだ。心臓はまだドキドキと鳴り続けていた。