表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/84

第68話 スティッフ・アッパー・リップ

「わたしの名はティレシアス。お察しのとおりこのウツロに取りついている、寄生生物の一種です。いまはその口を借り、こうしてお話ししているのですよ」


 ティレシアスはとくとくと、自分のことを話しはじめた。


「ティレシアスとはまあ、ずいぶんとふざけたネーミングだね」


 星川雅(ほしかわ みやび)が食ってかかる。


「侮辱は許しませんよ? 雅さん。畏敬するディオティマさまからいただいた、大切な名前なのです」


 ウツロボーグの両手が操り人形のように動いた。


「てめぇもアルトラが使えんのか? それでウツロを操ってるってわけかよ?」


 南柾樹(みなみ まさき)は冷静に、敵の正体を探ろうと試みた。


「意外に打算的なのですね、柾樹さん。頭が悪そうに見えるのに。さすがは龍影会(りゅうえいかい)の総帥閣下のご子息といったところでしょうか?」


「悪かったな、バカそうでよ」


 カチンとは来たものの、ウツロを助けるためここは耐えることにする。


「ふふ、そのとおりです。アルトラの名はスティッフ・アッパー・リップ、対象に取りつき、ささやくだけの能力になります。しかしながら、ものは使いようですね」


 寄生生物は自信満々に語った。


「余裕だね。ずいぶん自信があるんだ?」


「当然です。その辺の無能な人間たちとは、一線を画しているのです。深海で独自の進化を遂げ、高度な知能を手に入れたわたしを、ディオティマさまが見出してくださったわけです。すぐれた方にはすぐれた者の存在が理解できるのですよ」


 ティレシアスは道化人形と化したウツロを使い、悠々と大仰な「演説」を続ける。


「黙って聞いてりゃあいい気になりやがって。アメーバだかなんだか知らねぇが、単細胞生物が調子こくんじゃあねぇぜ?」


「柾樹!」


 血の気を抑えられなくなった南柾樹を、星川雅が牽制する。


 彼はこういうタイプが無性にイラつくのだ。


 おごり高ぶっている高慢ちきが。


 しかし当の寄生生物は、まだ余裕がある様相である。


「そんなことを言うのなら、ここままウツロの精神を粉々に破壊してしまいますよ? ちょうどよい人質があったものだ。大切なお友達が廃人にされるところを見たいのですか?」


「くっ……!」


 一同は唇をかんだ。


 絵に描いたような窮地。


 いったいどうすればよいというのか?


「そんなことをしたら、あなただって危ないんじゃない? 宿主がいなくなった瞬間、わたしたちはあなたを袋叩きにすると思うけれど?」


 理性的な星川雅が、さすがの気づきを見せる。


「賢いですね、雅さん。そのとおりです。それにこのウツロはディオティマさまの貴重な研究材料。みだりに傷つけることは避けたいところです」


 完全にアウェー状態だった。


「それよりもほら、早く龍子さんが治癒を試みなければ、そこに倒れている日和さんと壱騎さんが、取り返しのつかない事態になりますよ? もっとも、バリアーの外へ出た瞬間、熱病の女神のウィルスにやられてしまいますがね。ふふっ、ははははっ!」


 ティレシアスは高らかに笑う。


 完璧だ、わたしの作戦は。


 この戦い、わたしの完全勝利だ。


 彼がそう安堵したとき――


「待ちな」


「?」


 少し離れたところにいる、北天門院鬼羅ほくてんもんいんきらがつぶやいた。


 三千院静香遥香(さんぜんいん はるか)もいっしょだ。


 彼はガムを膨らませた大きな「風船」の中へ入っている。


「あんた、なんかムカつく。よって、死刑」


 彼女は豪快にサムズダウンした。


「僕も同意だね。鬼羅がそういうのなら、きっと万死に値するやつなんだろう」


 相方はずいぶんのほほんとしている。


「で? あなたがたお二人ごときに、この状況でいったい何ができるというのでしょう?」


 ティレシアスは相も変わらず余裕しゃくしゃくである。


「鬼羅、僕が先手を取から」


「オッケー、援護は任して」


 彼らはずいと前に出る。


 一同はあっけに取られた。


「剣道三千院流、君のような虫ケラ相手に振るったら、一族の名折れかもしれないけどね?」


「貴様……!」


「遠慮なく行かせてもらいます」


 三千院遥香の姿がパッと消え、ウツロボーグの頭上に出現した。


「三千院流・一の秘剣・世界」


「こ、これは……!」


 ティレシアスの全身から、一気に血の気が引いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ