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第36話 決戦前夜 序

 金曜日。


 時が経つのは早いもので、あれよあれよという間に、姫神壱騎(ひめがみ いっき)森花炉之介(もり かろのすけ)による御前試合の前日となった。


 ところは秘密結社・龍影会(りゅうえいかい)の奥の院、通称・黒い部屋。


「ウツロは期待以上の少年、いや、人間と言ったほうがよいのか。ははっ、実にわたくしめを楽しませてくれましたぞ」


 右丞相(うじょうしょう)蛮頭寺善継(ばんとうじ よしつぐ)は、ことのあらましをうれしそうに総帥・刀隠影司(とがくし えいじ)へ言上した。


「おまえも気に入ったか、ウツロくんのことを。閣下、この機会にぜひ、閣下みずからウツロを値踏なさるのもご一興かと」


 元帥・浅倉喜代蔵(あさくら きよぞう)もこのように提案した。


「ふむ。いずれわが息子・柾樹(まさき)を交えて立ち会うであろうしな。鹿角(ろっかく)よ、おまえは妹の主税頭(ちからのかみ)とともに先におもむき、静香へあいさつしておいてくれたまえ」


 刀隠影司はロッキングチェアを揺らしながら言った。


「は、かしこまってございます」


 浅倉喜代蔵が答える。


「蛮頭寺くん、われわれはあえて、遅参としゃれこもうではないか。御前試合には典薬頭(てんやくのかみ)の娘・(みやび)も来るであろう。ならば母親にも同行してもらうというのはどうかな?」


「なるほど、それはいかにもご一興かとぞんじあげます。ふふっ、これはいよいよ面白くなってきましたな」


 総帥の言葉に右丞相はニヤリと葉巻をふかす。


「ふふ、ついに会えるのだね。柾樹よ、そしてウツロよ」


 面々はくつくつと肩を揺らした。


 それはあたかも、地獄の魔王たちがおそるべき策謀を練っているかのような絵面であった。


   *


「ぎひひ、ディオティマさま。いよいよ、明日、ですね」


「そうですバニーハート、壱騎ボーイとミスター森の戦いに乗じて、ふふっ、彼らを根こそぎいただくのです」


 ホテルの一室で、ディオティマとバニーハートがきなくさい密談を交わしている。


「イギリスとドイツはとりあえず様子見の模様。ふふっ、とてもよい流れです。しかるにバニーハート、くれぐれもタイミングを仕損じないよう留意するのですよ?」


「ぎひっ、お任せ、ください」


「ふう、これでこのディオティマの研究は一気に飛躍し、さらなる高みへと達することでしょう。ふふっ、ふはははは!」


「ぎひっ、ぎひひひひ!」


 果たして悪魔はどちらなのか。


 ウツロたちの身に、着実に狂気が迫りつつあった。

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