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第10話 意趣返し

「さて、息を巻いて来日はしたものの、はあ、どうにも退屈ですねえ」


「ぎひ、ディオティマさま、僕、暴れたい」


「しばらくはおとなしくしていなさい。これものちのちのためですよ、バニーハート?」


「ぎひい」


 車の後部座席で、ディオティマとバニーハートが会話をしている。


 運転しているのは龍影会(りゅうえいかい)元帥・浅倉喜代蔵(あさくら きよぞう)の右腕・羽柴雛多(はしば ひなた)だ。


「ミスター羽柴、ところでこの車はどこへ向かっているのですか? ホテルは通り過ぎたようですが」


 ディオティマが眠そうな目を開いてたずねる。


「さあ、地獄とか?」


 羽柴雛多はキツネ顔をつりあげてバックミラーを見た。


「おやおや……」


「ぎひひ……」


 単なる冗談、だけではないような気がする。


 二人は気がつかれないように臨戦態勢を取った。


「ぎひ、ディオティマさま、上にもうひとり、いる」


「どういうことでしょうねえ、ミスター羽柴?」


 魔女は邪悪な表情で笑った。


「ごぞんじかもしれませんが、俺たち(・・・)は組織の中では、始末が専門なんですよ?」


「なるほど、暗殺や諜報、ひいては処刑で名のとおったコンビ、太陽と月とはあなたがたのことでしたね。ミスター羽柴、そしてミスター鷹守(たかもり)


 バニーハートは屋根の上の気配に狙いを済ましている。


「閣下の命令ですか? それとも元帥の独断ですか?」


「さあ? ディオティマさんが退屈しないように、ちょっと意趣返しをしてこいと仰せつかっていましてね」


「ほう、意趣返しときましたか」


 一触即発、と思いきや。


「ところで羽柴さん、こちらの妖精さんがたも、あなたたちの仕業ですか?」


「……」


 窓ガラスのいたるところに、おとぎ話に登場するような小人の群れがびっしりとくっついている。


「これはオベロン……鬼堂沙門(きどう しゃもん)秘書官のアルトラ……」


「ふふっ、どうやら、別口のようですねえ? どうしますか、ミスター羽柴?」


「とりあえずは、停戦ってことでいかがでしょう?」


「虫がいいですね。でもまあ、よろしいでしょう。バニーハート」


 ウサ耳少年の目がギラリと光った。


「エロトマニアぁっ!」


 ウサギのぬいぐるみが膨れ上がり、車を内側から破壊した。


「ああ、俺の愛車が……」


 着地した羽柴雛多は、ネクタイを緩めて応戦の準備をした。


(ゆう)くん、この状況、どうしようね?」


 かたわらには黒衣の少年が控えている。


 黒い仮面をかぶって、両手にジャックナイフ、腰には大きなナタをくくりつけていた。


 いかにも暗殺者という風体である。


「ぎひっ」


 バニーハートは舌なめずりをした。


 いかにも強そうな相手、しかも自分と同じにおいがする。


 こいつと戦いたい。


 そう思った。


「まずは……」


 ディオティマは体にまとわりつく妖精の群れに視線を送った。


「ファントム・デバイス」


 背後からギリシャ文字の刻印された帯が出現し、魔法陣のように円を形作った。


 その中の黒い空間が、たちどころに妖精たちを吸い込み、どこかへと消し去ってしまう。


「あらら」


 羽柴雛多は偉大な先輩の能力にポカンとした。


「どこへ行ってしまうのかは、ふふ、わたしにもわからないのですが」


 どうだか。


 彼は狡猾な魔女の一挙手一投足をいぶかった。


「さてさて、仕切り直しと行きましょうか、お二方。われらを前に、退屈しのぎにでもなれば、ふふっ、たいしたものですよ?」


 ディオティマは余裕の表情だ。


「ご期待にそえることを願っていますよ?」


 羽柴雛多も同様だ。


「ディオティマさま、あいつと戦いたい」


「ほう?」


 バニーハートが申し出る。


「だそうですが、そちらはいかがですか? ミスター鷹守?」


 鷹守幽(たかもり ゆう)が前に出る。


 仮面をつけてはいるが、その表情は笑っているように見えた。


「ぎひひ、僕の、ペットに、して、やる」


「……」


 至近距離に迫った二人は姿勢を低く落とした。


 そしてディオティマは、タバコの灰を落とすため、パイプを大破した車の残骸へ、コンとたたきつけた。


 合図である。


 かくして最強最悪の両者によるバトルは開幕となった――

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