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第9話 それぞれの思惑

「お邪魔しま~す」


 ウツロと万城目日和(まきめ ひより)は行きずりの剣士・姫神壱騎(ひめがみ いっき)を連れ、洋館アパート・さくら館へと帰宅した。


 メンバーは思わぬ来客に驚いている。


 ウツロたちは一連の流れを簡潔に説明してみせた。


「なるほど、森花炉之介(もり かろのすけ)……会ったことはないけれど、全盲ながら居合剣術の達人だとお母さまから聞いているわ。叔父様とはかつての盟友であたことや、塵を操るアルトラ使いであることも」


 星川雅(ほしかわ みやび)は自分の知っている情報も提供した。


「アルトラ、エンジェル・ダスト。自分の頭の中にある映像を、塵に投影して具現化することができるんだ。たとえば大きな剣を作ったり、モンスターみたいなのも再現できたりするんだよ」


 姫神壱騎は神妙な面持ちで答えた。


「さすがっていったら失礼かもしれねえが、敵の能力だけにくわしいんすね」


「それはそうだよ、俺の父さんを殺した能力なんだから……」


 彼の瞳が一瞬、殺意に光った。


「……わり、そんなつもりはなかったんですよ」


「いや、いいんだ、柾樹くん。気にしないで」


 気にしないでと言われても……


 南柾樹をはじめ、一同は息の詰まるような緊張感に襲われた。


「ウツロ、あんたのこと、おおかた姫神さんを仲間に加えようって算段なんでしょ? 龍影会(りゅうえいかい)と戦おうってのなら、有能な人材は多いに越したことはない」


「おい、雅、そういう言い方はねえだろ? ウツロはただ、姫神さんを不憫に思ってだな……」


 星川雅と万城目日和がひと悶着を起こしそうになったが、


「いや、日和、雅の言ったことは、確かに俺が期待していることなんだ。秘密結社・龍影会、一筋縄でいく組織とはとうてい思えない。味方を増やす必要があると、俺は考える」


「ウツロ……」


 ウツロの決意に満ちた表情に、南柾樹が気圧されるようにつぶやく。


「姫神さん、軽蔑してもらってもまったくかまわない。俺には、いや、俺たちにはあなたのお力添えが必要なのです。もしよろしければ……」


「その見返りとして、俺の敵討ちに協力してくれるってこと?」


「……」


 姫神壱騎はのぞきこむようにクスっと笑った。


「打算的だね、いや、お互いにだけど。いいんじゃない? ウィンウィンってことでさ?」


 複雑な状況だ。


 両者とも意図に悪意などない。


 しかしながら微妙な認識のズレが、互いに利用しているように映してしまう。


 気まずい空気が流れた。


「ところでさ」


「え?」


 姫神壱騎はつかつかと奥のほうに進んだ。


「君が龍子(りょうこ)さん? 素敵だね。ウツロくんが好きなるわけだよ」


 彼はその手を取り、ギュッと握った。


「あ……」


 真田龍子(さなだ りょうこ)はそのキラースマイルに思わず顔を赤らめてしまった。


「貴様……!」


 ウツロはいやおうなくプッツンする。


「うわっ、こわっ! ウツロ、おめえ見かけにはよらねえな!」


 万城目日和が大仰につっこみを入れる。


「その手をお放しなさい、姫神さん……!」


 怒髪天の様相である。


「なに? ウツロ、嫉妬してるの?」


 真田龍子は姫神壱騎の陰から顔を見せ、ニヤニヤとほほえんだ。


「最近ウツロ、浮気してばっかだし、鞍替えしちゃおっかなあ?」


「……そんな」


「ほらほら、そんな腑抜けた顔、わたし見たくないよ? 人間論はどうしたの?」


「ぐぐぐ……」


 ウツロは歯ぎしりをしながら目を血走らせている。


「ね・と・ら・れ……お見事です……!」


 真田虎太郎(さなだ こたろう)が生唾を飲みながらぼやいた。


「虎太郎くん、君まで……」


 ウツロの立場はすっかりと奪われてしまった。


「俺、マンション住まいなんだけど、これからときどき、ここへ遊びにきてもいいかな?」


「もちろんですよ、姫神さん。いつでもいらしてください」


 真田龍子はすっかりと乙女になっている。


「あんまりだ……」


 ウツロよ、これがモテる者の宿命なのだ、たぶん。


「なんかよくわかんねえけど、面白くなってきやがったぜ」


 万城目日和も内心、ちょっと期待するところがあった。


「ま、よろしくっす、姫神さん?」


「ひっかきまわされるのは勘弁だけれどね?」


 南柾樹と星川雅も歓迎ムードだ。


 この人はいま、状況を察してこんな行動を取ったのだ。


 使える、使えるぞ、この人は……


 南柾樹はそう思索していたし、星川雅もそれを察していた。


 こうしてそれぞれがそれぞれなりに、自身の大願を成就するための準備が、着々と整っている実感を得ていたのだった――

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