46. 光の使徒ユーリン(16) 関公、アウトローからのハンパねぇ爆モテ体質を発揮し、ユーリン、少女を篭絡して兎を得んとす
サウホの街の広場の、ハズレ無しの屋台通り。
その片隅の屋台の横で串10本の仕上がりを待ちながら、関羽はあらためて少年を観察した。
ようやく地に降ろされた少年は、不平満々の不満顔である。
身なりは粗末で痩せぎすな、ひと目で生活の困窮ぶりがわかる容姿であった。
関羽としては、憐憫を抱かぬではないが、特段の同情はしない。
この程度の不幸な境遇は、幾千幾万も目にしてきたためである。
広場を行き交う周囲の人々は、静かなものであった。
途中、幾人かは、少年が逆さづりにされていた異様事態に気づいたようだが、特段の騒乱もなく鎮まったのをみて、すぐに興味を失った様子である。
それでもなお足を留めて見物を企んだ聴衆は、ユーリンが無言の笑顔で追い払った。
少年は押し黙って、何も言わない。
関羽もかける言葉を見つけられない。
横の屋台の炭火の上で踊る魚介の脂だけが賑やかであったが、その奏でられる音色の魅力が減じていることを、関羽は認めざるを得なかった。
「ではこれで放免と致す。達者でな」
「……さい」
「うん?」
「……っ!」
少年は顔を朱く染めて、何かを堪えるように緊張を口元に巡らせたが、関羽に挑むようなひと睨みをくべると、疾風のごとく走り出した。
「あの気力なれば案ずるに及ばぬであろ。幸いを祈るくらいは許されようか」
「ケガはしてなさそうだね……て、危ない! ……アチャー」
少年の疾走を目で追っていたユーリンが、額を手のひらに埋めさせて落胆した。
一目散に走りだした少年が広場の群衆の隙間をぬって脚を駆るうちに、不意に物影から姿をあらわした女の子と激突したのである。
少年は尻もちをついたが、すぐに立ち上がって走り去った。
激突された女の子の方は、地にうずくまって動かない。
小さな体躯の女の子である。
走り去る少年よりも幼い年頃であるようにみえるが、遠目からでは判然としない。
「あちゃちゃ。ちょっと行ってくるね。ボクたちは悪くはないけど、ボクたちのせいではあるし。ウンチョーは串焼きをよろしくね」
「……儂は寄らぬほうがよかろうな」
「うん! ……いやいや、ボクはキミの顔はけっこうカワイイと思うんだけど、女の子からのウケは保証しかねる。というか、カラダがデカすぎる。いやいや、ボクはそこもステキと思うんだけど」
残酷な事実を関羽につきつけながら関羽を慰め、ユーリンは自分の両頬を軽く叩いて気合を入れた。
幼い女の子を相手にするのは、対人関係構築の達人たるユーリンといえども油断のできない取り組みなのである。
関羽はとりあえず意気消沈していた。
外見上の肉体年齢は若者のそれであるが、中身の精神年齢は、女性からの評価に一喜一憂する年頃を一応はすでに卒業している。
とはいえ、異性ウケの良し悪しは……特に悪しの場合は、あまり直視したくはない話題であった。
男はいつまでも男なのである。
「儂、多少、辛い」
「初対面から秒で惚れさせるのには不適切な顔なだけだよ」
「儂、だいぶ、ツライ」
「キミの魅力はボクが知ってる。ていうか、そういうのはボクの領分じゃん? そんなことより、串焼き、ボクの取り分は残しておいてよ?」
村を襲った賊徒が収穫物を山分けするかのような発音で『取り分』を主張して、ユーリンはあたかも善意の第三者のような足取りで女の子に向けて、かけていった。
関羽はその背を見守りつつ、胸中に温かいものを感じた。
(見知らぬ幼女の身を案じる、か。出会った頃のユーリンであれば考えられぬことであるな。しかしこれがユーリンの本来の性根であろう)
現在のユーリンは、陽の下で生きる顔をしていた。
息苦しさを感じさせない、前を向いた顔である。
生き苦しさを表にしない、今を生きる顔である。
命のあることを喘ぐかのような、
破滅的な自傷を求めるかのような、
倒錯的な死に身をくべるかのような、
未来を焼いて灰燼に帰するかのような、無残な生き様は鳴りを潜め、光り輝くような日々を送っている。
(奇計を好む露悪的な言動も、しいて他者を顧みぬような傲岸な態度も、すべてが偽りの虚像であろ。あの顔を見れば明白だ。自らが成した虚像に自らを縛られるとは……自らの在り方を由とできればよいのだが、積み重ねた年月がそうはさせぬのか。哀れなことだ。……いっそ、いまの状態がこのままずっと終わらぬほうが良いのやもしれぬな)
孫のような年齢のユーリンを見守る関羽としては、今のユーリンの在り方が長く続くことを願うばかりであった。
関羽は思考を切り替え、至って即物的な現実に目を向けた。
屋台で串焼きを温める店主の男に話しを切り出したのである。
「さて、店主どの」
「な、なんだい?」
「やはり今焼いている串10本のしかるべき対価は支払おう。3000ゴールドで足りるだろうか」
「そりゃ、ありがたい話だが、どういうつもりだ?」
忘れる、という約束の行く末を案じている口ぶりである。
関羽は苦笑し、財布から3000ゴールド分の金銭を支払った。
「かまわん。今日のことは他言せぬと誓約する」
「……いいのか?」
「うむ。そも道理というなら、その方とあの少年を官憲に委ねるのが正しい。だがそれは儂の望むところでない。不正の隠匿に加担しておる。つまり儂も正しくない行いに手を染めているのだ。かくなるうえは、同罪であろう。優劣なき立場であるからして、その方らの弱みにつけ入るような真似は……好まん。いや、してもよいのだが、むしろ愉快さを感じるくらいなのだが、それよりもせぬほうが心地よいと思ったのだ。つまり儂の都合よ。……連れには内密に頼む」
関羽はこともなげに事情を明かし、店主の男の理解を求めた。
つまるところ、関羽の気分だけが理由であるという通達である。
店主の顔は、驚きと感動で固まっている。
関羽の言の内容そのものよりも、それを語る関羽の姿かたちから滲み出る大侠客としての貫禄が、店主の男の胸を打ったのである。
店主の男は恐れを隠さず、関羽の様子を伺いながらはばかるように尋ねた。
「に、ニィさん……」
「うん?」
「いや、すんません、もしかして……さぞや名のある親分さんなのでは……と思ったわけで……」
店主の男から問われた関羽はしばし仰天して目を見開いたが、やがて呵呵大笑して首肯した。
「中らずと雖も遠からず、である。裏社会からはすでに引退の身である故に、そう緊張してくれるな。……して、それを看取しえるその方は、やはり……そうであるな?」
「……へい。ちょいとばかりですが、日陰のほうにも名前を持ってる身です。半チク者ですがね」
店主の男は恐懼して縮こまり、恥じを忍ぶかのような声で素性を白状した。
「……失礼ですが、ニィさんはどちらで名を上げた御仁でして?」
「漢の地、河東郡。当時の名は長生。……はるか遠方であり、当地ではまったく知られてはおらぬ故、そう畏まってくれるな。今は無名にして無役の男よ」
「そうは言っても、なんていうか、兄貴は半端ねぇすよ……さっき凄まれただけでチビりそうになっちまった……お若くみえますが、兄貴がパねぇおひとだってのはわかります。いまだって、思わず兄貴の膝元に縋りつきたくなるような、そんな妙な気持ちにさせられるんで……」
「……兄貴って、おぬし……」
一方的な兄貴認定を受けた関羽は、困ったような顔をした。
関雲長の特性である『アウトローからのハンパねぇ爆モテ体質』は、いまだ健在であった。
なぜか昔から関羽は、ちょい悪めの男から敵味方を問わずにやたらめっぽうモテる。
自分を慕う山賊や盗賊が押しかけてきて、そのまま部下の座に居座られたこともあったほどである。
むさ苦しい記憶が蘇り、関羽はたまらず半歩退いて頭を振った。
「儂は何もしておらぬ、そう敬ってくれるな。当地においては、堂々たる商いで身を立てているその方のがよほど立派ではないか」
「へぇ、兄貴にそう言ってもらえると、励みになります」
「それやめてくれぬか。頼む」
乙女のように恥じらって、関羽は両手で顔を隠した。
関羽は、女にはあまりモテない反面、悪い男にはものすんげぇモテるという、ものすんげぇ悲しい宿業を背負っているのである。
呪いじみた重みを双肩に感じて、関羽は気落ちした。
「人は変われぬのか!? 変わりたい! 儂は変わりたいんじゃがなぁ……」
「……何かお困りごとで? オレでお手伝いできることでしたら、何でも致しやすが。兄貴は……恋人さんとお忍び旅行中でしょう。面倒ごとは引き請けますよ」
ユーリンとは恋仲であるとすっかり目されてしまった現実を前に、関羽は脱力して姿勢を崩し、膝から落ちないように踏みとどまって、ようやく格好を保った。
疲れた表情の中に、苦笑のようなものを浮かべている。
今の関羽は若かりし青年期の肉体であるが、本来の年齢は60歳の老境に差し掛かるものである。
この屋台の店主とユーリンの年齢を足して合わせても、本来の自分の歳には及ばない———そんな若者たちの言動に精神的に振り回されている自分の未熟がおかしく感じられ、何もかもがどうでもよくなってしまったのであった。
関羽は、自分の未熟を笑って受け入れたのである。
「いや、うむ。……そうさな。では。当地の事情に明るくないまま疑念を口にする非礼をひとつ許してもらおう」
関羽は、自分を兄貴と慕う店主の男に尋ねた。
「その方の在り様が、解せぬ。この屋台の商いがあれば、盗人の支援なぞせずとも、まっとうに日々を営んでいけよう。迂遠な手口で道を外さずとも、あの少年も養えるのではないか。日陰に身をつながねばならぬ事情でもあるのか?」
「……さすが、兄貴にはお見通しでございやしたか」
何も見えぬが、と関羽は思ったが言わなかった。
「お察しのとおり、あの子……名前はマルコってんですが、今は親のない身です。マルコの父親とオレは同じ会に籍をおく身で、けっこう親交ある仲だったんですが、しばらく前にちと会の都合で事情のある死に方をさせられちまって、……マルコが生きてるのはその時たまたま居合わせなかったからですよ。コトが済んでからわざわざ遺った子供1人を相手するほどじゃなかったってわけだ。もしもマルコがその場にいたなら、ついでだったでしょうね」
会というのは、裏社会における所属組織の意味である。
スリの少年マルコの父親は、何か不始末の咎を責められて所属組織から裁きを受けたということであった。
「そんなわけでマルコはひとりで放り出されちまったわけです。助けてやりてぇが、オレにも家族がありますんで、おおっぴらにしてオレが会に睨まれるのは、その……」
「そういうわけか。あいわかった。明かし辛いことをよくぞ語ってくれた、礼を申す。我が身命にかけて、決して口外するまいぞ」
関羽は拱手して、店主の男に礼を述べた。
「その方も、難しい立場のなかで、よく尽くしておるな。見事である」
大侠客の威風漂う関羽から賛辞を受けた店主の男は涙ぐみ、固く握った拳で涙を拭いた。
「……っ! ありがたく!」
「では以後は、串焼き屋の主人とただの客である。儂は全てを忘れる」
関羽からすれば、店主の男のやり様は優れたものではない。
親交ある亡き友に対しても、己が身を置く会に対しても、サウホの街に対しても———いずれに対しても中途半端な裏切りを隠した態度である。
しかし、非力な男が家族を養い護りながら、精いっぱいの義理を貫こうとしていることを理解すれば、これを悪く評する気にもなれなかった。
生前の関羽であれば、全てを相手取って筋を通すことを当然と考え、またそれを躊躇なく実行できたであろう。
関羽は一度死したことで、能を持たざる者に対する慈悲を学んだのである。
これっきり、関羽と店主は言葉を交わさなかった。
けれども魚介の焦げる音色がその鮮やかさを取り戻したかのように関羽には感じられた。
食道楽としての関羽は屋台から広がる煙を静かに堪能しながら、元侠客としての感性で思考した。
(ユーリンはこの街の人心を善きと評しておったが、裏はその限りではなさそうだな。街の産物が富んでいる分、欲得が多く渦巻いておるのであろう。質の悪い侠徒が幅を利かせておるようだ。一度縁を結んだ同胞の幼子を追い詰めるとは。同じ会に属するならば家族も同然。当人がいかなる不始末を負おうとも、行くあてのない遺児は保護するが常道。……嘆かわしいことだ)
スリの少年マルコに衝突されて転倒した少女にかけより、ユーリンは爽やかに話しかけた。
「こんにちは。転んじゃったね」
ぶつかって突き飛ばされた、とは言わず、まるでただの不運を嘆くかのようにユーリンは軽やかに言った。
殊更に被害を意識させるよりも、少女のショックを和らげることができると見込んでのことである。
「ケガはないかな? あるなら見せてほしいし、無いならボクは嬉しい」
少女は、ユーリンの呼びかけにも応えない。
眼はたしかに開いているが、呆然として反応が途切れている。
はち切れるように泣き出す寸前の様相である。
足元には、ウサギの人形が落ちていた。
土がついて、汚れている。
ユーリンはうさぎの人形を拾って、自身の顔と並べるようにやさしく掲げてもった。
少女の視線を誘導して、まずは目を合わせようという魂胆である。
「このウサギの人形はキミのお友達かな」
「……フィ」
少女は突き飛ばされたショックで言葉を出せずにうずくまったまま硬直していたが、話題が人形になったことで、言葉を発した。
「このコ、ミフィちゃん」
「これはご丁寧に。ミフィちゃんか、ステキな名前だね。ボクはユーリン。ミフィちゃん、少しよごれっちゃったね。洗ってもいいかな」
人形を洗浄する承諾を得るためにそれが必要であるかのような手つきで、ユーリンは横たわる少女を起して、立たせた。
素早く視線を這わせて、手足に出血のないことを検める。
ユーリンは腰に下げた水筒の水を使って、ウサギの人形を洗った。
あえてもどかしげな手つきで、少しずつ汚れを落としていく。
少女の注意を手元に惹きつけて、転倒した痛みを少女に忘れさせようという意図であった。
「はい、これでよし。ミフィちゃんはキレイになったよ。ところで、ミフィちゃんのお友達のキミの名前を聞いてもよいかな?」
「あたし、シルビア」
「シルビアちゃんか。よろしくね。お名前を教えてくれて、ありがとう。シルビアちゃんはケガはないよね、歩けるかな」
「……うん」
「よかった。一安心だ。じゃあ、ミフィちゃんを連れて、ひとりでおうちに帰れるかな」
ウサギの人形を手放そうとした瞬間、ユーリンの指先が違和感をとらえた。
人形の布地の奥に、マナの残滓を感じたのである。
(あれ? なにこれ)
ユーリンが身に宿すマナの総量は極めて少なく、初級魔術も存分には行使できない水準である。
しかし量が少ない分、その制御と感知については、非凡な域で卓越しているのである。
魔術に適性もたぬ身に生まれた者が身を削るような鍛錬によって魔術を行使できるまでに至る過程で獲得した、異形の特技であった。
ユーリンの知覚は、こウサギの人形に残る異形のマナを感知した。
(……知らない。みたことない。何のマナだろう。えっ、うそ、……ホントに知らないぞ、これ。ていうかなんで人形の内側に?)
未知なる系統のマナとの遭遇に、ユーリンの直感が警報をならした。
ウサギの人形から漂うマナの残滓は、ユーリンが知る限りのいかなる魔法系統にも属さない、特異な性質を帯びている。
(なんだろ、コレ。まさか新発見のマナ? まさかね……でも、これは……)
ユーリンの中で知的な好奇心が沸きあがり、警戒心と混じり合って、強烈な興味となった。
「あっ……えっとね、あの……」
なるべく長く自分の手にウサギの人形を留められるように、ユーリンは言葉を探りながら時間稼ぎを試みた。
「ミフィちゃん、かわいいね。もう少しだけミフィちゃんのこと、教えてもらえるか。シルビアちゃんは、ミフィちゃんとは、どこで出会ったのかな?」
「うちに泊まったお客さんが、『やどちん』といっしょに置いていったの。要らないからあげる、って」
「……へーえ。シルビアちゃんちは宿屋さんなのか。そのミフィの持ち主は、どんなお客さんだった? 覚えてる?」
「うん。お年寄りの、おじいちゃんだった」
「ふぅん。……ねぇねぇ、ボクは宿屋さんを探しているんだけど、よかったらシルビアちゃんちに泊まってもいいかい? それなら、ボクはミフィちゃんと仲良くなりたいんだけど、紹介してくれるかな。ボクとミフィちゃんとシルビアちゃん、3人でお友達になれると思うんだけど、シルビアちゃんの気持ちは、どうかな?」
この瞬間のユーリンが不審者の嫌疑を受けていない唯一の理由は、ユーリンがその少女よりも美しい容姿をしているためだけである。
関羽が同じことを言えば官憲がさっそうと駆けつけて賑やかに騒ぎ立てる言葉であったが、幸いにして、発言したのはユーリンであった。
聴く者を夢心地に誘う天凜の声音で睦言のように囁き、空色の瞳に誠実そうな光を宿して、ユーリンは無垢な少女を容赦なく口説く。
宿屋の少女シルビアはしばし硬直してユーリンの申し出を吟味していたが、やがて意味の理解に至ると、幼い顔つきの中に女性的な恥じらいの朱色を浮かべ、もじもじと身体をくねらせた照れ笑いをみせた。
「……うん、いい……けど……」
「ありがとう! とっても嬉しいよ。それじゃあまずは、これからシルビアちゃんのおうちに案内してくれるかな」
極めて違法性の高い会話を打ち消すように、ユーリンは殊更に晴れやかな笑顔をつくった。
「あー……ボクの友達もひとり連れて行きたいんだけど、許してもらえるとうれしい。とっても体が大きくて、力持ちな友達なんだ。……怖がらないでね、すぐに慣れると思うから」
ユーリンはウサギの人形ミフィを大切そうに抱える少女シルビアを伴って、串焼きを両手の指で器用に抱える関羽と合流した。
「すまぬ。どういう状況なのだ? そなた、儂がぼんやりと串焼きを待っておる間に何をどうしてこうなった? よほどの節操なしか?」
「……後で説明するよ。とりあえずシルビアちゃんちの宿屋に泊まることにした。いまキミに伝えたいことは、ひとつだけだ。これ浮気じゃないから……信じて?」
「当っ然じゃ! そなた加減というものをしらんのか? 年端もゆかぬ娘っコの心をもてあそぶとは……」
「誤解と偏見の塔で空の雲さえ突き抜けそうだね。とにかくこれも縁だ。ちょっとだけボクの道楽に付き合ってもらいたい。別に宿屋のアテなんて、ないだろう?」 (あとで詳しく説明するから、とにかくいまは話をあわせてほしいんだ)
「それはそうであるな。……さてシルビア殿、以後お見知りおき願いたい。儂は関雲長と申す」(相分かった。そなたのことだ、何か考えがあるのであろう。儂はそなたに従うのみよ)
ユーリンの言を受け入れて関羽は頷き、目下の少女シルビアに目を向けて、可能な限りの精いっぱいの努力を尽くして、笑みのようなものを顔に浮かべた。少女の小さな身体が、びくり、と跳ねる。青年関羽の筋骨隆々な身体と、精悍に過ぎる顔立ちは、年端もゆかぬ少女にとっては、刺激が強いのである。少女の反応の理由を理解した関羽の肩が、下がる。
「あー……ふむ、どうかな、シルビア殿よ、串焼きなぞは嫌いではないかな。好みのものを選ぶがよい」
関羽は膝を曲げてしゃがんで少女シルビアと目線を合わせ、両手に持った10本の豪勢すぎる串焼きミックスを見せた。
少女が怯えて、ユーリンの後ろに隠れる。
ユーリンは意図的にくすくすと笑って、場を和ませつつ、少女シルビアに関羽を紹介する。
「あのね、この人はウンチョー。ボクの友達なんだ。あははは。とっても大きな身体でしょう? ……シルビアちゃんのお父さんとくらべて、どっちが大きいかな」
「……あっ……の、 その……」
「そうだね、びっくりしちゃうよね、怖いよね、でも平気だよ。ウンチョーはとっても優しいんだ。こういのはギャップ萌えというんだ。……よし、シルビアちゃんは強い子だね。泣き出さずによく我慢できた! それじゃあ、みんなで歩こうか」
関羽とユーリン、少女シルビアの3人は、連れ立って歩き始めた。
ユーリンと少女シルビアが歩き、関羽は少し後ろをついて歩く。
「……シルビアちゃん、串焼き、食べる? ボクが食べたいんだけど、ボクひとりで食べるのはさみしいからさ、いっしょに食べてくれるかい? もちろん嫌いでなければだけど」
「あたし、これ、好き」
少女シルビアはホタテの串焼きを指さした。
ユーリンが花開くような笑顔でうれしそうにホタテの串焼きを差し出す。
後ろを歩いていた関羽が、ぼそっとつぶやいた。
「……ユーリン、儂のほうが、泣き出しそうなんじゃが」
「後でボクが慰めるからさ」
ユーリンはタコの串焼きをかじりながら、あまり興味もなさそうに、関羽に言った。




