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家事代行のアルバイトを始めたら学園一の美少女の家族に気に入られちゃいました。【書籍化&コミカライズ】  作者: 塩本


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第六十七話 東條綾香の恋⑤

更新が遅くなり申し訳ございません。

「キャンプでの温泉最高ッ~!」


「焚火って楽しいけど匂い付いちゃうもんね」


 温泉に浸かりながら大きく伸びをする咲の隣で、私は掌でお湯をすくって自分の肩にかける。


 大浴場は広くて開放感があって、それだけでなんだか心が癒されていく感じがしちゃう。

 咲も手足を湯船のなかで伸ばして完全にリラックスしてるし。


「お腹も一杯だし、温泉は気持ちいいし、私いま幸せだわ~」


 脱力して、プカ~と少しだけ浮いている咲に、向かいにいるママがニッコリと笑う。


「咲ちゃんがいると賑やかで、私も楽しいわぁ」


「今日は誘ってくれて本当にありがとうございます! 郁恵ママのパエリアすごく美味しかったです!」


「まぁ、ありがとう」


 ママは咲の言葉に、嬉しそうに頬に手を当てて微笑む。


「最近は大槻君の料理に頼りっきりだったから、たまには頑張らないと腕が鈍っちゃいそうだわ」


「今は朝ご飯のおかずに必ず晴翔君の作り置きが一品はあるもんね」


 晴翔君が家事代行で来てくれるようになってから、東條家の食卓は品数が増えてちょっぴり豪華になった気がする。

 今までママが料理をしてこなかった訳じゃないけど、やっぱり共働きだと、どうしても料理まで手が回らない時もある。

 そういう時は、以前までは簡単なインスタントで済ませたり、出前を頼んだりしちゃってた。

 けど、今は常に冷蔵庫の中に大槻君の手料理ストックがあるおかげで、健康的で美味しいご飯を食べる事が出来てる。


「この前、晴翔君が作ってくれたキャロットラぺ。あれすごく美味しかったなぁ」


 人参の風味とシャキシャキとした食感に、粒マスタードの酸味と蜂蜜の甘さが混ざり合って、そこに絶妙な塩加減も加わって無限に食べちゃいそうなくらい美味しかった。

 人参があまり得意じゃない涼太も、晴翔君のキャロットラぺは一瞬で食べちゃってたし。


「そうねぇ。彩りにもいいし、あれは良かったわよね。あと私は、牛肉と春雨のチャプチェも好きだわぁ」


「確かに! 晴翔君の作るチャプチェは凄く美味しいよね」


 ママの意見に私は「うんうん」と大きく頷く。

 そんな私とママの様子を見た咲が、面白そうに笑う。


「大槻君、まじで東條家の胃袋掴みすぎ」


「咲も前にバーベキューで泊まった時に大槻君の作り置き食べたでしょ? 美味しかったでしょ?」


「まぁ美味しかったけど。その後、綾香に“晴翔君は私のもの”宣言もされたけどね」


「そ、そんなにハッキリとは……言ってないもん」


「おやおや? 綾香さん、お顔が赤いですぞ?」


「お、温泉に浸かって血行が良くなってるだけだから!」


 揶揄うように顔を覗き込んでくる咲から、私は顔を逸らす。そこにママが、ニッコリとした表情で口を開く。


「でも綾香には、この夏休み中に大槻君をものにしてくれないと。私、冷蔵庫の中から彼の作り置きストックが無くなると思うと、ゾッとして夜も寝れないわ」


 ママは両手で自分の肩を抱き締めてブルブルと震える。


「郁恵ママ、もう大槻君依存症になっちゃってる」


「咲ちゃん、大槻君は料理だけじゃないのよ? 掃除も丁寧だし、涼太の遊び相手にもなってくれるし、もう将来、家にくるお婿さんの最低ラインは大槻君レベルじゃないとダメね」


「うはぁ~、綾香の旦那候補の基準爆上がりだね!」


「ちょっと! ママも咲も勝手に話を膨らませないでよ!」


 さっきからママは晴翔君をお婿さんにとか言ってるけど、まだ付き合ってもいないんだから、そんな話されても困っちゃうよ。

 まずは晴翔君とちゃんとお付き合いをして、正式な恋人になってから、それからその先の事を考えるのが、普通だと思うんだけど。


「もう……どれだけ晴翔君の事、気に入っちゃってるのさ」


「そんなの、今すぐにでも東條家に迎え入れたいくらいに気に入ってるに決まってるじゃない。それに……綾香も好きなんでしょ? 大槻君の事」


「ッ……それは、うぅ……す、好きだよ?」


 私は恥ずかしさで自分の顔が熱くなるのを感じる。


 特に意識して隠してたわけじゃないから、ママにはもう晴翔君に対しての私の気持ちがバレていると思ってはいた。

 けど、こうしてハッキリ言われると、やっぱり恥ずかしい気持ちが溢れ出てきちゃう。


「大槻君が無理やり言い寄ってきたり、それを綾香が嫌がったりしていたら、定期契約を破棄してたかもしれないけど」


 ママは柔らかく包容力を感じる微笑みで私を見てくる。


「あなたが大槻君の事を好きなら、もう拒む理由なんて無いじゃない? 可愛い娘の幸せも叶って、素晴らしい家庭的な男の子がお婿さんに来る。親としては一石二鳥よ」


 そう言うママは、いつもの揶揄ってくるようなニヤニヤした感じじゃなくて、本当に私の事を考えてくれている様な優し気な表情をしてる。


 もう、そんな顔で言われたら余計に恥ずかしくなるじゃない……。


 私は恥ずかしさと、赤くなった顔を隠す様に口元まで温泉に浸かる。

 そんな私の隣で、咲が「ところでさ」と話しかけてくる。


「大槻君から告白されそうな感じはまだ無い? 偽の恋人脱却は出来そう?」


「う、う~ん。どうだろう……私的には結構頑張ってアピールしてるつもりなんだけど……」


 咲の言葉に、私が迷いながら答える。

 すると、ママが今までにない位に顔を輝かせて、弾む様な視線を私に向けてきた。


「なになに? 偽の恋人って何の事なの?」


 興味深々と言った様子のママに、咲が「あれ?」と少し気まずそうな表情で私を見てくる。


「もしかして、大槻君との事、郁恵ママには内緒にしてた?」


「えっと、内緒にしてたわけじゃないけど……私から話すのも恥ずかしくて……」


 それに、ママならまだ大丈夫だけど、パパに聞かれたらどんな暴走をするか分からないし。

 だから、部屋で恋人の練習をするときは、勉強をするって言って誤魔化してる。


「ちょっと綾香ったら。私に隠して大槻君と何をしていたの?」


 ママの表情がさっきの母親のものから、揶揄う様なニヤニヤとした笑みに変わって、私を問い詰めてくる。


「べ、別に隠してたわけじゃないけど……その……」


 私は迫り来るママの圧力に逆らえる気がしなくて、今の晴翔君との偽の恋人関係について、ママに説明する。

 もちろん、晴翔君の御両親の事とかは彼のいないところで勝手に話すわけにはいかないから、そこは伏せながらだけど。


 全部の説明を聞き終わった後のママは、目を輝かせて凄く楽しそうな表情を浮かべてる。


「まぁまぁ! そうだったの! あらあら、もう! 最近まで全く男の子の影すらなかったのに、良いわねぇ。青春ねぇ」


「ぱ、パパには内緒にしててね?」


「うふふ、分かったわ。内緒にしててあげる。それにしても、大槻君。結構大人びてる子だと思っていたけど、結構可愛い所もあるじゃない。それで……」


 ママは上機嫌なまま私の目を見てくる。


「咲ちゃんも言ってたけど、大槻君は堕とせそうなの?」


「うぅ……どうだろう……」


 晴翔君とは、結構いい感じになれているとは思う。

 思うけど……告白してくれるかどうかまでは、まだ分からない……。


 そこに咲が、顎に手を添えながら言う。


「バーベキューやった時と、今回のキャンプでの大槻君と綾香の二人を見てて私思うんだけどさ、もう絶対大槻君は綾香の事好きだと思うんだよね」


「そ、そうかな? そう見える?」


「うん、逆にもう、そうとしか見えない。だからさ、なんか告白のきっかけになる様なイベントがあればイケると思うんだよね」


「イベント……」


 告白してくれるようなイベントって何だろう?

 首を傾げる私に、咲が冗談っぽい笑顔で言う。


「例えば、大槻君を教会に連行して、二人で神父さんの前に立ってみるとか?」


「そ、それはもう告白じゃないじゃない! 永遠を誓うやつだよ!」


「でも綾香は、病める時も健やかなる時も大槻君の隣にいたいでしょ?」


「…………い、いたいけど……」


「ひゅ~、健気ですなぁ」


「も、もう! 揶揄わないでよ!」


 私は抗議の声と共に、咲に向かって軽くお湯をすくって掛ける。

 顔に温泉を掛けられた咲は「わぷッ、ふふふ、ごめんごめん」って謝ってくるけど、その表情は凄くニヤニヤしてる。


 そんな親友に、私が唇を尖らせていると、ママがぱっと閃いたように言ってきた。


「そういえば、来週花火大会じゃなかったかしら?」


「おぉ! 綾香、めっちゃ良いイベントあったじゃん!」


 ママの言葉に、咲もテンション高く私の方を見てくる。


「あ、う、うん……そういえば、そうだね」


「ありゃ? なんで微妙な反応?」


 咲はコテンと不思議そうに首を傾ける。


「いや、私も晴翔君と花火みたいんだけど……その……」


「その?」


「出来る事なら、晴翔君から誘ってくれないかなぁ~って」


 自分で言って恥ずかしくなった私は、モジモジと両手を合わせる。

 そんな私に咲は「はぁ~」って溜息を吐く。


「ま~たそうやって、欲張り綾香になるんだから」


「だ、だって……」


 積極的にいかないとダメなのは分かってるんだけど、やっぱり少しは理想も追い求めたいんだもん……。


「大槻君が花火大会の事を忘れてたら、誘われずに過ぎちゃうよ?」


「そうなる前には、私から誘うよ。でもまだ晴翔君から誘ってくれるっていう可能性もあるじゃない?」


「本当に、綾香は乙女だねぇ」


 咲はやれやれって感じで、首を横に振る。

 

 最近は結構、晴翔君との距離を縮められている気がするから、私的には誘ってくれる可能性は高いと思うんだけどな。


 そう思っているところに、ママが「そういえば」って言いながら私を見てくる。


「その花火大会の日は、涼太のお泊り保育の日ね」


「そう言えばそうだね」


 涼太の通っている保育園では、年長クラスになると一泊二日のお泊り保育というイベントがある。

 夕方の15時から登園して、次の日の10時まで涼太は保育園にいる事になる。


「私もその日はきっと帰りが遅くなると思うのよね」


 お泊り保育の日は、それに合わせて保護者達の交流会みたいなのも開催されて、ママはそれに参加するみたい。


「それに、来週からは修一さんも出張に行っちゃうし」


 そう言った後に、ママはニッコリと私に笑い掛けてくる。


「その日、家にはあなた一人しかいないから、花火大会の後の良い雰囲気のまま、大槻君を家に連れ込むチャンスよ!」


 パチッとウィンクしながら、保護者らしからぬ発言をしてくるママに、私は顔を赤くしながら抗議する。


「つ、連れ込むって! ママがそれ言っちゃ駄目でしょ!? 親はそういう事にならない様にするでしょ普通は!」


「そうねぇ。確かに孫が出来るのにはまだ早いわねぇ」


「ま、孫ッ!?」


 思わず私は絶句しちゃう。


 いままで、パパは結構警戒が必要だけどママは大丈夫だと思ってた。けど、もしかしたらママもかなりヤバいのかも……。


 私は「孫の顔を見たい気持ちもあるけどねぇ」なんて事を言ってるママに警戒の眼差しを向ける。

 そこに隣の咲が悪ノリしてくる。


「大槻君も男の子だからね。綾香のこの魅力的なボディで迫ればイチコロよ!」


「わ、私達はまだ高校生なんだから! 清い交際をしなきゃダメ!!」


 私は、胸をツンツンと突っついてくる咲の手を払いのける。


「そもそも、私はまだ晴翔君と付き合えてないんだから! まずは正式な恋人にならなきゃ!」


「もう、綾香ったらそんなにムキになっちゃって。冗談に決まってるでしょ?」


 ママが「ふふふ」と笑いながら言う。


「本当に? 本気で冗談で言ってる?」


 私が疑いの目をママに向けると、ニッコリと笑みを返された。


「勿論、半分は冗談よ」


「半分は本気じゃん!!」

綾香の晴翔に対する意気込み: じゅ、順序を大切にしないと!

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