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家事代行のアルバイトを始めたら学園一の美少女の家族に気に入られちゃいました。【書籍化&コミカライズ】  作者: 塩本


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第五十五話 恋人の練習(上級編) 後編

「それじゃあ交代だね」


 ひと通り晴翔の柔軟が終わり、綾香は晴翔の背中から離れて言う。


「今度は晴翔君が私の背中押してね」


 そう言って、今度は綾香がヨガマットの上に足を延ばして座る。

 自分の柔軟の時に、なんとか精神統一をして心を落ち着かせた晴翔は、綾香の後ろに移動して、そっと彼女の背中に手の平を添える。


「じゃあ押すよ?」


「うん、いいよ」


 一声かけてから、晴翔は綾香の背中をゆっくりと押していく。それと同時に彼女の口から「うにゅ~」と変な声が聞こえてくる。


「……大丈夫? 痛くない?」


「ふうぅ~……だ、大丈夫」


 グッと爪先目掛けて必死に腕を伸ばす綾香から、何とも可愛らしい呻き声が漏れ出す。

 それを聞いた晴翔は、必死に笑いを堪える。


「なら、もう少しだけ強く押すよ?」


「う、お願いします……」


 晴翔は最初よりも少しだけ強く背中を押す。


「はい、ここで10秒間キープ」


「ぐぬぅ……」


「いーち、にーい、さーん……」


「晴翔君……数えるの遅くない?」


「よーん、そんな事無いよ? 普通だよ? はい、ごーお、ろーく……」


 晴翔がカウントしている間、綾香は若干苦しそうにしながらも「ふぬぬ……」と呻きながら耐えている。


「きゅ~う、じゅう、はい、おっけ」


「ふうー! 凄く伸びた~」


「じゃあ今度は足を開いて、右に体を倒そうか」


「……晴翔君って実は結構スパルタだったりする?」


 後ろにいる晴翔の方を振り返りながら、綾香はジト目で言う。

 晴翔はそんな彼女にニッコリと笑みを浮かべて返す。


「そんな事は無いよ? 俺は褒めて伸ばすタイプだよ」


「うーむ」


 否定する晴翔に、彼女は少し不服そうな表情を浮かべる。


「はい、前を向いて。右に体倒すよ」


「うぎゅ〜……」


 晴翔に背中を押され、再び可愛らしい呻き声をあげる綾香。

 彼女は特段に体が硬いというわけではないが、幼少期から柔軟をしてきている晴翔と比べると、全然体の傾きが違う。


「いーち、にーい、さーん……」


 綾香の背中を押しながらカウントする晴翔。

 彼女に背中を押されている時、ちょくちょく感じる柔らかい感触にドギマギさせられた晴翔は、そのお返しというわけではないが、ほんの少しだけ数を数える速度をゆっくりにする。


 開脚して、右左と前にそれぞれ上体を倒した綾香は、今度は足の裏をそろえて座り、両膝を晴翔に押してもらう。


「晴翔君の教育方針が褒めて伸ばすだったら、もっと私を褒めながら押してほしいな」


 先程から容赦なく背中を押してくる晴翔に、綾香は少し唇を尖らせる。


「……綾香、身体柔らかいね~。はい、ゆっくりと数を数えるよ? いーち、にーい」


「馬鹿にされてる気がする……」


「もうちょっと膝を押すよ? 綾香ならきっとできるよ。はい、ごーお、ろーく」


「うぬぬぬ……」


「きゅーう、じゅう、はい終わり。よく頑張りました」


 最後にポンポンと肩を軽く叩いて労いの言葉を掛ける晴翔に、綾香は「はふ~」と息を吐き出す。


「じゃあ準備体操は終わったから、次は本題のカップルヨガだよ」


「了解、えーと……どのポーズから始めようか?」


「まずは、この座って体を捻るやつにしよ?」


 綾香は晴翔にスマホの画面を見せながら提案する。


「おっけ、まずは背中合わせに胡坐をかくのか」


 晴翔は彼女のスマホの画面をのぞき込んでポーズの確認をする。

 彼が胡坐をかいてヨガマットの上に座ると、そこに背中を合わせるように綾香も胡坐をかく。


「これで、腰を捻って晴翔君の膝に手を置けばいいんだよね」


「そうだね。俺も綾香の膝に手を」


 二人は揃って体を捻り、お互いの膝の上に手を置く。


「どう? これで合ってる?」


「多分。でもなんだか腰とか背中が伸びて気持ち良いかも」


 お互いに背中合わせに胡座をかき体を捻った態勢をキープする。

 晴翔の背中には、綾香の背中がピッタリと密着していて、そこからは柔らかな温もりと彼女の呼吸が伝わってくる。

 その感じに、晴翔は自然と鼓動が高鳴り顔が赤くなってしまう。


「次は反対側だね」


「了解」


 綾香の言葉に、2人は体を捻る向きを逆にする。

 晴翔は、綾香と2人でヨガをしながら、頭の中は彼女の気持ちについて、彼女が自分の事をどう思っているのか、その事で一杯になっていた。


「ふぅ、じゃあ次はこのポーズをやろう?」


 綾香は再び晴翔にスマホの画面を見せる。

 そこには『木のポーズ』と書かれていて、男女のペアが2人寄り添う様に片足で立って手を上にあげ、まるで一本の木の様なポーズをしている画像があった。


「……結構距離近いね」


「カップルヨガだからね。晴翔君は嫌?」


 小首を傾げながら訊いてくる綾香。

 晴翔はその表情を見て、ずるいと感じる。そんな顔でそんな事を言われては、断れるはずがない。


「えーと、俺はこうやって立てばいいのかな?」


 綾香のスマホ画面を見ながら、晴翔は木のポーズを取る。

 それを見て、彼女も嬉しそうな表情を浮かべ晴翔の隣に移動して彼と同じ様なポーズを取る。


「カップルヨガ、結構楽しいね」


 ニコニコと、すぐ隣で笑みを浮かべて言う綾香の横顔を晴翔は横目に見ながら、彼女の心の内を推し量る。


 綾香は俺のことをどう思っているのか……。


 パーソナルスペースも何もないくらいに密着しているのに、嫌な顔一つせずに楽しそうに笑う綾香。

 祖母の前で、完璧な彼女を演じたいからと綾香から提案してきた恋人の練習。


 これは本当に、偽の彼女のクオリティを上げる為に提案したのだろうか?


 そんな事を考える晴翔の脳内に、再び雫の言葉が蘇る。彼女の盛大な溜息を漏らす表情と共に。


『恋人の練習? それは東條先輩がハル先輩に振り向いてほしくて頑張ってるんですよ』


 もし雫の言葉が本当だとしたら……。


「晴翔君、次はこのハートのポーズやってみようよ」


 楽しげな綾香の笑顔を見て、晴翔は思う。


 俺は雫の言う通り、鈍感でニブチンで朴念仁だったのかもしれない。

 だけど、もしこの俺の考えがただの勘違いだったら……。


 綾香の気持ちを勝手に解釈して、それで告白をして断られでもしたら、晴翔はこの先の家事代行のアルバイトが地獄と化してしまう。


 晴翔の内心の葛藤など分かるはずのない綾香は、彼を悩ます魅力的な笑顔を向ける。


「晴翔君は左足を前に出して、私は右足を前に出すから」


「こうでいい?」


「うん。で、足を揃えて手をつなぐ」


 そう言いながら綾香は晴翔の方に手を伸ばしてくる。その手を晴翔が掴む。


「これでハートの形を作るように引っ張り合う」


 彼女のその言葉を合図に、晴翔はグッと綾香の手を引く。


「あはは、このポーズ写真に撮りたいね」


「でも、この格好を他に人に見られるのはちょっと恥ずかしいかな」


 学園のアイドルである綾香と、こんなにも密着して楽しそうにカップルヨガをやっているところを学校の男子達に見られたら、きっと晴翔は速攻袋叩きにあってしまうだろう。


「晴翔君、次は船のポーズだよ」


「これ、結構身体柔らかくないと難しくない? 綾香、大丈夫?」


「あ、いま馬鹿にしたな? 大丈夫だもん、できるもん」


 ぷっくりと可愛らしく頬を膨らませる綾香に、晴翔は自然と笑みを浮かべ、その後も綾香とカップルヨガに勤しんだ。


 カップルヨガを一通りこなした後、綾香と晴翔の二人は机の上に勉強道具を広げて、今度は勉学に励む。

 郁恵と修一には勉強をすると公言しているため、いつまでも恋人の練習をやっているわけにはいかない。

 ある程度はしっかりと勉強をして、夏休み明けの試験で良い点数を取らなければ、郁恵たちに「いったい何をやっていたの?」と突っ込まれてしまう。


 綾香は真剣な表情でノートにペンを走らせながら言う。


「カップルヨガの効果かな? なんかすごく集中できてる気がする」


「血行は良くなってる気がするね。体もほぐれたし」


 晴翔は、一旦勉強する手を止めてスマホを手に取り、カップルヨガの効能について調べる。


「ヨガには瞑想の効果もあるから、集中力強化にはもってこいだね」


「睡眠改善にもなるし、あとダイエットにもなるもんね! やってみたら結構楽しかったし、カップルヨガは良い事づくめだね!」


 満面の笑みを受けべて言う綾香に、笑顔で返す晴翔はふとカップルヨガの効能についての注意書きを読んでしまう。


「……ねぇ、これ。ダイエット効果が発揮されるには3~4カ月続ける必要があるって載ってるんだけど?」


 その言葉を聞いて綾香のペンがピタッと止まる。

 彼女はゆっくりと顔を上げると、おもむろに親指を立てる。


「継続は力なり。だよ晴翔君」


「……ですね」


 晴翔は苦笑いを受かべながら勉強を再開する。


 きっとこの先も、ちょくちょく「カップルヨガやろ?」って誘われるんだろうな。


 そんな事を思いながら、それもまた悪くないのかもしれないと考える晴翔であった。

 

お読みくださり有難うございます

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― 新着の感想 ―
[良い点] この話の綾香は可愛すぎる!更新ありがとう!
[一言] もうニヤニヤが止まらん!笑
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