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家事代行のアルバイトを始めたら学園一の美少女の家族に気に入られちゃいました。【書籍化&コミカライズ】  作者: 塩本


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第五十話 BBQは全てが美味しい

 東條家主催のバーベキュー。

 それは一般庶民である晴翔にとって、とても贅沢なものとなっていた。


「これは俺の知っているタンの厚みじゃない……しかも、牛タン……」


 これ一切れで一体いくらするのだろうか。

 想像するだけで体が震えてしまいそうになる晴翔は、慎重にトングで極厚牛タンを掴むとそっと網の上にのせる。

 途端にジューとなんとも魅力的な音が耳に響く。


「大槻君、ここにレモン汁あるから使ってね」


「あ、はい。ありがとうございます」


 郁恵が晴翔の目の前にレモン汁を置いてくれる。


「綾香さんと藍沢さんもいる?」


 自分と涼太の小皿にレモン汁を入れた晴翔が言う。


「うん、もらおうかな」


 頷く綾香に、晴翔はレモン汁を手渡すと、すぐに視線を網の上の極厚牛タンに戻す。

 じっと真剣な眼差しで極厚牛タンを見つめる彼の姿に、思わず綾香は笑みを浮かべる。


「晴翔君、すごい真剣だね」


「こんないい肉、絶対に焦がしたくないからね」


「わかる~、こんな豪勢なバーベキューができるなんて、やっぱり持つべきはブルジョアな友達だね」


 網の上で焼かれている肉達に、瞳をランランと輝かせながら咲が晴翔に同意する。


「えぇー、じゃあ咲は私が貧乏だったら友達になってくれなかったの?」


「もちろん!」


 親指をグッと上げて即答する咲に、綾香は「もう!」と言って親友の肩を軽く叩く。

 咲の言葉が冗談と十分理解している綾香は、頬をぷくっと膨らませる。


「もう咲とは口きかないもん」


「寂しいこと言わないで綾香~私達ずっ友でしょ?」


 咲も綾香が本気で拗ねている訳ではないと分かっているので、へらへらとした様子で綾香に抱き着きながら言う。

 対する綾香は「もう知らない」と頬を膨らませたままプイッと顔をそむける。


「大槻君、綾香が拗ねちゃった。機嫌直してあげて?」


「え? 俺?」


 今まで一心不乱に極厚牛タンの焼け具合に集中していた晴翔は、急に話題を振られてキョトンとした表情を浮かべる。


「そうそう、大槻君が頭を優しく撫でてあげれば、一瞬で綾香の機嫌は直るから。お願い」


「え、えぇ……ここではちょっと」


 綾香の部屋でやっている恋人の練習ならまだしも、今は涼太や郁恵、修一がいる。

 そんな状況で彼女の頭を撫でようものなら、何を言われるか分からない。

 晴翔はチラッと修一が手に持っているグラスの中身を見る。

 クリーミーな泡を乗せた黄金色の液体。あれは確実にビールである。

 アルコールが入って上機嫌になっている修一の前で、晴翔が綾香の頭を撫でている光景を目撃したら、修一はそのまま役所から婚姻届を持って来る可能性すらある。


 それに、頭を撫でられるなんて恥ずかしい事、綾香も望んでいないのではと、晴翔が綾香の様子を伺う。


「……機嫌直っちゃうかも……」


 晴翔と目があった綾香が、小さな声でボソッと呟く。


 いやいやいや! 何を言ってるんですか綾香さん!?


 晴翔は内心で戸惑いの声を上げる。

 しかし、そんな彼の心の内など知らんとばかりに、綾香は期待したように晴翔をじっと見つめてくる。

 頭を撫でやすいようにだろうか、ほんの僅かにだが頭も晴翔側に傾けている気がする。


 綾香の後ろでは、この状況を作り出した張本人である咲が、これでもかというほどにニコニコとした笑みを浮かべて2人の様子を眺めていた。


「…………」


 晴翔はチラッと修一と郁恵の様子を伺う。


 修一は上機嫌にビールを煽り、郁恵は涼太に「お野菜もちゃんと食べるのよ」と言いながら、玉ねぎを焼いている。


 晴翔はいまだに期待のこもる眼差しを向けてくる綾香に、数秒ほど考えた後、ゆっくりと彼女の頭に手を伸ばす。


「頭に灰がついてるよ」


 そう言いながら、晴翔はあたかも綾香の髪の灰を払うかのようにサッと頭を撫でる。


「ッ……あ、ありがと」


 頭を撫でられた綾香はさっと頬を染め、それを見た咲がニヤニヤと笑みを浮かべる。


「綾香、一瞬で上機嫌だね。さすが大槻君。できる男は違うね」


「藍沢さんの言ってる意味がよく分からないな……」


 晴翔もだいぶ照れ臭かったのか、すぐに視線を逸らしながら言う。


「おにぃちゃん、このお肉もう焼けてるんじゃない?」


「ん? あ! 高級タンがッ!」


 涼太の言葉に、晴翔はハッと網の上に視線を戻し、急いで極厚牛タンを火から上げる。


「危なかった焼きすぎるところだった……教えてくれてありがとう涼太君」


 そう言いながら晴翔が涼太の頭を撫でると、彼は「えへへ」となんとも嬉しそうな顔をする。


 晴翔は焼けたタンをレモン汁にチョンと付け、ゆっくりと口に運ぶ。

 途端、晴翔は目を見開く。

 タンらしい心地よい歯応え、噛めば噛むほど味が舌の上に広がり旨みを感じる。しかし、しつこい脂っこさなどは一切なく、レモン汁の酸味が良いアクセントとなりサッパリと食べられる。


「これは……美味すぎる!」


 あまりの美味しさに絶句する晴翔。

 そんな彼に修一が上機嫌に他の肉も勧めてくる。


「どんどん食べてくれ大槻君! ほら、カルビも買ってきてるしロースもあるんだよ」


 そう言って修一は次から次へと網の上に肉をのせていく。


 晴翔は、こんな良いお肉を焦がす訳にはいかないと、焼き上がった肉を手早く取り皿に上げていく。


「涼太君、カルビ食べるかい?」


「うん! 食べる!」


 晴翔は自分の分と一緒に涼太の分も取り、彼のお皿の上に置いてあげる。


「美味しいねおにぃちゃん」


「本当に、最高に美味しいね」


 お互いに笑顔で肉を頬張る晴翔と涼太。

 炭火で焼いた牛カルビは、口に入れた途端に香ばしい炭火の香りがフワッと鼻に通り抜け、噛むとジュワッと溢れる肉汁の旨みの洪水が舌の上を流れる。

 晴翔はすかさず白米を口の中にかき込む。

 カルビの脂とタレが米と混ざり合い、晴翔の口の中は噛む度に幸福感が広がる。


「大槻君、ご飯のおかわりもあるからね」


「あ、はい。ありがとうございます」


 牛カルビが余りにも美味しすぎて、晴翔は思った以上に米を豪快に食べてしまう。

 それをしっかりと郁恵に見られていた事に、晴翔は少し恥ずかしげに頭を下げる。


「修一さん、このホタテ焼いてもいいですか?」


 隣では咲が大振りなホタテの入ったトレーを持って修一に聞いている。


「もちろんだとも咲ちゃん。じゃんじゃん焼いていってくれ」


「いえっさー」


 早速彼女はワクワクした様子で網の上にホタテを並べていく。

 その隣で綾香が晴翔の方を見る。


「晴翔君、椎茸焼いたら食べる?」


「おぉ、なんと肉厚な椎茸。ぜひ食べさせて下さい」


「おねぇちゃん僕も食べる!!」


「はいはい。じゃあ沢山焼くね」


 綾香は咲が並べたホタテの隣に椎茸を並べていく。

 暫くするとホタテは殻が開き始め、グツグツと汁が溢れ出してくる。

 そして、椎茸も傘の部分に水分が出てきて椎茸特有のなんとも良い香りが立ち始める。


「ホタテはいい感じ〜、そろそろコレを投入しますかね」


 咲はホタテを開くと、その上にバターを乗せていく。


「うひゃ〜最高の眺め〜」


 出汁と溶けたバターで、グツグツと焼けていくホタテを見て、咲のテンションは爆上がりする。


「ここにお醤油っと」


 ジュッという音と共に、焦がし醤油の香ばしさと、バターの芳醇な香りがフワッと晴翔達の鼻腔をくすぐる。


「咲、こっちにもお醤油かけてくれる?」


「おっけー」


 綾香の言葉に頷き、咲は椎茸にも醤油をかける。

 磯の香りが混ざるホタテとはまた違った、魅力的な香りが立つ椎茸に、晴翔は思わず『ゴクリ』と唾を飲み込む。

 そんな彼に、綾香はさらに魅惑的な提案をする。


「晴翔君、チーズ乗せる?」


 そう言って綾香は、とろけるチーズを晴翔によく見えるように少し掲げる。


「なんと恐ろしい組み合わせ……是非、お願いします」


「おねぇちゃん僕もチーズ!!」


 懇切丁寧に頭を下げる晴翔と、はしゃいで手を上げながらアピールする涼太。

 綾香は「ふふ」と笑みを溢しながら、チーズを椎茸の上に乗せていく。

 そこで、隣の咲が満面の笑みで、ホタテの焼き上がりを告げる。


「完成! ホタテ食べる人〜」


 咲がそう言うと、全員が一斉に手を挙げる。


 晴翔は取り皿にホタテを受け取り、少し鼻に近づけその香りを堪能した後に、肉厚のホタテを口の中に投入する。


「ほふっ! あちっ! ほほぅ、うまっ!」


 噛んだ瞬間に、ほんの僅かにプリッとした弾力を残しながらもホロッと崩れるホタテの身からは濃厚な甘味が溢れ出る。

 晴翔はすかさずホタテの貝殻に残っていた汁をグイッと飲む。

 火傷しそうなほど熱かったが、ホタテの甘みの余韻が強く残る口内に、醤油バターの濃いめの味が、磯の香りのする出汁と混ざり合って流れ込み、噛めば噛むほど美味しさが増していく気がした。


「最高……」


 ポツリと呟くように言う晴翔。

 その向かいでは、修一も同じようにホタテの貝を持ってグイッと汁を飲んだ後、ビールをゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいた。


「ぷはっ! これはたまらないね」


 少し顔を赤くして上機嫌で言う修一。

 他の人達も皆、笑顔でホタテを頬張っている。


「あ、そうだ! 綾香一緒に写真撮ろ」


 思い出したように咲は自身のスマートフォンを取り出すと、綾香と並んで自撮りを始める。


「綾香もうちょっとお皿上にして焼いたのが見えるように、そうそうそう! 撮るよ〜」


 楽しそうに綾香と2人で写真を撮る咲。

 数枚シャッターを切った後に、今度はそれを晴翔の方に向ける。


「はい涼太、もっと大槻君の方に寄って」


「んん? こう?」


 咲の指示に、涼太はスススッと晴翔の方に体を寄せる。


「バッチリ! はいチーズ」


 少し不意打ち気味に撮られた為、晴翔は完全にホタテに気を取られていた。


「あははは! 大槻君の顔! ホタテにうっとりし過ぎ!」


「ちょい藍沢さん、不意打ちはずるいって」


 写真を見て笑う咲に、晴翔は苦笑を浮かべながら抗議する。


「じゃあ大槻君も私たちを撮って良いよ?」


 咲はそう言うと、綾香に抱き付いて晴翔の方を見る。


「ほら、JKツーショットのチャンスですよ大槻さん」


「あ、ちょ、ちょっと待って」


 ノリノリの咲に抱きつかれた綾香は、慌てて前髪などに手櫛をして身なりを整えようとする。


「えと、撮って良いよ」


「ほら、綾香もこう言ってるから」


 咲は晴翔に向かってピースをしながら催促してくる。


「じゃあ、一枚だけ」


 そう言いながら晴翔は自分のスマートフォンで、綾香と咲のツーショットを撮る。


「撮れた? 見せて見せて」


 咲の言葉に、晴翔が「こんな感じ」と言いながらスマホの画面を見せる。

 満面の笑みで綾香に抱きつく咲と、少し恥ずかしげな上目遣いになっている綾香。


「おぉ、いい感じに撮れてるじゃん? 大槻君の待ち受けにしても良いよ?」


「いや、それはさすがに……」


「でもこの綾香すごく可愛いじゃん? ね? 大槻君」


「まぁ、それは認める」


「だって〜綾香」


 そういってポンポンと咲に肩を叩かれた綾香は、頬を染めながら、場を誤魔化すように焼いている椎茸に目を向ける。


「あ、椎茸焼けたよ。はい、晴翔君。涼太も取り皿ちょうだい」


 焼けた椎茸を配給する綾香に、咲はニマニマとした笑みを浮かべる。

 と、そこでビールを片手に持った修一が、思い出したかのように晴翔に声をかける。


「そういえば大槻君。さっき火起こしが好きって言っていたけど、アウトドア系は好みかい?」


「そうですね、キャンプとかの経験はあまり無いですけど、そういうのは好きです」


 焼きたての椎茸に舌鼓を打っていた晴翔は、修一の話に一旦手を休める。


「おぉ! キャンプは好きなんだね? 実は来週家族でキャンプに行く予定になっているんだが、大槻君も一緒にどうかな?」


「え? ご一緒しても良いんですか?」


「もちろん! 咲ちゃんも良かったらどうかな?」


 咲にも話を振る修一。


「わたしも良いんですか!?」


 少し驚いたような反応を見せる咲に、綾香が言う。


「一緒にキャンプ行こうよ」


 綾香のその一言で、咲はピッと手を挙げる。


「はい! 是非参加したいと思います」


「うん。大槻君はどうかな?」


「え〜と、それじゃ参加させて頂きます」


 そう言って頭を下げる晴翔。

 隣に座っていた涼太が表情を輝かせる。


「おにぃちゃんと咲おねぇちゃんも一緒にキャンプ?」


「うん、よろしくね涼太君」


 ニッコリ笑いながら言う晴翔に涼太は「やったぁー!」と両手をあげて喜んだ。

お読み下さりありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最初の方は設定で読めますが、ここら辺まで来ると山がないですね。
[良い点] 第五十話だ!咲すごい、綾香と晴翔を後押ししてますね!それでキャンプ、楽しみ…更新ありがとう!!
[一言] ここは祖母が倒れたばかりで心配だからって辞退を申し出て、だったらお祖母様も一緒にどうだい!って家族交流のフラグ立てて欲しかった
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