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第五話 東條綾香の気持ち①


 私は物心ついた時から、周りの人たちから可愛いと言われてきた。

 幼稚園の頃はよく、他の子の親から「あら可愛いねぇ」と声を掛けられた。


 小学校に上がってからは、男の子たちからイタズラやちょっかいを頻繁に掛けられた。

 今になって思えば、あれは男子達が私に寄せる好意の裏返しだったんだと思う。

 そんな男子達からのイタズラや嫌がらせも歳を重ねるごとに減っていって。中学生になる頃には、ほとんど無くなっていた。


 そして、代わりに増えたのが告白。


 1ヶ月の間に数回は必ず男子から告白された。

 ひどい時には1週間、毎日告白された事もあった。


 初めて男の子からの告白を受けた時、一番初めに私の心に湧き上がった感情は戸惑いだった。


 だって、今までずっとイジワルや嫌がらせをしてきた男の子達が急に『好きです』なんて言ってきても、それは戸惑って当然だと思う。

 それに、あの頃から私は、男の子はイジワルをしてくる存在だと思って避けるようにしていたから、一緒に遊んだり会話を交わしたりするような男の子は1人もいなかった。


 男子達から受けた告白は、当然全て断ってきた。


 ろくに人柄も知らないのに、付き合うなんて私には考えられない。

 親からも小さい時から『人は見た目じゃなくて中身だ』なんて言われて育ったものだから、余計にだ。


 まずは挨拶などの会話を交わすようになって、それから友達になり、お互いのことを分かってきて惹かれて好きになり告白。

 こういう流れなら私も受け入れるかもしれない。


 でも私に告白してくる男子はみんな『君に一目惚れした!』って言ってくる。

 

 一目惚れというものを全否定するわけじゃないけど、私には理解できない。

 だから、次から次へと告白してくる男子を全て拒否してた。


 そんななかで事件が起きた。

 急に仲良くしていた友達から、泣きながら『私の好きな人を取らないでよ!』と訴えられたのだ。


 一瞬私は、彼女が何を言っているのか理解ができなかった。


 その当時の、と言うか今もだけど私の友達は女の子しかいない。

 それに男の子を避けていた私は、自分から話しかけるような男子もいない。

 そんな状況で友達の想い人を奪うようなことが出来るはずがない。


 その友達は何か誤解をしていると思った私は、泣いている彼女からどうにかして話を聞き出した。

 

 彼女の話によると、どうやら私に告白してきた男子の中に、その友達が好きな人がいたらしい。


 どうしろと言うの?

 向こうが勝手に私に告白してきたのに。


 私はその友達の好きな男子とは一切関わりがなかった。それどころか、会話すら一度も交わしたことがない相手だった。


 結局、中学を卒業するまでその友達とは疎遠になってしまった。


 その事件をきっかけに、私は更に男子達とは関わらないようになった。

 それと、中学生の後半くらいから男子を遠ざけるようになった理由がもう一つある。


 それは視線。


 中学2年生くらいから、私の胸はどんどん大きくなってきて、それに比例して男子達の視線を以前よりも多く感じるようになった。

 大抵はチラチラと横目に見てくる感じだったけど、中にはガッツリガン見してくる輩もいた。

 そんなネットリとまとわり付くような視線を怖く感じた私は、高校生になる頃には軽い男性不信になっていた。


 高校生になっても相変わらず告白は後を絶たなかった。

 でも、中学の時に起きた事件から学んだ私は、周りの友達に徹底して『私は男や恋愛にはこれっぽっちも興味ありません』というスタンスをアピールした。

 その甲斐あって、高校2年生になった今でも、対人関係は上手くいっている。

 まぁ、青春真っ盛り華の女子高生なのに、友人が全て女子で恋愛の影も形もない今の状況を世間一般的に上手くいっていると言うのかは少し疑問だけどね。

 でも男子という存在は、今の私にとっては災いの元でしかない。


 その最たる出来事がこの夏休みに入る直前に起きた。


 終業式の後の放課後、友達と夏休みの事で談笑をして、そろそろ帰ろうかなという時に、私はいきなり校内放送で呼び出された。

 一瞬訳が分からず呆然としている私とは対照的に、周りの女子達はキャーキャーとはしゃいでいた。


 どうやら私を呼び出したのは、3年生の先輩らしい。


 名前は確か……後藤とかだった気がする。いや、斉藤だったかも。


 とにかく私は、その先輩が校内放送なんか使ったせいで、呼び出しに応じなければならない状況になってしまった。

 まぁ、それが相手の狙いだったのだろうけど。


 私は未だ多くの生徒が残っている放課後の学校で、羞恥に耐えながら校庭に行くと、そこには元凶の斉藤……安藤先輩だったかな? まぁ、その人がいた。

 そして何をとち狂ったのかいきなり指輪を取り出してプロポーズをしてきた。


 周りの校舎から告白の様子を見ていた生徒達からは、ものすごい歓声が上がっていたけど、私はあまりの恥ずかしさと、安藤先輩の非常識さに軽いパニック状態になって「興味ありません」とだけ伝えて、急いでその場から去った。


 そこからの記憶は曖昧。

 気付いたら家に帰ってきていて、自分の部屋のベッドにダイブしてた。


 頭の中ではさっきの伊藤先輩の奇行が頭を離れない。


 この出来事は絶対に夏休み明けのネタにされる。

 しかも、今回告白してきた伊藤先輩は結構有名で女子の人気が高いらしい。

 何がどう有名でなぜ女子人気が高いのか、私は全く知らないが、これだけは確かである。そういう男子に告白された後には一定数の女子から恨まれるという事だ。

 

 夏休みに入る前から夏休み明けのことを想像して憂鬱になる私は、ベットに突っ伏したままスマホを取り出し、連絡アプリを開いて藍沢 咲(あいざわ さき)と表示されたトークを開き、すかさず通話ボタンを押した。


 暫しの呼び出し音の後、相手と通話が繋がる。


『もっし〜、やっぱりくると思ってたよ』


「咲ぃ〜、もうやだ〜学校行きたくないぃ〜」


『明日から夏休みだよ』


「ずっと夏休みがいいよ〜」


 私は小学校からの親友に泣きついた。


「なんなのあの遠藤先輩って人! 校内放送で呼び出すとか頭おかしいよ!」


『あはは、校内放送はないよね。あれはマジで綾香に同情したわ』


「今度学校で遠藤先輩を見かけたら私、恨みで睨みつけちゃうかも……」


『そしたら喜んじゃうかもよ? それと遠藤じゃなくて皆藤先輩な。校内放送告白をしてきたのは』


「そうだっけ? もう名前なんて覚えてないよ……恥ずかしすぎて先輩の話なんて1ミリも耳に入ってこなかったし」


 そんな私の言葉に、通話画面越しに咲の笑い声が響いてきた。


『ぶふっ、皆藤先輩可哀想過ぎる。せっかく告白したのに全然綾香に届いてない。ははは』


「可哀想なのは私の方だよ! あの人、人気高いんでしょ? もう絶対恨みを買っちゃうよ……」


『皆、夏休みの間に忘れちゃうかもよ?』


「そうかな? 今回のってインパクト凄くない? だってプロポーズだよ? 指輪付きの」


『あ〜、まぁ、ね』


 私達はまだ高校生なのに。

 付き合う付き合わないとかをすっ飛ばしていきなり婚約とか、本当に意味が分からない。


「あぁ〜、やっぱり私、女子校に行けばよかったかも……」


『そしたら、うちとは離れ離れになってたけどね』


「それはいやぁ〜」


 今の通話相手の藍沢 咲とは小学一年生からの親友だ。これまでの楽しい事や辛い事は全て彼女と共有してきた。

 今では今回のような事も気兼ねなく話せる唯一無二の存在だ。そんな彼女と別々の学校に行くなんて私には考えられない。


「ねぇ咲。私と一緒に女子校に編入しよ?」


『無茶言うな』


 即答された私はむぅと唇を尖らせる。

 当然、私も冗談で言っているので本気にされるとそれはそれで困るんだけどね。

 それでも取り敢えず抗議の声は上げておく。


「咲のケチ」


『前にも言ったけどさ、綾香も彼氏作ればいいんだよ』


 親友のその言葉に、私は以前言われた事を思い出した。


 あれは私が高校入学して早々に3人の男子から立て続けに告白を受けて辟易(へきえき)してた時。


 咲が私に『男避けの為に彼氏を作っちゃえばいいんじゃない?』と提案してきた。

 でも、そんな事で簡単に彼氏を作れていたら、そもそも告白される事についてこんなに悩む事はない。

 そのときの私は咲の提案を一蹴した。


「それは無理だよ。しかも告白されたくないからって理由で好きでもない人と付き合うのは不誠実すぎない?」


『そう? でもさ、なんか告白されないように、偶然出会った男子と偽の恋人関係を築くってちょっと恋愛漫画ぽくて良くない? 綾香もそういうの好きじゃん?』


「確かにそうだけど……」


 私は咲の言葉に曖昧な返事をしながら、部屋の本棚に視線を向けた。

 そこにはぎっしりと恋愛漫画が詰め込まれている。

 現実で恋愛ができない反動が、恋愛漫画の大量購読という行動に繋がっている。


 男や恋愛に興味がないというスタンスは、あくまで良好な友人関係を築くための防衛策である。私だって普通の女子高生なんだから、人並みに恋愛をしたいという願望はある。


『ほらほら良いでしょう? そして初めはニセモノの恋人同士だったのに気付いたらお互いに意識しあってて、そしてやがては本物の恋人同士に……きゃはっ! 最高!』


「ちょっと1人で勝手に盛り上がらないでよ」


『という訳で、綾香は偽の恋人を作るしかないとおもいます!』


「無理だよ〜、そもそもそんな偽の恋人役をやってくれる人がいないよ」


 自意識過剰というわけじゃないけど、私の行動が学校に、特に男子達にどういう影響を与えるのか、多少は自覚しているつもりだ。

 もしも私が特定の誰かと、たとえニセモノの関係だったとしても恋人関係になれば、その人に多大な迷惑をかけてしまうかもしれない。


『う〜ん、私的には同じクラスの大槻君が綾香には合うと思うんだけどなぁ』


「大槻君? それって……あ、テストの順位学年一位の人?」


 咲の言う人物を私は記憶の片隅から引っ張り出した。

 男子の事を避けているとはいえ、一応同じクラスメイトの名前くらいはちゃんと覚えるようには心掛けている。


『そうその人。大槻君は綾香と相性いいと思うよ〜』


「えぇ〜、なんで?」


『ほら、大槻君って他の男子に比べたら落ち着いた雰囲気でガツガツしてないじゃん? それになんか紳士っぽい感じするし』


「そう……なの?」


 私は普段学校では女子としか接しないせいで、クラスの男子たちがどういう感じなのかほとんど分からない。


「でもさ、凄く頭が良いなら女子からの人気も高くない?」


 中学の時に起きた事件以降、私は友達の女子から反感を買いやすいモテ男子には苦手意識が強い。


『あ〜まぁ、人気は高いかな? うちのクラスの女子人気ツートップの1人だね』


「ツートップってことはもう1人は誰?」


『赤城君って人』


「んーと、あの髪の毛が明るい色でピアス開けてる人?」


『正解!』


「あの人は私ちょっと苦手かな」


 咲の話す赤城君って人は、少しチャラそうな雰囲気で結構グイグイきそうな感じで苦手かもしれない。


「でも大槻君も私は無理かなぁ。やっぱり女子人気が高いと色々と大変なことが起きそうだし」


『え〜、私はお似合いだと思うよ?』


「どうして咲はそんなに大槻君を推してくるわけ?」


『それはねぇ、噂なんだけど大槻君って空手の道場に通ってるんだって。だから綾香の側にいると守ってくれそうじゃん? そうなってくれると親友としては安心なわけですよ』


 私は今までに何度か軽いストーカー被害に遭っている。咲はそういう事を心配しているのだろう。


「でもそれって恋人じゃなくてボディガードじゃない?」


『それな』


「もう! ふざけないでよ〜」


 そう言いながらも私は思わず口元に笑みを浮かべる。


 やっぱり咲と話していると、嫌なことがあっても自然と心が軽くなる。


「ねぇ、あした一緒にカフェ行かない?」


『お? いいねぇ。どこのカフェ行く? 夏休みだし新規開拓する?』


「そうだね。それも有りかも」


 咲と明日のカフェの話で盛り上がっている時、階段の方から母親の声が聞こえてきた。


「綾香ぁー、ちょっとお話があるから下に降りてきてー」


「はーい! ごめん咲、ママに呼ばれちゃった」


『はいはい、じゃあ明日の予定はまたあとで連絡する』


「うん、それじゃあね」


『また後で』


 私は通話を終了させると、自分の部屋から出てリビングへと降りていった。

 

綾香の晴翔に対する印象:ただのクラスメイト





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― 新着の感想 ―
彼女の見た目だけで主人公がドギマギしてるシーンは必要なかったかな そこは信念もって客として対応してる描写だけでよかった やっぱり見た目だけで特別視してる感が否めないから主人公の内面のブレが目立ってしま…
[一言] こういうので主人公イケメンなの珍しいな
[一言] やはり人気あったかちくしょうめ(頑張ってください)
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