第百七十三話 涼太からのプレゼント
ジャイアントスパークマウンテンを楽しんだ晴翔達は、その後も様々なアトラクションに乗って楽しむ。
事前に女子達が入念に計画を立てていたおかげで、日曜日というかなり混雑する状況でも、比較的多くの乗り物に乗れていた。
それでも、一つのアトラクションの待ち時間は長いと120分ほどになってしまっている。
非常にゆっくりと進む行列の中、友哉がピンと伸ばした手を大きく回す。
それと同時にセリフも言う。
「へーん、しんっ!」
ビシッとポーズを決めたあと、涼太の方を見た。
「さぁ、この変身ポーズは御免ライダーの何代目の変身ポーズでしょう?」
「えっとね、えっとね、その手の動きはね……5代目御免ライダー『奉行』の変身ポーズだ!」
「おぉ! 正解! やるじゃん涼太君」
「へへぇ。5代目はね、ポーズの最後に拳でベルトを叩くのが目印だよ!」
得意げに話す涼太に、友哉は「よし、じゃあ次の変身ポーズは何でしょう?」と先程とは微妙に違う変身ポーズをする。
待ち時間で涼太が退屈してしまうことを晴翔と綾香は心配していた。だが、長い待ち時間の間、咲が涼太に謎々を出したり、雫が石蔵を魔王に見立てて勇者ごっこを一緒にやったり、今のように友哉がヒーローもののクイズを出したりして、みんなで涼太が退屈しないように相手をしてくれていた。
こども達に大人気のヒーロー『御免ライダー』の歴代変身ポーズのクイズを出している友哉に、綾香がお礼を言う。
「ありがとう赤城君」
「いえいえ。それにしても涼太君凄いね。いま出した7代目の『将軍ライダー』とか俺ら世代の御免ライダーなのによく知ってるね」
「最近ハマってて、いっつも御免ライダー図鑑を持ち歩いてるから」
そう言う綾香の隣で、晴翔が少し感心したように友哉を見る。
「お前も凄いな。よく最近の御免ライダーのことも知ってるな」
自分が小さい頃に見ていた御免ライダーと、最近はたまに涼太と一緒に観ることがある最新の御免ライダーしか知らない晴翔。
そんな彼は、親友の御免ライダーに対する知識量に驚く。
「へへっ、御免ライダーは全男子の憧れだからな」
友哉は得意げな表情でそう言うと、キリッとキメ顔を作る。
「弱き善の為、悪を討つ。たとえ拙者の身が朽ち果てようとも。斬り捨て御免!」
セリフと共に刀を振り下ろすような動作をする友哉。それを見て涼太が瞳を輝かせる。
「初代御免ライダーの決め台詞だっ!! 斬り捨て御免っ!!」
はしゃぎながら友哉と同じ動作をする涼太。
その姿を見て、綾香は微笑みながら弟を落ち着かせる。
「迷惑にならないようにちゃんと周りも見てね」
「うん!」
これまでの微笑ましいやり取りを見ていた雫は、無表情ながらも、楽しげな声音で石蔵に言う。
「カズ先輩。いまトモ先輩と涼太君の二人に斬られたんですから、ちゃんと『ぐわっはぁぁ〜』とリアクションしないとダメです」
「俺の存在を悪にすんじゃねぇ!」
「でも涼太君に斬られるのは本望では?」
「……それは、否めん」
ニコニコと楽しげな涼太を見て、ボソッと答える石蔵に、咲が「そこは否定しましょうよ」と軽いツッコミを入れていた。
長い待ち時間も、みんなで楽しみながら夢の国を満喫する晴翔達一行。
彼らは混雑を避けて少し早めの昼食をパーク内レストランで食べたあと、いろいろなグッズが販売されているショップに立ち寄った。
「ふむ、やはりここに来たからには、これを装着しないといけませんね」
雫は真面目にそう言うと、棚からカチューシャを一つ取ってそれを自分の頭に乗せる。
「どうです?」
雫が付けたカチューシャには、遊園地のマスコットキャラクターの耳が付いていた。
まるで猫耳をつけたような格好になっている雫に、咲がにこやかに笑いながら頷いた。
「お、いいじゃん雫ちゃん。似合ってる似合ってる」
「ふむ、じゃあ……カズ先輩はこれをつけましょう」
「おう、ありがとう……って、何だこれ?」
「子豚のぶーちゃんの豚耳カチューシャです」
強面の石蔵の頭部からちょこんと生えている可愛らしい耳を見て、雫は満足げに頷いた。
「やはり超絶似合わないです。この世の理を根底から覆しそうな強面。そして、世界に癒しを与える子豚のカチューシャ。このミスマッチが放つ衝撃はもはや芸術の域です」
「やかましいわっ!」
まるでどこかの権威ある評論家のように言う雫に、石蔵が吼える。しかし、雫は華麗に彼をスルーして今度は咲の頭にカチューシャを乗せる。
「咲先輩はこれです」
「ん? これは?」
「ここのテーマパークのキャラで、随一の面倒見の良さを誇る姉御キャラの犬耳カチューシャです」
咲の頭から生える耳は、大型犬のように大きく垂れ、モフモフとしたものだった。
それを見て、友哉が「おぉ、似合ってる」と頷いた。
「確かに藍沢さんは面倒見が良さそうだし」
「咲の姉御です」
「私そんな姉御感なくない? 可憐な淑女のつもりなんだけど?」
「淑女ではない」
「おいおい」
可憐な淑女をすぐさま否定する友哉を咲は半眼で睨む。
「あははは、ごめんごめん。冗談だから睨まないで。普通にその犬耳カチューシャ、藍沢さんに似合ってて可愛いよ」
「……そ」
褒める友哉の言葉に、咲はスッと表情を消して一言だけの素っ気ない返事をする。そして、おもむろに商品の陳列棚に手を伸ばすと、カチューシャを一つ取ってそれを友哉の頭に乗せた。
無言で乗せられたカチューシャを友哉は視線を上に向けながら確認する。
「ん? これはパンダか?」
「そう。のんびりマイペースに暮らしてるパンダは、赤城君にそっくりでしょ?」
「ん〜、確かに?」
納得したのかしていないのか微妙な反応をする友哉は、視線を咲に向けて問いかける。
「どう? 格好良い?」
「全然カッコよくない」
「即答っ!?」
迷いなく回答する咲に、友哉は大袈裟にショックを受けたリアクションを取る。
それを見て、咲は口を少し曲げ顔を逸らした。
「カッコよくはないけど、可愛くはある」
「お?」
ぽそっと小さくこぼれた咲の言葉に、友哉は少し嬉しそうに口角を上げた。
雫は次に晴翔と涼太にカチューシャを見繕う。
「ハル先輩と涼太君はこれですね」
そう言って二人に付けたのは、虎のカチューシャだった。
涼太の虎カチューシャは子虎仕様となっていて、晴翔のトラ耳よりも一回り小さくなっている。
「ハルパパと涼太君で虎の親子です。ハルパパの方は悪い奴に殺されてしまって、その子供の涼太君が仇を討つと言う感動ストーリーのキャラがモチーフになってます」
「いや、俺死ぬのかよ。しかもハルパパってなんだ?」
晴翔の疑問に雫は「ハルパパはハルパパです」と適当に返事をして、涼太の方を見る。
「涼太君。このカチューシャを付けたまま『ガオォ〜』ってやってみてください」
「こう? ガオォ〜!」
涼太は素直に雫に言われた通り、両手を顔の高さに上げて虎の真似をする。
可愛らしい子虎の出現に、雫の後ろにいた石蔵は「っ!?」と息を呑み、雫自身もたまらず口元を緩める。
「アヤ先輩。虎はワシントン条約で保護しなければならないので、涼太君を貰っても良いですか? 良いですよね?」
「良いわけないでしょ!」
意味不明な提案をすぐさま拒否する綾香。雫は「む」と唇を尖らせると、綾香の頭にもカチューシャを付ける。
「意地悪アヤ先輩にはこれです」
「え? ウサギ? 普通に可愛いけど、なんでウサギ?」
首を捻る綾香に、雫は腕を組んで説明をする。
「むっつりアヤ先輩にはウサギがピッタリです」
「どういうこと!? そもそも私むっつりじゃないし!」
「まだ認めませんか。往生際が悪いですね」
そこから綾香と雫の二人はいつも通り仲良く言い争いを始める。
そんな二人を横目に見ながら晴翔が商品棚を眺めていると、ふとすぐ近くにいた大学生くらいのカップルの会話が聞こえてきた。
「なぁなぁ、このハートのキーホルダー良くね?」
「ふーん? あ、これ二つに分けられるんだ」
「説明書きが付いてるぜ。これを二人で持ってると将来が約束されるってよ」
「まじ?」
「しかもこれ、他のグッズに比べて安いし、この値段で将来が約束されるとかコスパ最強じゃね?」
「そこにコスパ求めんなし。てか、アンタさ、ウチと将来約束されたいわけ?」
「……まぁ」
「……ふ、ふーん。じゃあ……買っとく?」
「おう……」
聞いている方が身悶えしてしまいそうな会話の後、そのカップルはキーホルダーを手に持ってレジに向かう。
晴翔はいま聞いた会話に、自分が恥ずかしくなってしまい、心を落ち着かせようと小さく深呼吸をする。
すると、クイックイッと袖を引かれた。
「ん? どうしたんだい涼太君?」
「おにいちゃん。将来が約束されるってどういう意味?」
「あぁ、それは……結婚できるってことじゃないかな?」
涼太も大学生カップルの会話を聞いていたようで、晴翔を見上げて小さく首を傾げる。そして『結婚』という言葉に顔を輝かせた。
「おにいちゃん! 僕これ買いたい!」
「え? これが欲しいの?」
「うん! 三つ買う!」
「3つも!?」
晴翔は驚くが、涼太はすでにキーホルダーの購入の意思を固めているらしく、棚から三つとってそれをレジに持って行く。
ちょうどそこで、綾香と雫の言い争いもケリが付いたらしく、雫が「ではみなさんでカチューシャを買いますよ」とレジに向かう。綾香は雫とどんな言い争いを繰り広げたのか分からないが、顔を赤くしながら「むっつりじゃないもん……」と唇を尖らせていた。
買ったカチューシャをそれぞれ頭に付けながらグッズショップから出る晴翔達。
パンダ耳カチューシャを付けた友哉が振り返って晴翔達を見る。
「次はなに乗る?」
「う〜ん、ギャラクシーマウンテンは今待ち時間がエグいから……」
咲がスマホのアプリで、アトラクションの待ち時間を調べる。そこに、雫が隣にいる石蔵のカチューシャを指さして言う。
「カズ先輩が『お前らどけ!』って叫べば一瞬で乗れますよ? 今ならぶーちゃんカチューシャで威力マシマシです。カオスボンバーです」
「んなことするかよ! 何だよカオスボンバーって」
友哉達がそんな会話を交わしている中、晴翔が涼太と手を繋ぎながら、一旦会話を遮った。
「みんな、ちょっと良いかな? 涼太君からみんなにプレゼントがあるんだ」
「え? プレゼント?」
晴翔の言葉に、咲が首を傾げて涼太を見る。
その視線を受けた涼太は、少し恥ずかしそうにしながら、先程買ったハートのキーホルダーを咲に手渡した。
「このキーホルダーはね、こうやって二つに分けて、二人で持ってると将来が約束されるんだって」
そう言いながら、涼太はハート型のキーホルダーを二つに分け、その分けたハートの片割れを友哉に渡した。
「咲おねぇちゃんと、友哉おにぃちゃんのデートが上手くいきますように」
ニコニコと無邪気に言う涼太。そんな彼に、友哉はニカッと笑う。
「ありがとう涼太君。俺、幸せになるよ!」
「うん!」
「ちょいちょいちょい! ちょい待ち赤城君!」
「え?」
「え? じゃないから!」
無邪気に笑い合う友哉と涼太の間に、咲が慌てて割り込む。
「私と赤城君は友達! でしょ? 今日は友達デートだよね!?」
「うん、でもほら」
友哉はチラッと涼太の方を見ると、声を落として咲にだけ聞こえるように彼女の耳元で言う。
「あの涼太君の笑顔を曇らせたくないじゃん?」
「それは……そうだけど」
咲は純粋な気持ちで見つめてくる涼太に「はぁ」と小さく息を吐いてから、しゃがんで彼と目を合わせる。
「ありがとう涼太。これ、大事にするね」
「うん!」
咲のお礼に嬉しそうに頷いた涼太は、次に石蔵と雫の方を向く。
「雫おねぇちゃんとブラウ兄ちゃんにも、同じのをあげます」
「おぉ! ありがとう涼太君!」
石蔵は涼太からのプレゼントに感無量といった様子で喜びを爆発させる。対する雫は、なにを考えているのか読めない無表情をしたあと、ふっと口元に柔らかい笑みを浮かべた。
「ありがとうございます涼太君。これは私の家宝にします」
「えへへ」
涼太は少し照れたように笑うと、最後に綾香と晴翔にもキーホルダーを渡した。
「はい、おねぇちゃんとおにぃちゃんにもあげる」
「ありがとう涼太」
「おねぇちゃん、早く結婚しておにぃちゃんと家族になってね!」
「そうね」
弟からのプレゼントを受け取り、綾香は優しく微笑んで涼太の頭を撫でてあげた。
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