第百六十一話 咲からのお誘い
更新が遅れて申し訳ありませんでした。
放課後となり、クラスメイト達は部活に向かったり帰宅したりと、教室から去っていく。
徐々に人が減っていく教室内の一角。
そこでは、晴翔、綾香、友哉、咲の4人が一つの机に集まって話し合いをしていた。
「じゃあ、取り敢えず走る順番を決めようか?」
晴翔は自分の机に集まっている綾香達を見ながら言う。
「だな。でもアンカーはハルで決まりだろ。お前が1番足速いんだし」
「賛成〜、大槻君にバシッと最後締めてもらいましょう」
晴翔の机に腰を下ろす友哉の提案に、咲が頷きながら同意する。
そこに、晴翔の隣に椅子を寄せて座っている綾香が、少し不安そうに口を開く。
「混合リレーのスタートって、足乗せるブロックのやつ使ってたっけ?」
「あぁ……確か去年は使ってたような気がする」
晴翔が去年の体育祭を思い出しながら答える。
「私、あのブロックの使い方よく分からないんだよね……」
「東條さん、それ俺もめっちゃわかるわ! アレがあってもなくても速さ変わらんしね。てか、しっくりくるブロックの位置がよく分からん」
少し恥ずかしそうに言う綾香に、友哉もスターティングブロックの必要性に疑問を呈す。
「まぁ、アレをちゃんと使いこなすのには練習が必要だからな。俺も100%有効に使えるかと言われたら少し自信が無い」
晴翔も、スターティングブロックの原理は理解しているが、それを体に覚えさせるのにはそれなりの練習が必要になってくる。
「あれ? みんなスタブロ使えない感じ?」
そんな中、咲だけキョトンとした表情をする。
「藍沢さんはアレ使いこなせるの?」
「まぁ、うん」
「ほえ〜凄いじゃん!」
晴翔の問いかけに頷く咲。それを見て友哉が感心した様子を見せる。
「咲は中学で陸上部だったもんね」
「なるほど、それなら使えるのも普通か」
咲とは幼馴染みである綾香が、中学の頃に彼女が陸上部だったことを口にすると、晴翔が納得したように頷いた。
そこに、友哉が少し不思議そうに首を傾げる。
「あれ? でも藍沢さん、いまは帰宅部だよね?」
「電車通学で朝練とかキツイからね」
中学まで咲は東條家にもほど近いアパートに住んでいたが、高校進学と同時に新築に引っ越し、その関係で家が遠くなっている。
「帰宅部とかしてたら、身体が走り出したくなってウズウズしたりしない?」
「いやいや、私はそこまで陸上馬鹿じゃないから。確かに走るのは好きだけど、別に部活以外でも走ろうと思えば走れるし」
友哉の疑問に咲は若干呆れ顔で答える。その後に「部活だと、色々しがらみが面倒なところもあるし」と小さく付け加える。
「お? もしかして、藍沢さんの才能に嫉妬した先輩とのいざこざ的な?」
「ないない。そんな青春ドラマみたいなことじゃないって。ただ部活だと大会とか出て順位を競うじゃん? 私は気持ち良く走れればそれでいいんだけど、部活動的には結果が求められるでしょ? それがちょっとね」
中学の陸上部時代を思い出しているのか、咲は若干苦笑気味に答える。
晴翔は咲の言葉に頷きつつ、話を混合リレーの走順に戻す。
「確かに、競技と向き合うスタンスは人それぞれだしね。じゃあ、とりあえず第一走者はスターティングブロックに慣れてる藍沢さんでいい?」
「おっけー。トップバッターは緊張するけどね」
晴翔の提案を咲が受け入れる。
「それじゃあ、最初が咲で最後が晴翔だね。私と赤城君の順番はどうしよう?」
「ハルにバトンを渡すのは東條さんで決まりじゃね? てか、俺が東條さんからバトンを受け取ったら大ブーイングをくらいそう……」
体育祭の会場内に沸き起こる大ブーイングを想像したのか、友哉はブルッと肩を震わせる。
晴翔は「大袈裟だろ」と笑う。しかし、綾香がリレーに出場するように後押ししていた妄想女子たちの存在を思い出し、まったくあり得ないこともないのかと内心で思う。
「なら、混合リレーの走順は藍沢さん、友哉、綾香、俺の順番で決まりかな?」
全員を見渡しながら晴翔が確認する。
友哉達はそれぞれ「異議なーし」「うんうん」「りょうかーい」と頷き合った。
「よっしゃ、それじゃ順番も決まったし今日は帰りますか。練習は明日からということで」
友哉は晴翔の机からピョンと飛び降り、鞄を肩に掛けて皆に帰宅を促す。
とそこに、咲がほんの少し早口で彼を引き留めた。
「あ、ちょっと待って赤城君」
「ん? なに藍沢さん」
軽く首を傾げながら振り返る友哉。
咲は唇を小さくかんだ後、おもむろに口を開く。
「その……赤城君ってさ、今週の日曜日、空いてる?」
「日曜日は惰眠をとことん貪るつもりだったからバッチリ予定は空いてるよ?」
「そっか……じゃあさ……え~と、一緒に遊園地、行かない?」
「……え?」
突然の咲からのお誘いに、友哉は文字通り目を点にしてピタッと動きを止める。
「どう、かな?」
「あ、あぁ……それは、それって、つまり、デートってこと?」
何度か言葉に詰まりながら、友哉は咲に確認をする。
二人のやり取りを間近で見ている晴翔と綾香は、驚きで目を見開いたままお互いに目を合わせた。
若干気まずい雰囲気が流れる中、咲がおずおずと頷いた。
「ま、まぁ……そうね。デート、のお誘いになるのかも」
「そっか……」
咲の返答を聞いた友哉は、なにやら真剣な表情で俯く。
その反応に、咲は慌てたように言葉を付け足した。
「あ! でもこれはちょっと違くて! その、実は雫ちゃんと色々と話してたら、この前のお菓子作りをしたメンバーでトリプルデートをしようって感じになって! それで、その……そういうことで」
急いで説明を付け足す咲。
それを聞いて友哉は数秒間だけフリーズした後、ハッと我に返って「うんうん」と頷いた。
「あぁ! なるほど! そういうことね! 理解理解! トリプルデートね!」
雫が石蔵から告白を受けたことを知っている友哉は、咲のデートのお誘いの意図を察して親指をグッと立てる。
「日曜! 遊園地! 俺、行けます!」
「そう……なら、雫ちゃんにも伝えておく。また詳しいことは後で話し合いましょ」
そう言った後、咲は晴翔と綾香の二人にも視線を向ける。
「というわけだから、あなた達二人も日曜日遊園地に来てほしいんだけど。どう?」
咲に問いかけられた二人は、顔を見合わせる。
「日曜日は特に用事はないから大丈夫だけど……」
そう晴翔が言った後に、綾香が複雑そうな表情で咲を見る。
「雫ちゃんと和明先輩がいるなら、私達がいたら邪魔になっちゃわないかな? 行っても大丈夫なのかな?」
「大槻君と綾香の二人は、遊園地デートに強制参加だって雫ちゃんが言ってたわよ」
「雫ちゃんが言ってたの?」
「うん」
咲の頷きに綾香は晴翔の方へ顔を向ける。
「どうする? 私達も行く?」
「う~ん、でもまぁ、雫が来いって言ってるなら、行こうか」
迷う様子を見せる綾香に、晴翔は悩ましげな唸り声をあげた後、遊園地デートに参加しようと告げる。
そんな彼の言葉を受け、綾香も「わかった」と頷いた。
こうして、日曜日の遊園地デートに晴翔達の参加が決定したのだった。
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