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第百五十七話 東條綾香の決意④

更新が遅れて大変申し訳ありませんでした。

 朝から襲い掛かってくる雫ちゃん。

 晴翔に助けてもらった私は、乱れた呼吸を整えながら、非難の眼差しで雫ちゃんを睨む。


「はぁ……はぁ……もう、雫ちゃんの、ばか」


「ふふん。ゴッドハンドの力、思い知ったかです」


 私の文句に、雫ちゃんはプイって顔を背けてしまう。


 もう、なんで私は襲われたの?

 

 理不尽な仕打ちに、私は頬を膨らませて雫ちゃんを睨む。

 すると、雫ちゃんはまた両手をゆらりと持ち上げて迫ってきた。

 それを見て、私はサッと晴翔の背中に隠れる。


「む。ハル先輩を盾にするとは卑怯です」


「卑怯じゃないもん」


 私は晴翔の背中から顔を出して雫ちゃんに反論する。


「私はただ一緒に登校しないのか聞いただけなのに、それでくすぐってくる雫ちゃんの方がよっぽど理不尽だよ」


「ふっ、理不尽だと吠えるのは弱者のすること。理不尽を振りかざして正当化するのが強者の生き様」


 雫ちゃんは私の前で仁王立ちしながら、胸を張って言い張る。

 彼女の発言に、赤城君がなんか感心した顔をしてる……。


「おぉ、なんという暴論。さすが雫ちゃんだ」


 褒める赤城君に、雫ちゃんは「どもです」って頭を下げる。

 どもですじゃないよまったく。雫ちゃんのくすぐりのせいで、私は呼吸困難になるところだったんだから。


 私は視線に目一杯の不満を込めて雫ちゃんに投げ付ける。

 けど、雫ちゃんはそんなのまったく気にした様子がない。もう、雫ちゃんのメンタル強すぎだよ……。


 そんなことをしていると、さっき合流した咲が呆れた表情でゆっくりと歩き出した。


「てか、いつまでもここにいたら遅刻するわよ?」


「確かに、周りの人も多くなってきたし、変に注目集める前にさっさと行こうぜ」


 咲の言葉に同意した赤城君がのんびりと歩き出して、それに続いて私と晴翔も歩き出す。


「アヤ先輩の構ってちゃん体質には困ったもんです」


「私そんな体質じゃないよ!?」


 やれやれと肩をすくめる雫ちゃんに、私はすぐさま抗議する。

 雫ちゃんはすぐ私に変な属性を追加しようとするんだから。天然っ子だとかムッツリだとか。


「私はただ一緒に登校しよって誘っただけなのに……」


「お、ツンデレですか?」


「ツンでもないし、デレてもいないよ! もう、晴翔からも何か言ってよ」


「え? あぁ、まぁ……朝から元気なのは良い事だけど、あまり綾香をイジメないでくれ」


「ふむ、善処します」


 晴翔はなんだか言葉を選びながら慎重に話している気がする。

 それに対して雫ちゃんは、短い返事をして私達と一緒に歩く。


 それから暫く通学路を歩いていると、咲が土曜日についての話を始めた。


「いやぁ、それにしてもブラウニー美味しかったわぁ」


「ほんと、美味かったよなぁ。俺、また土曜日に戻りたいわ」


「お前はまた週末を満喫したいだけだろ?」


「まぁ、それもある。毎日が土曜日と日曜日の繰り返しなら最高なんだけどな」


 晴翔のツッコミに赤城君が頭の後ろに腕を組んで、少し気だるそうに答えてる。そんな彼に、咲が「相変わらず赤城君はぐうたらだねぇ」って笑ってる。


「そういえば、ブラウニーの美味しさにもびっくりしたけど、私は和明先輩のギャップにもびっくりしたわ」


「あ、それは私もビックリした」


 咲の言葉に、私は大きく首を縦に振って同意する。

 最初に和明先輩と対面した時は、予想以上にいかつい風貌でちょっと尻込みしちゃったけど、実際に一緒にお菓子作りをしたら、とても優しくて丁寧で、見た目とのギャップに驚いちゃった。


「カズ先輩はギャップの塊だからなぁ」


 晴翔もそう言って笑ってる。


「ほんと、見た目が結構怖いから、その分普通の優しい人よりも大分優しく感じるよね。しかも、あのいかつさでお菓子作りがめっちゃ上手ってところがもう最高」


 咲は和明先輩のことを相当気に入ったみたいで、楽しそうに話してる。

 それを見た雫ちゃんが、無表情のまま少しだけ目を細めて咲に問い掛けた。


「ほほう。咲先輩はカズ先輩のギャップにやられましたね。メロメロですね」


「あははは。メロメロね。確かにそうかも」


 咲は笑いながら答える。それを聞いた雫ちゃんは、更に少しだけ目が細くなった……ような気がする。


「惚れちゃいました? 惚れちゃったんですね? 咲先輩もチョロい女です」


「ちょいちょいちょい。勝手に私をチョロインにするな」


 咲はまだ顔に笑みを浮かべたまま、雫ちゃんの言葉を否定する。


「ブラウニー一つで惚れる程、私の恋心は安くないから。せめてあと四種類くらい最高に美味しいスイーツを食べないと惚れないわね」


「それ、十分に安くね? チョロインに分類しても良いと思うぜ?」


 咲の言葉に早速赤城君がツッコミを入れてる。

 咲はそのツッコミに「えぇ? じゃあ七種類?」なんて楽しそうに赤城君の方を向く。


「いやいや、それでもチョロインでしょ? せめて二桁じゃね?」


「う~ん、なるほど。十種類のスイーツか……それは完堕ちね」


 神妙な表情でそう言ったあと、咲は笑いながら「いや、ないない! そんな食べ物だけで惚れるかッ!」って手を振りながらも、和明先輩の魅力は認める。


「でもまぁ、和明先輩はモテそうな気もするけどね。てか、すでに彼女とかいたり?」


 咲はそう言って、和明先輩の幼馴染みでもある雫ちゃんに視線を向けた。

 その視線を受けた途端、雫ちゃんはビクッて大きく肩を揺らす。


「なな、なんで私がカズ先輩の彼女になるんですか!? 私はまだ先輩からの告白にちゃんと返事をしてませんから!!」

 

「……へ? 告白?」


「あ……」


 尋ねた咲はポカンと口を開けてフリーズする。

 そして、雫ちゃんも『やべっ』みたいな表情で固まる。

 雫ちゃんでもこんな表情する時ってあるんだ……て、え? 告白? 和明先輩が雫ちゃんに告白したの?


「ねぇ雫ちゃん。告白ってどういう…」

「あ、私今日日直でした! てことで朝早く行かないといけないので」


 私は雫ちゃんに『告白』について聞いてみる。

 でも、雫ちゃんは慌てたように私の言葉を遮ると、そのままものすごいスピードで走って行っちゃった。


 あっという間に小さくなった雫ちゃんの背中を見て、赤城君が顎に手を当てて「そうなったか……」って呟いてる。


「和明先輩がね……まぁ、それで雫ちゃんが報われるならいいんだけどな」


 そんな赤城君の呟きに、咲が反応する。


「ん? それってどういう意味?」


「え? あ~いや……」


 赤城君は咲の質問から逃げるように顔を横に逸らす。

 その先には晴翔がいて、赤城君はさらに視線を上に逸らした。その反応で、咲は何かを察したみたい。


「ははん、なるほどね」


「藍沢さん、察し良すぎ……」


 苦笑する赤城君に、咲は「ふふん」と一瞬だけドヤ顔をした後に、晴翔の方に顔を向けた。


「大槻君は、雫ちゃんと和明先輩のこと、知ってたの?」


「……一応ね。昨日カズ先輩から電話があって、それで」


「そっか、む~ん……和明先輩も色々と大変ね」


 咲は難しい顔で腕を組んで考え込む。


 私は雫ちゃんが走っていった方に目を向ける。


 雫ちゃん、告白されたんだ……。

 でも、雫ちゃんは晴翔が好きなんだよね……。

 

 雫ちゃんとは、まだ知り合ってから日が浅いけど、でも私にとって大切な友達で、でもその好きな人は私の最愛の彼氏で……。

 雫ちゃんはまだ晴翔のことを好きだって言っていたけど、だとすると和明先輩の告白は断っちゃうのかな? でも、それって私が晴翔と付き合ってるせいで、和明先輩はフラれちゃう?

 けど、私が晴翔と付き合ってなかったら、雫ちゃんが晴翔の恋人になってたかもだし……。うぅ……。


 私、どうすれば良いのかな……。


 私が雫ちゃんに協力してあげるのは、それはなんか嫌味みたいな感じになっちゃうのかな? でも、大切な友達の力にはなりたいし……。

 雫ちゃんは和明先輩をどう思ってるんだろ? 好きだったりするのかな? あ、でも好きなのは晴翔で……。

 うぅ……。


 私の頭のなかは色々とごちゃ混ぜになって、ぜんぜん考えがまとまってくれない。

 だけど、想い人を奪ってしまった私に、雫ちゃんは『マブダチのズットモ』って言ってくれた。

 そんな彼女に、私はどうしても力になってあげたかった。

綾香の決意?:雫ちゃんに協力する! ……でも、これって余計なお世話? 迷惑? うぅ……。

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― 新着の感想 ―
このエピソードのタイトル、合ってないでしょう。 なにも決意してないし。 綾香の躊躇い?戸惑い?逡巡? とか
綾香だけはこの件に関しては手を出すべきでない 逆の立場で考えてみよう もし晴翔とくっついたのが雫でフラれたのが綾香だったとして、それでも虚勢張って無理に元気のフリをしてる時に、前に晴翔をモヤシ呼ばわ…
協力も何も好きだけど告白する勇気がないとかじゃないからねぇ 嫌味ってとられるならまだマシな気がするなー… これで表立って協力なんてしようものなら、相手の好きな人との関係を見せつけながら違う男を当てよう…
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