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家事代行のアルバイトを始めたら学園一の美少女の家族に気に入られちゃいました。【書籍化&コミカライズ】  作者: 塩本


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第百四十六話 天国な時間

バカップル警報発令中

 ベッドの上で横になり、綾香に膝枕される晴翔。

 頭上から、彼女のウキウキとした声が降ってくる。


「晴翔は字幕派? それとも吹き替え派?」


「字幕派だけど、画面から目を離せなくなるから、今回は吹き替えでもいいかな。綾香は?」


「私は吹き替え派。じゃあ吹き替えにするよ?」


「ん」


 短く返事をする晴翔。

 綾香は相変わらず右手で晴翔の頭を撫でながら、左手でリモコンを操作して音声と字幕の設定をして本編を再生する。


 制作会社などのロゴが画面に映し出されると、彼女は「始まった」と呟き、手に持っているリモコンを置く。


 晴翔は綾香の太ももに頭を置いたまま、身体の向きを横にしてポータブルDVD プレーヤーの画面を眺める。

 そんな彼の腰付近に、リモコンを手放した綾香の左手がそっと添えられた。


「そういえば晴翔はこのドラマ、前から気になってたって言ってたけど、こういうのが好きなの?」


「かな。それに一時期凄い話題にもなってたから、このドラマ」


「晴翔もそういうのが気になるんだね。なんか私の中では、晴翔は流行とか気にしないイメージだったから、ちょっと意外」


「そんなイメージだったの? まぁ、でも、音楽とかはあまり流行の曲は知らないかも」


「演歌が十八番だもんね」


 頭の上から聞こえてくる「ふふ」という綾香の微笑みに、晴翔はスッと顔を上に向ける。


「それってバカにしてる?」


「ううん、してないよ? 私、晴翔の演歌大好きだよ?」


「……ありがとう」


 ニッコリと笑みを浮かべて見下ろしてくる綾香に、晴翔は照れを隠すように顔をドラマへと向ける。

 すると再び頭上から「ふふ」という微笑みが降り掛かる。その直後、晴翔の顔に綾香の髪がふわっと被さる。

 それと同時に、お風呂上がりのシャンプーの香りに包まれた彼の左頬に、柔らかく魅力的な感触が伝わった。

 晴翔の耳に微かに伝わる「ちゅっ」という瑞々しい響きに、彼はたまらずに再び顔を上に向けて綾香と顔を合わせる。すると、満面の笑みで見つめ返された。


「……綾香さん?」


「ふふ、膝枕をしてると晴翔にキスし放題だね」


 幸せに満ちた表情で、嬉しそうに言う綾香。

 可愛らしく魅力あふれる彼女の姿に、晴翔は嬉しさと恥ずかしさと照れ臭さが入り混じった状態になり、心がむず痒くなる。


「……そのプランは事前予約制となっていますので、当日対応はしておりません」


「ふ〜ん? じゃあ……今からキスします」


 宣言してから、綾香は再び晴翔の頬に軽くキスをしてくる。


「ちょっ、いまの話聞いてた?」


 ニヤけてしまいそうになる口元を必死に引き締めて、晴翔は真面目な表情で綾香を見上げる。

 しかし、彼女は相変わらずのニッコリ顔である。


「うん。だからちゃんと事前にキスするよって言ったよ?」


「“当日”の部分は完全スルーなんだね……」


「うん」


 すぐさま頷く綾香に、晴翔は苦笑する。


「晴翔はイヤ? キスしたくない?」


「っ……嫌なわけないよ」


「キスしたい?」


「……したい」


「はい……ちゅ」


「ん」


 3度目の綾香からのキスは晴翔の唇に落とされる。

 ここで彼の表情筋は崩壊して、完全に口元が緩んでしまう。


「いまのはズルくない?」


「ズルくないよ? 私はただ晴翔とキスがしたかっただけだもん」


「……それがもうズルいよ」


 晴翔は綾香の太ももに頭を乗せたまま、片手を伸ばして彼女の頬をそっと撫でる。


「綾香はもう少し自分の魅力を自覚してくれない? 俺、このままだと心臓発作で心停止するかもよ?」


「それは困っちゃうな。晴翔が死なないように人工呼吸しなくちゃ」


「いやそれは蘇生術だから、俺はまだ…ぅん」


 話の途中で晴翔の口は綾香の唇で閉ざされてしまう。

 彼女に膝枕されている状態なので、どこにも逃げることが出来ず、まさに綾香の言う通り『キスし放題』の状態となってしまっている。


「どう? 心肺蘇生した?」


「心停止しそう」


「じゃあ人工呼吸を続けなくちゃ」


 とても楽しそうに唇を奪ってくる彼女に、晴翔は『心停止には人工呼吸じゃなくて心臓マッサージじゃない?』という指摘を諦めて、そっと綾香の頭を撫でてあげる。


「ちゅ……ふふ、膝枕っていいね」


「……次膝枕されるときは、メンタルを整えとかないと……」


「じゃあ、いつものお返しで不意打ちで膝枕しちゃおっと」


「いや、それはマジで危険だからやめて?」


「何が危険なの?」


「それは……あ、ほら、さっきから全然ドラマ観れてない。ちゃんと最初を観ておかないと、話がわからなくなるよ?」


 先程からバカップル全開の2人を尻目に、ポータブルDVDプレーヤーからは、世界中でヒットした海外ドラマが虚しく上映されている。


「確かにそうだね。また最初から再生し直そっか」


 綾香はリモコンを操作して、ドラマを最初のシーンに戻す。


「次はちゃんと真面目に見るよ?」


「うん。ちゃんと観ます」


 釘を刺す晴翔に、綾香も素直に頷く。

 彼女は、言葉通り唐突にキスをしてくることなく、ジッとドラマを観る。


 ドラマのオープニングは、主人公を取り巻く平和な日常が描かれる。

 記者である主人公が、会社に出社するシーンを眺めながら、綾香がポップコーンの袋に目を向ける。


「最初にどっちの味を食べる? 塩? ハニーバター?」


「ん~……塩かな」


「わかった」


 綾香は晴翔の言葉に頷いて、塩味のポップコーンの袋を開封する。


「膝枕されたままだと、ポップコーンに手を伸ばしにくいな」


「じゃあ私が取ってあげる」


 綾香はそう言うと、二つポップコーンを手に取って、そのうちの一つを晴翔の口元に運ぶ。


「はい」


「ありがとう」


 金曜日の夜。

 綾香に膝枕され、ポップコーンを食べさせてもらいながら、海外ドラマを観てダラダラと過ごす。


「ここが天国か……」


「ん? 何か言った?」


 思わず呟いてしまった晴翔に、綾香が首を傾げて見下ろしてくる。


「んん、何でもない。そろそろゾンビが出てきそうだね」


「うん、ちょっと怖いね……」


 先程まで比較的平和な雰囲気だったが、それが一変し、いまは不気味なシーンへと変貌している。

 

 通常であれば活気に満ちている夜の繁華街。しかし、主人公が訪れたその繁華街は、照明だけが煌々と輝いていて、それ以外は異常なほどに静まり返っている。


「こういうシーンって、急にゾンビが襲い掛かってくるパターンが多いよね。あ、ほら出てきた」


「はぅっ!?」


 飲食店の窓を突き破って、血だらけのゾンビが主人公に襲い掛かる。突然の襲撃に、主人公は地面に押し倒されてしまう。


 歯を剥き出しにして噛み付こうと暴れるゾンビ。

 それを必死に防ぐ主人公。

 激しい争いを表現するために、画面も大きく揺れる。


 噛まれてしまってはゾンビ化してしまうという、緊張感満載の戦闘シーンに今まで一定のリズムで晴翔の頭を撫でていた綾香の手の動きが止まる。


「あ、ああ……噛まれちゃう、噛まれ……あ! あぁ……危ない……あ!」


「主人公がいきなりゾンビになったら話が終わっちゃうから、絶対に大丈夫だよ」


「そんなのわからないよ……あっ! いま噛まれたよ! 絶対噛まれた! ほら!」


「ありゃ? 本当だ……どうなるんだこれ?」


 晴翔は、お約束通りの展開を予想していたが、それに反して主人公はあっさりとゾンビに噛まれてしまう。


 綾香はアワアワしながら「噛まれちゃった……」と呟いている。

 先の読めない展開に、晴翔は色々と考察をする。


「実は主人公だけゾンビウィルスに免疫がありましたってパターンかな? それとも、初期の頃からワクチンが存在していて、それを巡っての争いが描かれていくのか……」


「ゾンビは怖いけど、先が気になって面白いね、このドラマ」


「だね」


 世界中でヒットしたというのは伊達ではなく、晴翔と綾香はあっという間にドラマの世界観、ストーリーに惹き込まれていく。


 その後二人は、ちょくちょくポップコーンを食べながら、特に会話も無く集中してドラマを観賞する。


 ドラマを観始めて三十分程度が過ぎた頃、綾香に膝枕をされている晴翔が僅かに身動みじろぎをする。


「ん? どうしたの?」


「ちょっと、横になりながらだと画面が見辛いなって」


「じゃ、膝枕やめて座って見る?」


「うーん、そうしようかな」


「わかった。……あ、そうだ」


 晴翔が上体を起こすと、綾香が何かを思い付いたように表情を輝かせた。


「どうしたの?」


 首を傾げる晴翔に、綾香はキラキラと輝く瞳を向ける。


「晴翔はそのまま座って」


「うん」


「で、ちょっと足を開いて?」


「こう?」


 彼女の指示通り、晴翔は壁際にクッションを置いて、それを背もたれにベッドの上に少し足を開いて座る。

 すると、その開いた足の間に綾香が座ってきてスポンと収まってしまう。


「ふふふ、特等席だ」


 綾香は幸せそうな笑みを浮かべながら、晴翔の方へ背中を倒す。


 綾香の背もたれになってしまった晴翔は、これはこれで天国だなと思いながら、後ろからそっと彼女を抱きしめる。

 すると「ふふ」と幸せそうな微笑みが聞こえてきた。


「これだと、どんなに怖いシーンでも平気かも。晴翔の手で顔を覆えるし」


 そう言いながら、綾香は後ろから回されている晴翔の手を掴み、それで自分の目を覆う。


「こうやって指の隙間から観れば怖くない」


「綾香、それはフラグってやつ?」


 楽しそうにドラマを観る綾香に、晴翔も笑みを浮かべた。

 お読み下さり有難うございます。

 申し訳ありません、話が長くなってしまったので、ここで一旦分割します。


【お知らせです】


 本作の書籍版3巻書影が公開されております。

 3巻のカバーイラストは、綾香の清楚白ワンピース姿となっております。


挿絵(By みてみん)


 3巻も話の流れはWEB版と同じですが、ちょくちょく追加のシーンがあります。

そのうちの一つは、書籍のカバー袖コメントにも書いているのですが、秋乃える先生がイラストを担当して下さっていなければ思いついていませんでした。

 本作のイラストを手掛けて下さっているのが秋乃える先生で本当に良かった。3巻の口絵や挿絵を拝見して心からそう思いました。


 そんな『かじがく3巻』は1月15日頃の発売となっております。

 すでにAmazonや楽天などで予約も開始されておりますので、よろしくお願いいたします。

 ちなみに3巻はメロンブックス様でSSも書かせて頂きました。SSのタイトルは『恋人の練習(逆ギュ)』です。

 内容としましては、恋人の練習で予想を上回る綾香の提案に、晴翔がやられる。といった感じのお話となっております。

 このころから二人はバカップルの片鱗を見せていたんですね……。


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2025/02/01 19:31 yomo ショーロク@進学へ
甘ああああああああああい
バ、バカップルだ〜!!(*/∀\*) ホラー作品の序盤とかだと、最初の犠牲者にされそうなイチャ付きっぷりだったけどwwこの作品が家事代行で本当に良かった(*´-`) 遅れましたが3巻発売おめで…
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