番外編 黒猫綾香
※このストーリーは本編とは無関係です。
コミカライズの作画を担当して下さっているウルア先生が、ハロウィン衣装の綾香を描いてくれたので、それにちなんだお話です。
本編とは関係ありません。
皆様もぜひ、Xにて公開されているウルア先生による黒猫綾香をご覧になってから、読んでみてください。
(ハロウィンもう終わっとるがな! という点に関しましては何卒ご容赦頂けますと幸いです)
晴翔は借りている涼太の部屋で、就寝前の習慣である勉強に勤しむ。
集中しながら参考書を眺めノートにペンを走らせていると、不意に彼の耳にポフンポフンという音が聞こえてくる。
まるで、柔らかいクッションが壁にぶつかるようなその音に、晴翔は勉強の手を止めて、音がした扉の方に顔を向ける。
すると、再びポフンポフンと聞こえてくる。
「……もしかして、ノックなのか?」
扉から聞こえてくる音が、ノックなのではないかと予想した晴翔は、机に向けていた身体を扉の方に向ける。
「……どうぞ」
扉に向け彼が声を掛ける。
すると、数秒の間を空けてからゆっくりと扉が開く。そして、その向こう側から綾香が姿を現した。
彼女の姿を確認した瞬間、晴翔は軽く目を見開いて驚きの表情を浮かべる。
おもむろに部屋の中に入ってくる綾香。
彼女は黒を基調とした衣装を身に纏い、頭にはちょこんと可愛らしい猫耳が生えている。さらに、腰の下からは尻尾も生えていた。
「綾香? どうしたの……??」
「晴翔……トリックオアトリート!」
「え? あ、あぁそっか、今日はハロウィンか」
綾香の口から発せられた言葉で、晴翔は彼女の格好にようやく合点がいく。
今日は10月31日。
ハロウィンの日である。
納得したように頷く晴翔に、綾香はほんのりと恥ずかしさの混じった笑みを浮かべる。
「お菓子をくれないと悪戯をしちゃうよ?」
魅力的な黒猫に扮した綾香が、肉球の付いた手を小さく振り上げて可愛らしく威嚇してくる。
先程のポフンポフンという音は、手に肉球クッションを付けたままノックしたからのようだ。
そんな事を考えている晴翔に、綾香はさらに接近して「にゃお~」と小さく唸る。
「晴翔、お菓子をくれないと本当に悪戯しちゃうよ?」
「あそっか、お菓子ね。お菓子……」
綾香からの催促に晴翔は机の上に目を向ける。
今日がハロウィンだという事を完全に失念していた晴翔。
当然、お菓子などは準備していない。
「あの~、これじゃダメでしょうか?」
晴翔は取り繕うような笑みで、綾香にお伺いを立てる。
そんな彼の手には、ガムが一つだけのっていた。しかもそのガムは、甘い味付けのチューインガムなどではなく、眠気覚まし効果のある辛めのものであった。
綾香は晴翔が差し出してきたガムをジッと見詰めた後に、ニッコリと笑みを浮かべる。
「うん、それはダメ」
「ですよね」
「じゃあ、お菓子は無いって事?」
「はい。ございません」
綾香の問い掛けに、晴翔は素直に認める。
その返答に、彼女はどこか満足そうにニコッと口角を上げた。
「じゃあ、悪戯決定だね」
「ですね。で? 悪戯はどんな事を?」
「ふふふ、晴翔の勉強を邪魔しちゃいます」
そう言うと、綾香は椅子に座る晴翔の膝の上に、彼と向き合うような形で腰を降ろす。
さらに彼女は、手に付けた肉球クッションでポフポフと猫パンチを繰り出してきた。
小さく「にゃっにゃっ」と鳴きながら猫パンチしてくる綾香の可愛さに、晴翔は堪らずに表情を溶かす。
「そういえば、綾香はなんでハロウィンに仮装をするか知ってる?」
晴翔のその言葉に、彼にじゃれついていた黒猫綾香は、コテンと首を傾げる。
「ううん、知らない。教えて?」
素直に尋ねてくる綾香を晴翔は軽く抱き締めて説明をする。
「ハロウィンはもともと、古代ケルト民族の祭礼が起源なんだよ。で、そのケルトの人達は、10月31日は死者の世界との扉が開いて、ご先祖様の霊があいに来るって考えてたんだって。日本で言うところのお盆みたいなものなのかも」
「へぇ、そうだったんだ」
晴翔の説明に、綾香は「ふむふむ」と頷く。
そんな彼女の頭で揺れる猫耳を触りたいという衝動を抑えながら、晴翔は説明を続ける。
「でも、死者の世界からはご先祖様の霊と一緒に、悪霊や悪魔も一緒にやって来ると考えられていてね。それで、ケルトの人達はそれらの悪い存在と同じ格好をして、仲間だと思わせることで悪魔や悪霊の標的になるのを防ごうとしたんだって。それがハロウィンの仮装の始まりだよ」
「なるほど。だからハロウィンの仮装は魔女とかオバケが多いんだね」
「そうそう。ハロウィンの仮装は、いわばカモフラージュってことだからね」
晴翔はそう言った後に、綾香を抱き締めている腕に少しだけ力を込めて彼女を抱き寄せる。
「……晴翔?」
「つまり、こんな可愛い仮装だったら、カモフラージュだってバレて、悪いオバケに襲われちゃうかもよ?」
晴翔は抱き寄せた綾香の耳元で、少し悪戯っぽく囁く。
すると、彼女はピクッと肩を揺らした後に、少し潤んだ瞳で晴翔を見詰める。
「……晴翔は悪いオバケなの? 襲ってくる?」
どこか魅惑的に感じてしまう綾香の反応に、晴翔は自分の鼓動が速くなるのを感じた。
「……あんまり悪戯が酷いと、襲っちゃうかもね」
「そっか……」
晴翔の返事に、綾香は少し俯いて呟くように言葉を返す。
と、彼女は再び晴翔への悪戯を再開し始める。
「えいえいっ、猫パンチ!」
綾香は飼い主に甘える本当の猫のように、晴翔に身体を寄せつつ、可愛らしくじゃれついてくる。
なんとも困った黒猫綾香に、晴翔は本当に襲ってやろうかと頭を悩ますのであった。
という訳で
非公式ファンアートに対する非公式ファンSSでした。
色々とやる事があるのに、誘惑に勝てずついつい書いてしまった……。
ウルア先生のイラスト、恐るべし……(褒めてる)




