表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/187

第百十六話 勉強会

 郁恵への挨拶を済ませた友哉達は、早速綾香の部屋に向かう。


「いや~、ここに来る前に藍沢さんから話は聞いてたけど、本当に東條さんの家は豪邸だったんだ」


「私はこの家の廊下に住める自信がある」


「あ、それ俺も思った」


 玄関から伸びている廊下の広さを思い出して、雫が自信ありげに言う。それに対して友哉も何度も頷いて同意を示す。

 階段を上がりながらそんな会話を交わす友哉と雫に、咲がドヤ顔をしながら誇らしげに言う。


「だから言ったでしょ? 綾香の家は凄いよって」


 そんな彼女に友哉が笑いながらツッコミを入れる。


「いやいや、なんで藍沢さんがドヤってんの? そこは東條さんでしょ?」


「それはあれよ。親友のものは俺のもの的な? ね、綾香」


「そこで私に同意を求められても……」


 綾香は咲に困った笑みを向けながら、自室の扉を開いて皆を中に招き入れる。

 さっそく中に入った雫は、サッと部屋の中を見渡した後に、天井の照明に視線を向ける。


「ほほう、照明はシャンデリアじゃないんですねアヤ先輩」


「部屋の中にそんなのがあったら落ち着かないでしょ」


 ほんのりと呆れ顔を浮かべながら言う綾香に、雫は無表情のままに小さく首を傾げ。


「アヤ先輩はシャンデリア似合うと思いますけど?」


「……雫ちゃん、それって褒めてる? それともバカにしてる?」


「う~ん、半々です」


「そこは褒めてるって言ってよ……」


「冗談ですよ」


 綾香と雫が戯れている間に、他の人達はテーブルの周りに敷かれているクッションに腰を降ろす。


「ふむ、東條さんの部屋だと思うとなんか緊張するな。な、ハル」


「あぁ~まぁ、最初は俺も緊張した」


「あ、そっか。ハルはもうこの部屋に通い詰めてるのか」


「いや別に、通い詰める程は入り浸ってないけど」


 納得した様に一人頷く友哉に、晴翔は苦笑を浮かべる。


「ハル先輩はこの家のどこに生息しているんですか?」


 綾香との会話を切り上げて雫が晴翔に尋ねる。


「生息って、俺は野生動物か」


 晴翔は軽いツッコミを入れてから、隣の部屋がある方を親指で差す。


「一応、綾香の隣の部屋を使わせてもらってるよ。元々は涼太君の部屋なんだけどね」


「一つ屋根の下、思春期の男女が隣同士の部屋……エロいですね」


 晴翔と綾香を交互に見ながら、雫はゆっくりとした口調で言う。

 それに対して、晴翔と綾香の声が重なった。


「なんでだよ!」

「なんでよ!」


 全く同じ反応をした二人に、雫は首を小さく傾ける。


「え? だって壁一枚挟んだ向こうには、最愛の恋人がいるんですよ?」


「なんでそれがエロいになるんだよ」


「なんでって、そりゃ、そんな状況で何も起きないはずがないからです。ね、咲先輩」


 雫が同意を求めるように咲の方に視線を向けると、彼女もゆっくりと頷く。


「確かに……エロいわね」


「もう! 咲まで変な事言わないでよ!」


 悪ノリする親友に、綾香が抗議の声を上げる。

 綾香はプクッと頬を膨らませたまま、クッションに腰を落とす。


「みんな早く勉強しよ。今日は勉強会の為に集まったんだから」


 彼女のその一言で、皆机の周りに腰を降ろし、各々勉強道具を広げる。

 その後は、全員真剣にテスト勉強に精を出す。

 意外な事に、雫も冗談を言ったり綾香をイジったりはせず、真剣な眼差しで参考書を見てノートに書き込みをしている。

 

 暫く会話も無くそれぞれが勉強に集中していたが、数学に取り組んでいた咲が、教科書を晴翔に見せながら口を開く。


「ねぇ大槻君、ここの問題なんだけど分かる?」


「ん? あぁ、この問題は……」


 晴翔は、咲に質問された問題の解き方を解説する。


「なるほど! 理解理解! いやぁ、さすがは大槻君! 学年トップの名は伊達じゃないね。教え方も凄くわかりやすいし」


 分からなかった問題が解けてスッキリした表情で咲が言う。

 すると、それに友哉がドヤ顔を浮かべる。


「ハルはスゲェんだよ。どんな問題でもわかりやすく解説してくれるからな」


「謎の赤城君のドヤ顔、ウケる。ここは赤城君じゃなくて彼女である綾香がドヤるところじゃない?」


 そう言って咲は隣の綾香に話を振る。勉強に集中していた綾香は、一拍間を開けてから、ポカンとした表情で咲を見た。


「え? なに? 呼んだ?」


 キョトンとした表情を向ける綾香に、咲は「ふふん?」と掌に顎を乗せる。


「綾香今回のテスト凄く気合い入ってるじゃん」


 咲は、びっしりと書き込まれている綾香のノートを見て言う。

 すると、綾香はほんのりと頬を赤くして答える。


「えっと、今回のテストは全教科80点以上を目指してみようかなって」


「ふ~ん? でも綾香さ、いつもテストの点数そんなもんじゃん?」


「あ、うん。でも、その……今回は絶対に80点以上を取りたくて……」


 若干モジモジしながら答える綾香。

 そんな彼女の視線が、チラチラと晴翔の方に向いている事に気が付いた咲が、ニヤッと笑みを浮かべた。


「なんでそんなに80点以上にこだわるのかな?綾香さんや」


「それは、その……」


「もしかして、全教科80点以上を取ったら愛しのハルト君からご褒美が貰えるとか、そんな感じかな~?」


 咲のその言葉に綾香の肩がビクッと大きく反応する。


「ははん、図星ですな」


 咲に見事言い当てられた綾香は、大いに動揺しながら早口で説明を始める。


「そ、その、夏休みの間、晴翔君と一緒に勉強をしてたんだけど、勉強のモチベーションを保つためには、やっぱりご褒美というか、そんな感じのが必要だよねって話してて、それで……」


「なるほどねぇ。それで、綾香は全教科80点以上で大槻君からご褒美が貰えるとして、大槻君が綾香からご褒美を貰える条件は何なの?」


 咲は何とも楽し気な表情で、今度は晴翔に視線を向けて話し掛ける。


「え? いや、俺のご褒美については特に何も」


「それは駄目よ! 綾香にもご褒美があるなら、大槻君にもご褒美がなきゃ不公平じゃない!」


 ニヤニヤとした笑みを口元に張り付けながら咲が言う。


「そうでしょ綾香? 大槻君にもちゃんとご褒美を上げなきゃでしょ?」


「そ、それは……確かに」


 咲の言葉に綾香が頷くと、少し恥ずかし気に晴翔に言う。


「じゃあ、今回のテストでも晴翔君が学年一位なら……ご褒美をあげるね」


「あ、うん……ありがとう」


 恥じらいながら言う彼女の姿が可愛らしすぎて、晴翔は自分の顔が熱くなるのを感じる。

 と、今まで無言で勉強に集中していた雫が、突然手に持っているペンを放り投げてシャウトする。


「なーーんなんですか! 人が集中して勉強している時にイチャコライチャコラと!」


「べ、別に私達はイチャイチャはしてないよ」


 顔を赤くしながら否定する綾香に、雫はジト目を向ける。


「いーえ、今のはイチャイチャでした」


「し、してないよ」


「では、イチャイチャ判定員のトモ先輩に判断してもらいましょう」


 そう言うと、雫はこれまでのやり取りを面白そうに傍観していた友哉の方を見る。


「トモ先輩、今のやり取りはイチャイチャですか?」


「ふむ、これまでの判例を元に判断すると……」


 友哉は腕を組んで眉間に皴を寄せ難しい表情で俯いた後、厳かな口調で言い放つ。


「ハルと東條さんは……ギルティ!!」


「やかましいわ」


 裁判官の如く言い渡す友哉に、晴翔が早速ツッコミを入れる。

 晴翔は「なんだよイチャイチャ判定員って」と呆れ顔を浮かべる。と、そこで雫の集中力が完全に切れたようで、彼女は買ってきたお菓子が入っている袋に手を伸ばす。


「あーあ、口の中が甘くて勉強どころじゃなくなりました。ここは一旦ブレイクタイムですね。お菓子パーティー開催です」


 その言葉と共に、雫はお菓子の袋をひっくり返してテーブルの上に広げる。


「お、いいねいいね!」


 咲もペンを置いて勉強を切り上げると、テーブルの上に姿を現したお菓子の山に手を伸ばす。


「これ食べたかったのよね」


 咲はそう言いながら、食べ応えのありそうなグミの袋を開封する。


「綾香も食べる?」


「じゃあ、貰おうかな?」


 勉強を切り上げてお菓子を食べ始めた女子達に、晴翔もお菓子の山に視線を向ける。


「マジでめっちゃ買ってきたな。食べきれるのかこれ?」


「余ったらお前と東條さんにやるよ。もともとそのつもりで買ってきたし」


 友哉はアーモンドにチョコがコーティングされているお菓子を口の中に放り込みながら言う。


「そっか、ありがとう。って、なんだコレ? ホッキー?」


 晴翔は見た事がないお菓子のパッケージに首を傾げる。そんな彼に、雫が説明をする。


「それは北海道のアンテナショップで買いました。北海道産のホッキ貝を原材料に使った、ホッキ貝味のお菓子です」


「ホッキ貝……美味いのかこれ? つかこれ、まるでポッキ…」

「ハル先輩、そこに突っ込むのは野暮というものですよ?」


 晴翔の言葉を遮り雫が言う。

 そんな彼女は、パッと何かを思い付いたようにポンと掌に拳を叩き付ける。


「皆さん、ゲームをやりましょう」


 雫の提案に、綾香とグミを食べていた咲が興味を示す。


「ゲーム? なんのゲーム?」


「ふふふ、咲先輩。若い男女が集まってやるゲームと言えば、一つしか無いです」


「んん? なになに?」


 咲は雫の言葉にピンと来ないのか、首を傾げながら問いかける。

 そんな彼女に、雫はクイッと口角を上げた。


「それは……王様ゲームです!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ