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06



「ジュリオ坊ちゃんの運命の乙女が見つかったって、本当なのかい?」

「………え?」

「噂で聞いたのさ。ジュリオ坊ちゃんが夜会で綺麗な女性と連れ立っていたって」


気疲ればかりして終わった仮面舞踏会の数日後、差し入れと言ってまかない料理を持ってきてくれたソフィアの話にサーラは首を傾げた。


夜会…?そんなのはお貴族様はひっきりなしにやっているだろうし、ジュリオさんはああ言う人だから女性と一緒にいたっておかしくは無い。


だが、運命の乙女を熱心に探しはじめたジュリオの事だから、良い出会いがあったらすぐに報告してきそうなのだがそんな話は聞いていない。


「私はその方とお会いしていませんので何とも…。」


知っていた所で口外出来ないので難儀なのだが、ソフィアが気を悪くする様子は無かった。


「なんでも、とても大切にされているようだったって話さ。坊っちゃんも良い人がいるって言っていたしねぇ」

「………そう、でしたね」


まるで自分の子供の事のように嬉しそうにするソフィアだが、サーラは疑問しか無い。ダンテに手がかからなくなってからは、ジュリオの事をよく見ていたつもりだが、全く心当たりが無い。


考え込み難しい顔をしているサーラに、ソフィアはジト目を向けていた。


「あんたも若いんだから、少しは色気づいても良いんじゃ無いかい?よく見ると元は良いんだからもう少し着飾って、化粧をするのも良いねぇ」

「私はそういうのは、似合わないですし」

「なんだい、勿体ないねぇ。私が若い時はもっと活気があったもんだよ」


そりゃあ、今だってバリバリに働いている人に敵うはずが無い。


だがサーラは魔女だし、魔女は全身を覆う黒のローブと相場が決まっている。そりゃあ、ちょっと個性的で大胆な魔女もいるだろうがこの貧相な身体ではどうしようもない。


そう思っていると、ソフィアが突然「そうだ!」と声を上げる。


「………?」

「あんた、うちに食事に来な」

「え?」

「紹介したい人が居るんだよ。明日の夜だよ、いいね?」

「え、ちょっ……」


何かを閃いたらしいソフィアは有無を言わせず、上機嫌でサーラの店を後にした。その勢いに圧倒されてポカンとしていたサーラの鼻に、香ばしい香りが届いてハッと視線を落とす。


ソフィアは根っからの世話焼き体質で、サーラの事も何かと気にかけてくれている。サーラにとって、第二の母親と言っても過言では無い。


料理担当はソフィアの旦那であるガスパルで、ソフィアとは正反対で寡黙な人だが、料理はかなりの実力者だ。安い庶民的な食材を使っている事が多いが、何を食べても満足感が得られるのだから不思議だ。


そして、無口ながらもこうして従業員でも無いサーラの分の賄いまで作ってくれるのは、やはり世話焼き体質という事なのだろう。


2人には実子がいない分、サーラぐらいの歳の独り身は我が子のように親身になってくれる。そんなソフィアに「来い」と言われたら、例えサーラが人付き合いを得意としていなくとも行かなければならない。


なにを閃いたのかは検討も付かないが、ソフィアを落胆させるのも申し訳ない。


「………おいし」


深く考えたってどうしようもない。


サーラは頂いた賄いを美味しく頂き、容器を返しに行くという口実でソフィアの店に行こうと考えていた。




◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●



「いらっしゃい、来たね」


言われた通り翌日の夜ソフィアの店に顔を出すと、満足げなソフィアが迎え入れてくれた。店内はほぼ満席状態でいつも通りのにぎわいを見せている。


「こっちだよ」


たまにお店にお邪魔した時のサーラの定位置はカウンターの一番端の席なのだが、今日はソフィアに手を引かれ別の場所へと連れられた。


案内されたテーブルには、目を引くシルバーの髪と左耳のピアスが目を引く同年代と思われる青年が座って食事を摂っていた。


紹介したい人がいるとは言われていたのでこの人の事なのだろうが、まさか男性だとは思わなかった。話の内容的に、てっきりおしゃれな女性を紹介されるものだと思っていた。


「待たせたねスペンサー。この子なんだけど」


グイッと手を引かれ一歩前に出たサーラを、スペンサーと呼ばれた青年がじっと足元から頭の先まで観察するように視線を巡らせる。


「頼めるかい?」

「うん。大丈夫」

「そうかい。じゃあ、頼んだよ」

「分かった」


何が何だか分からないまま、2人の間で話がまとまったらしく、ソフィアは嬉しそうにサーラの背中をポンポンと叩くと、無責任にもその場にサーラを残して仕事に戻ってしまった。


どうしたものかと考えていると、青年が先に声をかけてきた。


「座れば?」

「え?………はぁ…」


訳も分からず促されるままに席に着く。食事の手を止める事のない青年は口いっぱいに料理を頬張りながら、まじまじとサーラの顔を見てくる。


日頃から人と視線を合わせる事の少ないサーラは、初対面の相手にこうもジッと見られると居た堪れない。


不自然に目を逸らしながら問う。


「あの…何か付いてますか?」

「いや?」

「……………」


ならなぜ目を逸らさないのか。料理をノールックで口まで運ぶ程サーラの顔を見るのは何故なのか。


青年の言動が理解出来ないまま、だがこれ以上サーラの方から話すことは無い。青年がごくりと最後の料理を飲み込むまで沈黙した後、ようやくナイフとフォークを置いた青年が口を開いた。






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