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04



「え?あ……えっ!?ちょっ……?」


迷うといけないから会場まで案内すると言われた仮面舞踏会当日、サーラは仮面なんて持っていなかったがローブを深く被れば良いかといつも通りの格好でいたのだが、伯爵邸にてメイド達に着てきたものをあれよあれよと剥ぎ取られた。


息つく間も、抵抗する隙も無いまま、為されるままにされているサーラはまるでお人形だ。途中コルセットを締め上げられた時は「ぐえぇ」とまるで干からびそうな蛙のような声が可愛げもなく漏れた。


そして出来上がったメイド達の集大成を見て、サーラは言葉を失った。


サーラがいつも好んで着るような暗い色に合わせたような、露出は控えめでシック色合いにキラキラとスパンコールが散りばめられていて見るからに豪華なドレスはサイズや丈感もぴったりだった。加えて、顔を隠して参加する集会なのにご丁寧にばっちりメイクアップまで施されている。


もちろん、こんな姿になったのは生まれて初めての事だ。見慣れないし、いくらメイクで別人の如く変身させられたといっても自分にはとても似合う身なりだとは思えない。


「…………あの、これは一体、どういう…?」


ジュリオは確かに仮面舞踏会だと言ったはずだ。顔や素性を隠すからサーラはその縁を見るために呼ばれたはずだ。魔女は魔女らしく、ひっそりと角の方で息を潜めていれば良かったはずだ。


鏡の前で固まるサーラに、メイドの1人が答える。


「ジュリオ様がこちらをと。今夜の為に用意された特注品です」

「………えっ!?!?」


思わず大きめの声が出たが、メイド達は気にする様子もなくせっせと使った道具の片付けに勤しんでいる。


「と、特注って言いました…?」

「はい!お似合いですよ」


特注というのはつまり、特別に注文したという事で合っているだろうか。こんなしがない魔女のために?そんな馬鹿な。


理解が追いつかず唖然としていて、背後からメイド達の慌ただしいものとは違う足音が近づいてきている事にも気づかなかった。


「よく似合うね。僕の見立てた通りだ」

「っ!?!?!?」


思わず肩をすくめたサーラをクスクスと面白そうに見ているのは、サーラの支度が済んだ事をメイドから知らされてやってきたジュリオだった。


彼もまた普段にも増してかっこよく着飾っているのだが、見惚れている場合では無い。こんなにらしくない姿をジュリオに見られるのは気恥ずかし過ぎる。


「こ、こんな事する必要がありますか?」

「舞踏会にドレスコードは必須でしょ」

「私は魔女ですよ」

「関係無いよ。はいこれ」

「……………」


手渡された仮面は主に目元を覆って隠すものであり、こんなもので本当に素性を隠せるのかと疑問が募る。深くローブを被った方が余程顔は隠れる。


だがこれがお金持ち達の礼儀なのだと言われたら従うしか無い。サーラは仮面を受け取ると目元に合わせてみた。


「………邪魔ですね、視界が悪いです。それに、これだけで素性が隠せるとは思いませんけど」


ジュリオ程の人なら特に、目元を隠したぐらいじゃ隠しきれない魅力が至る所からダダ漏れている。こんなものでは即バレだろう。


この期に及んでブツブツと文句を言うサーラを、ジュリオは穏やかな表情で許していた。


「君は外見や家柄だけで人を見ていないからそう思うんだよ」

「?誰だってそうでしょう。むしろ人は外見だけで判断出来る事の方が少ないです」

「全くその通りなんだけどね」

「………?」

「さあ、時間だ。そろそろ行こうか」


ほんの一瞬、笑みの裏で困ったように見えたジュリオの表情は、次の瞬間には無くなってしまっていた。


サーラがロングドレスにもヒールの靴にも慣れていない事を十分に心得ているジュリオは歩き出す前にサーラに手を差し伸べる。不甲斐無くもサーラはその手を掴むしか無い。


広いお屋敷なのはもちろん知っていたが、馬車に乗るまでの距離がこんなにも長く感じた事はない。


「今日の君は本当に綺麗だ。まあ、いつも可愛い人だとは思っているけどね」

「揶揄うのはやめてくださいと言ったはずですけど」

「本心だよ」

「……………」


冗談だと分かっていてもドギマギしてしまうから勘弁してほしい。俯くサーラは今からでも断りを入れて逃げ出したい気分だったが、馬車に乗せられてしまっては逃げ場もない。


「上手く見つかってくれると良いんですけど…」

「どうだろうね。あまり期待していないよ。僕の運命の乙女は恥ずかしがりらしい」


期待していないなら、こんな事までさせないでほしい。


とは流石に言えなかった。




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