03
サーラはここ数日、自己嫌悪と反省の日々を過ごしていた。何もあんな風に感情的になる必要は無かった。しかも体調の優れない人の前で。
いつものように適当に受け流せば良かった。何なら、いずれ終わりを迎える恋なのだから、いっそ遊んで貰えば良かったのかもしれない。………そんな度胸は無いけれど。
「………はぁ」
次にジュリオとどんな顔で会えばいいのか分からない。
モヤモヤと晴れない気持ちと比例するように外は雨模様で、仕事をしていれば少しは気が紛れそうなのだが客足も望めない。とりあえず、魔道具に必要な消耗品を作り置きしておこうと作業をしているが全然集中出来ない。
そんな時、カランカランとドアベルが鳴り来客を伝えた。
「いらっしゃいま………」
来客の姿を確認するよりも癖になった言葉が先に出たが、訪れてきたのがジュリオだと分かると言い切る事が出来なかった。
「やぁ、お邪魔するよ」
先程までどんな顔で会えばいいかと悶々としていたサーラとは裏腹にジュリオは至って普通な様子でいつもの席につく。
「………体調は、もうよろしいのですか?」
「ああ、うん。君にも面倒をかけてごめんね。でもこの通り、もう大丈夫」
「いえ、私こそなんだかムキになってしまって…すみませんでした」
「気にしないで。僕が悪かったよ」
謝罪出来た事と、変わらず接してくれるジュリオに安堵しているとクスッと笑う声が聞こえて来る。
「………何ですか?」
「いや?何でもないよ」
「?」
サーラが首を傾げても教えてくれるつもりは無いらしい。数秒間見つめ合うような視線に先に耐えられなくなったのはやはりサーラの方だった。
「何か、御用でしたか?」
「うん。ちょっと頼みがあってね」
穏やかな笑みを浮かべるジュリオは、サーラがその頼み事を断らないと確信しているのだろう。なんだか少し癪だが立場上仕方がない。
「運命の乙女の事ですか?」
「まあそうだね。実は今度、仮面舞踏会があるんだけど、年頃の御令嬢も集まるし、もしかしたら僕の相手がいるかもしれないと思ってね」
「………はあ」
「だけど、仮面舞踏会で素顔を晒したり素性を探るのはご法度だ。となると僕だけでは心もとないから、君を頼ろうかと思って」
仮面舞踏会。お貴族様はなんともけったいな催しを思いつくものだ。
サーラは小さくため息を吐いた。
「もしそこで運命の繋がりが見えたとしても、ジュリオさんには教えられませんけど」
「もちろん分かっているよ。運命の乙女がどこかの御令嬢とも限らないしね。でも、見つかったら君がどう動くのかも大体分かってるから問題無いよ」
「……………」
ジュリオはダンテの時にサーラがどう暗躍していたかという事を言っているのだろう。しがない魔女の事など放っておけば良いものを、ジュリオはサーラの手段を知りすぎている。
全く、これでは営業妨害だ。
「一緒に来てくれるよね?」
そうやって人受けの良い笑みを浮かべて、いつもより一層甘い声で頼めば、サーラが、いや、女性が縦に頷く事を知っていてやっているのだから性格が悪い。
それが分かっているのに、頼られた喜びと叶わない想いでまんまと胸が締め付けられる自分は本当にどうしようもない。
「……………分かりましたよ」
「良かった。詳細は追って連絡するよ」
「はい」
雨は先程より小降りになっている。用が済んだのなら帰れば良いものを、ジュリオは結局、雨が止むまでサーラの店に居座った。
その視線や存在が気になって、サーラはほとんど仕事に手がつかなかった。