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02



サーラは全ての邪念を払って男の顔をじっと見る。


そこには照れも焦りも、何の感情も読み取れない程の仏頂面を引っ提げて観察するサーラと、大きなベットの上でいつもよりラフな格好のまま穏やかな笑みを浮かべてそれを許容するジュリオの姿があった。


ジュリオは数日前、精霊達に力を与えた代償に2日間寝込んだ後、まだ絶対安静の状態だと言うのにサーラはフランカル邸に呼びつけられていた。


「どう?分かりそう?」

「…………………」


どちらにしろ教える事は出来ないのだが、サーラが力を抜いて小さくため息を吐くと、ジュリオはクスッと笑みを浮かべた。


「まだその時じゃ無いみたいだね」


サーラは観念して口を開いた。


「ジュリオさんは女性との繋がりが多いので分かりづらいんです」

「昔の話だけどね。今は誰もそういう仲の人は居ないよ」

「知ってますよ、見れば分かるので」


だけど、その度に何度胸を締め付けられてきた事か。


「過去の話でも人と人との繋がりはそう簡単には消えないんです」

「僕も運命の乙女を探そうと必死だったんだよ」

「……………」


悪びれる様子もないジュリオにサーラは少しムッとした。ジュリオの女性遍歴は全て知っている。そのどれも今は終わりを迎えている事は縁の繋がりを見ても間違いは無さそうだが。


「どうして女性を誑かすのを辞めたんです?」

「誑かしているつもりは無いけれどね。まあ、気づいたから辞めたんだ」

「………気づいた?」


ベットの上で出迎えられ、体調が優れないのかと心配していたが、ジュリオの表情は清々しい。


「僕に必要なのが誰なのか」

「………それは、運命の乙女という事ですか?」

「さあね。君が分からないなら違うのかもしれないけれど、僕はそれでも構わないと思ってる」

「な、何を言って……。運命の乙女と出会わなければ、ずっと苦しむ事になるんですよ!?」


護り人がその力を発揮する為には運命の乙女の力が必須だ。一度に大量に魔力を失った身体はそれに順応出来ず、気怠さや発熱、頭痛、吐き気、湿疹など様々な不調が現れる。運命の乙女との繋がりがないジュリオは今、毎回それに耐えながら護り人としての使命を果たしている。


それが嫌で、運命の乙女を探していたのだろうに。


「その子が手に入るなら、何だって耐えられると思うんだ」

「自己中心的です。それでは、相手の女性はジュリオさんが苦しむ姿をずっと見ていく事になります。そんなのは酷です」


だからこそ、サーラはこの想いを内に秘めて運命の乙女探しに奔走していると言うのに。


そもそも、護り人と運命の乙女は基本的に惹かれ合う運命にあるのだから、出会えばジュリオも目を覚ますだろう。だが、ジュリオはサーラの考えを否定する。


「君は僕が今までどんな女性と付き合ってきたか分かっているから隠しようもないけれど、やっぱり僕にとって特別な人は決まってるんだよ」

「………出会った事がある人なのでしたら残念ですけど、それは恐らく勘違いです。ジュリオさんのどの縁を見ても、深い繋がりは見えません」


運命は移ろいやすい。残酷な事を言うようだが、間違った道に進んでしまわないようにするのも縁結びの魔女の務めだ。


淡々としているように見えて、どこか申し訳なさそうにするサーラを前にジュリオは落ち込みも驚きもせず、クスッと笑みを浮かべた。


「勘違いじゃないよ。僕は本気だ」

「私は魔女ですから、あなた以上にあなたの事を分かっている事もあるんです」

「だけど君は、自分の事は分からないんでしょ?」

「……………え?」


何を言われたのか分からず固まるサーラを面白がるようにジュリオはまじまじと彼女の顔を見た。


「どういう、意味ですか…?」


言われた意味を少し考えてはみたが頭がうまく働かず、ジュリオにまじまじと見つめられる事に耐えられなくなったサーラは観念してその意図を尋ねた。


「確かに君は縁結びの魔女だから他人の縁が目に見えるんだろうけれど、君自身と繋がる縁を見る事は出来ないんでしょ?なら僕と君がどんな縁で結ばれているか、僕が君にどんな感情を持っているか、分からないんでしょ?」

「どんなって……ジュリオさんと私は護り人と魔女で、それ以外なんて…」

「それ以外なんて無い?本当に?」

「……………………っ」


僅かに身を乗り出すようにして伸びてきた手が、サーラの頬に触れた。誰かにそんな風に触れられたことも、熱っぽい瞳も、甘さを帯びた声も、今まで全く経験の無いサーラはもうパニックだった。


「ねえ。君は本当にそれだけだと思う?」

「っ!?かっ……から、かわないでください」


自分がどんな顔になっているか見当もつかないほど混乱しているが、どうやら可笑しな顔を晒しているらしい。ジュリオは先程までの甘ったるい雰囲気を一掃するかのようにクスクスと笑みを溢し、手を引いた。


「まあいいよ、今日の所は勘弁してあげる」

「……私で遊ばないでください」

「男の部屋にのこのこやって来るから、遊ばれたいのかと思ったけど?」

「っ!?」


そんな訳がない。そもそも、今日ここを訪れたのはフランカル邸の従者を介してジュリオに呼び出されたからで、何かあったのかと心配してやって来たのにそんな風に言われるのは心外だ。


「あなたに呼び出されたら断れないだけです!!私だって忙しいんですから、他の御令嬢と一緒にしないでください!」


サーラは勢いのままに立ち上がると、そのまま飛び出すようにジュリオの部屋を後にした。



◯●◯●◯●◯●



「坊っちゃま?先程魔女殿が慌ててお屋敷を出られましたが、何かあったのですか?」


サーラが飛び出して行ってから数分後、部屋を訪ねて来たのは白髪に白髭を携えた長年この家の執事長を務めるロベルトだった。


「………出て行ってもらわないと危ない所だったから」


ジュリオが脱力するようにベットに横たわると、ロベルトは全てを察したように、布団を掛け直した。


「魔女殿に正直にお気持ちをお伝えすれば良いのでは?」

「そうしたとして、彼女が受け入れてくれるとは思えない。サーラは僕と結ばれる他の女性をずっと探しているんだから」

「……………」


サーラが縁結びの魔女としてこの地にやってきて、自分の務めを果たそうと真面目な姿を幾度となく見てきた。ダンテがカレンとの絆を最短で育む事が出来たのもサーラの尽力があってだと言う事を知っている。


「………ねえ、ロベルト」

「はい、坊っちゃま」

「もしサーラが、僕の運命の乙女を見つけたと言って誰か別の女性を連れて来たとして、僕の気持ちは変わると思う?」

「さぁ、どうでしょうかねぇ。ただこの爺には、変わりたくないと思っているように見えますよ。ともかく、まずはしっかり体を休めて下さい。体調が悪いと気持ちもナーバスになるものですよ」


そう言い残しロベルトは部屋を出て行ってしまった。


静まり返った部屋で思い出すのは先ほどまで触れていた魔女の白い肌と普段あまり見る事のない動揺した表情。


「………かわいい…」


ジュリオは先程の余韻に浸るようにゆっくりと目を閉じた。






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