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01



サーラは縁結びの魔女だ。人と人との縁が良いものも悪いものも目に見える。


時々、こう言う人たちがいる。


「それでは生きにくくはないか」と。

「人を信じられなくなるのではないか」と。


嫌になる事が無いと言えば嘘になる。例えば、普段とても仲良くしている人達が、実は一方はそうは思っていない場合もあるし、恋人同士の2人の繋がりに綻びがあるのが目に映る場合もある。


幸いな事と言えば、自分自身の縁を見る事が出来ないことだろうか。


もしそれを見る事が出来ていたなら、他人からの評価や内心を嫌でも知る事になっていただろうし、人間関係に嫌気が差していただろう。


冷たいかも知れないが、サーラが見ることの出来る人の縁は自分とは関係の無い所なのであまり生きにくさを感じる事もない。


とは言え悩みが無い訳では無い。


サーラは表向きは魔道具店として店を構えているが、縁結びの魔女としての仕事も度々舞い込んでくる。


今夜のお客様は若い女性で、恋人が浮気をしているのでは無いかとの相談を受けた。


「何かを隠しているのは明白なんです。でも、問いただせなくて…」


今にも泣き出しそうな女性を気遣い、サーラは明るい口調を心がけた。


「心配には及ばないでしょう。あなたとお相手の方が強い絆で結ばれているのが見えます」

「でも、帰りが遅かったり挙動もいつもと違う感じがして…」

「それは………」


プロポーズの準備でもしているのだろう。似たような相談を何度か受けた事があるし、そのどれも、数日以内に婚約に至ったとの一報が届いている。


事実、彼女と恋人を繋ぐ縁は間違い無く良縁だし綻びは見当たらない。だが、プロポーズの事はあくまでもサーラの予測でしか無い為、そんな曖昧な事を伝えるわけにも行かない。


縁結びの魔女ができる事は、その縁が良縁か悪縁か見極め伝える事しか無く、しかし目に見えない物を信じてもらうのは難しい。


「今は不安でしょうが少しの間、お相手の事を信じてみてください。私が言えるのは、お二人の縁は間違い無く良縁であるという事です」


サーラは嘘をつかない。例え相談内容が悪縁であったとしても、はっきりとそれを伝える。人の縁が見えるなど、自分で言うのもなんだが胡散臭くもある。過去にはそう言って占いじみた事で適当な事を言って人を騙していた事例もあったと聞いている。


今のサーラがある程度信頼を得ているのは、先代、先々代と縁結びの魔女だった母や祖母のおかげだ。それを裏切るつもりは無いし信頼を失ったらサーラの仕事は成り立たない。


「私に嘘をつく理由もありませが、人の縁は移ろいやすいのも事実です。もしあなたの不安が取り除かれないようならまたお越しください。その時のお代は頂きませんから」


女性は終始不安げな表情を浮かべていたが、最後は納得して今日の所はお帰りいただく事となった。


サーラは一息つこうと紅茶を淹れる。


折角良縁で繋がっていても、人は人を怪しみ、そこから不信感が生まれれば良縁にも綻びが出来てしまう。自分の能力を疑いはしないが、どうか近いうちに彼女の不安が無くなれば良いとは思う。そうやってコツコツ信頼と評判を高めていくしかない。


その点で言えば、ダンテとカレンの婚約はサーラの評判をグンと上げる良い知らせだった。この後の事はサーラが口を挟まずとも2人はうまくやっていくだろう。護り人と運命の乙女とはそれ程強い繋がりがある。


この調子でジュリオの運命の乙女も見つかれば、多少肩の荷は降りるのだが、そう簡単にはいかないらしい。


「まさか彼に運命の乙女がいないなんて事、ある訳ないよね?」


ポツリとつぶやいた独り言に返事が返ってくる訳は無いのだが、その静かさがサーラの言葉を肯定しているようで思わず身震いした。


護り人が使う固有魔法は精霊達に力を与える。護り人は精霊達にとって医者であり薬でもある。しかし、力を与えた分だけ護り人は魔力を消耗する。回復には数日間の安静又は運命の乙女との繋がりが必要になる難儀な仕事だ。


運命の乙女がいないジュリオは、精霊達に力を与えた後、3〜5日は寝込むらしい。ダンテもかつてはそうだったが、カレンが現れ結ばれると寝込む事は無くなった。運命の乙女の力は、特定の人にのみ作用する固有魔法と言って良いだろう。歴代の運命の乙女達に、そしてカレンにも魔法を使っている認識は無いようだが。


ジュリオの運命の乙女が見つかれば、その後はサーラを頼る事も無くなるだろう。疎遠になって時間が経てばこの初恋にも折り合いをつけられるはずだ。


「………はぁ」


自分の為すべきことは明確なのに、それを望めない自分がいる事が気持ち悪い。


「はやく運命の乙女を見つけないと」


それがジュリオの為であり自分の為でもある。


サーラは決意新たに店仕舞いをした。




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