13
「ねぇ。行く必要があるかな?これ」
「あります。と言うか、着いて来なくても大丈夫なんですけど」
サーラは生まれ故郷への弾丸帰省を強行していた。縁結びの魔女の力を持つサーラの母親に会いに行く為だった。
「まだ疑ってるの?僕と君の繋がりは勘違いなんかじゃ無いのに」
「人は思い込みで体に影響を与える事があるそうです」
「っはは!例えそうだったとしても問題ないのに。君への想いが僕を救うなら永久だから」
「っ……………」
こう言う事を日常的に言う人だと知っていたはずだ。なのにいちいち体が熱くなるのだから単純な自分が嫌になる。
「そ、そもそも縁結びの魔女が運命の乙女だなんて……」
「僕はその可能性を信じていたけどね。君は自分と繋がりのある運命を見る事が出来ないし、僕はずっと君が好きだったから」
聞いている方が恥ずかしくなるから勘弁して欲しい。それに、「ずっと」と言うが、サーラはジュリオのこれまでの女性遍歴を全て知っている。
「色々な方とお付き合いしていた事を知っていますよ」
「言い訳にしかならないけど、君が僕の気持ちを否定するからこれは間違いだと思う事もあったんだよ」
「………お屋敷にもあなたに好意的なメイドさん達がいますし、その方が干渉した可能性もあります」
「だとしたら君がその縁を見るだけで済むはずだ。母君に会いに行くのはそうじゃないからでしょ?」
「……………」
ジュリオの言う通りではある。フランカル家に仕える使用人の中にはジュリオと同年代の女性もいるが、ジュリオに対して好意的ではあっても、それが恋愛感情と結びつく人がいない。仕事に忠実と言うか、分をわきまえていると言うか…。
正論にぐうの音も出せず、サーラは拗ねてそっぽを向いた。
「確かめる方法なら他にあるのに」
「?なんです??」
「僕ら護り人を救うのは運命の乙女の愛だ。今も昔も、人が愛を確かめる方法はそう多く無い。例えば、キスとかセッ…」
「っ!?」
何を言い出すのかとサーラは慌ててジュリオの口を塞いだ。ジュリオは一瞬驚いた様子を見せたものの、目の前のサーラの行動を面白がるように目を細めた。
サーラもハッとして手を引く。
「す、すみません…。で、でも!愛を確かめる方法なんて、ハグとか手を繋ぐとかでも良いはずです」
「良いよ。試してみる?」
「!?!?」
自分で言った事だが、にこやかな笑みを浮かべて両手を広げるジュリオにギョッとした。そんな事をしたら心臓が破裂する。あの日の事を棚に上げる訳では無いが、そう言う事を出来そうに無いから母を頼るのだ。
「し、しませんよ」
「そう?残念」
想像しただけでも無理なのだから、自分が運命の乙女な訳がないと母の元を訪ね、そして………
「っあはははははは!なんだい、そんな事を聞くためにわざわざ来たのかい。あぁそうさ、あんたが運命の乙女さ」
「…………………」
ようやく再開した母親、縁結びの魔女エリーゼから放たれた言葉にサーラはあんぐりと口を開けたまま暫く固まった。
「だ、だって!私は縁結びの魔女で、だからあの地に行くようにお母さんが…」
「そうさ。あんたは縁結びの魔女だ。だけど運命の乙女でもある」
「そ、そんな事あるわけ……」
「いいかい、サーラ。私も縁結びの魔女なんだよ。私にはあんたの縁もちゃーんと見えてる。だからフランカル領に行かせたんだ」
何を言われても言葉が出ない。母親であるエリーゼが否定してくれればジュリオも諦めただろうし、サーラだって完全に気持ちを切り替えられたのに。
他でも無いエリーゼが肯定したら、本当に逃げ道がないじゃ無いか。
「教えても良いのですか?運命の乙女だと」
絶望するサーラをよそに、ジュリオがエリーゼに問う。エリーゼは鼻を鳴らした。
「今更だ。お前たちはもう繋がりがあったのだろう?運命は変わりやすいものだが、確定しているのであれば言ったところで何も変わらん」
「そうですか。それは僕にとって好都合だ」
「クックックッ…。そのようだな。護り人にこんな事を言うのもなんだが、娘の事を頼んだぞ。それから、お前達のことに手を貸せなくて悪かったな。この子は少々イレギュラーな立場だったし、私にはこの地ですべき事もある。私に出来ることは娘を君の近くに置くことくらいだった」
「いえ。案外楽しくしていましたし、こうして公認していただけるだけで十分ですよ」
ニコッと笑みを浮かべるジュリオを見て、人受けの良い、よそ行き用の顔だと思った。母もその好青年ぶりにまんまと騙されているようだが、この男の本領はこんなものでは無い。
サーラの視線に気づいたジュリオが視線を合わせてくる。
「これで満足したかな?実は先日の疲れがまだ完全に癒えていないんだ。君に癒してもらわないと」
「ひっ…!?」
サーラがジリジリと後ろに下がった分、ジュリオもジリジリと詰め寄ってくる。
「こ、こんな所で、い、いい、癒しなんて、するわけっ…!」
人目がある所で、それも母親の目の前でそんな事が出来るわけがない。手を繋ぐ事さえ許されない。
実家が狭い事を呪いつつ逃げ回っていたのだが、ひょいと体が浮き上がると同時にエリーゼが言う。
「部屋を貸そうか。サーラの部屋がそのままに残ってるぞ」
「えっ!?」
「では、お言葉に甘えて」
「えっ!?!?」
それは色々と困るのだが、とジタバタしても抱え上げられてはどうしようもなかった。