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サーラは大きな鞄に必要最低限の荷物を詰め込んでいた。数日、店を留守にする事で街の人々の力になれない事は申し訳なく思うが、早く済ませなければならない問題があるので仕方がない。店の入り口には店を留守にする旨の看板も立てたし、念のためソフィアにも事情を話してある。


ふと、時計が目につく。ジュリオはもう目を覚ましただろうか。意識が戻っても、まだ自由に体を動かす事は出来ないだろう。


その姿を知っていたのに、今まで己の醜さに気づけなかったことが悔やまれる。本当に、私欲に溺れた愚かな魔女だ。


この自分の至らなさを伝えたら、母は大笑いするだろうが協力はしてくれるだろう。


「………よし」


目的地までは少々距離があるが、幸い荷物はそれほど多くはならなかった。スペンサーが手を加えてくれたローブに袖を通した所で、店のドアに取り付けたベルが鳴る。


「すみません、今日はちょっと店仕舞いしてて……」


言いながら、ようやく訪ねてきた人物を確認したサーラは自身の目を疑った。そこには息を切らしたジュリオの姿があった。


慌ててやって来たのだろうが、問題はそこでは無い。昨日精霊達に力を与えたジュリオはまだ自力で起き上がるのも難しいはずなのだ。


だが、ジュリオはそんな事は構わないかのようにぐんぐんとサーラと距離を詰めるとその身を引き寄せた。


「えっ!?」


ジュリオへの想いは昨日全て捨ておいたつもりだが、途端にサーラの鼓動はドッドッと煩くなる。ギュッと抱き寄せられ、呼吸も苦しい。


「間に合って良かった」

「っ、えっ…?」

「僕のそばからいなくなるのは絶対に許さないよ」

「!?!?」


何の事かと考える余地もなく、思考は真っ白になる。瞬きすらうまく出来ない程、サーラは混乱していた。


「どこに行くつもり?僕の運命の乙女」

「……………………は?」


ようやく出た声は無礼極まりない音となったが、ジュリオは気にする事なく、揶揄うようにクスッと笑みさえ浮かべ、再びサーラを抱き寄せた。


「君は縁結びの魔女としての務めを果たせない事を理由に僕の前から姿を消そうとしたかもしれないけれどもう無理だよ。君は僕の運命の乙女としての務めを果たさなければいけないからね」

「さ、さっきから、何を言って…」


全く意味が分からない。


まず耳元で囁くのをやめて欲しい。そして離れて欲しい。一度深く呼吸をして状況を整理したい。


「ジュ……ジュリオ、さん……」

「ん?なに?」

「っ………」


だから耳元で囁くのはやめてくれ。いつにも増して甘く優しい声色をゼロ距離で聞くには少々刺激が強すぎる。


サーラの顔はもう隠しきれない程真っ赤に染まっているだろう。ローブをかぶる事さえ許されず、目に涙が溜まってくる。


「い、一度、離れて下さい……」

「どうして?」

「っ………も、もう…限界です……」


情報と刺激が多すぎて気が遠くなりそうな所で、ジュリオはクスクスと笑いながらも、ようやくサーラを解放した。


だが、距離が出来た事に安堵したのは一瞬で、今度はこの距離のせいでみっともない姿の自分を見られる事も、ジュリオがどんな顔で自分の事を見ているのかも知ってしまってから離れた事を後悔しても遅かった。本当にもう、色々勘弁して欲しい。


だが、サーラは昨日自分の初恋は全て捨てた身だ。照れてばかりもいられず、一度大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


「じ、状況を整理させてください…」

「いいよ」

「どうして、ここにいるんです?昨日の今日では起き上がるのは難しいはずです」

「それは君が僕に力をくれたから」

「……………私は、何もしていません」


サーラは魔女だ。簡単な治癒魔法の心得もあるが、魔力消費を補う魔法は使えない。だが、ジュリオは平然とした姿勢を崩さなかった。


「嘘だよ。僕にキスしてくれたでしょ」

「…………………。えっ!?」


した。確実にした。だけど触れたのはほんの一瞬であの時ジュリオは眠っていたはずだ。いや、そもそも眠っている相手に勝手に口づけなんてどうかしているのだが、バレているとなると極めて部が悪い。ジュリオが怒っている様子は無いが、痴女にも程がある。


「なん、で…その事を知って………」

「あの時急に体が楽になって、意識はふわふわしてたから君がキスをしてくれたなんて夢かとも思ったけど、今朝目が覚めて確信した。あの時の感覚が残ってるし、君は僕の運命の乙女だって」

「そ、そんなはず…ありえません」

「どうして?僕は君から力をもらってここに立ってるのに」

「だって私は、縁結びの魔女なんですよ?」


サーラが魔女である事も、護り人の協力者である縁結びの魔女の血を引く事も間違いない事実だ。その証拠にダンテとカレンの縁を結んだのはサーラの暗躍も大きい。ジュリオが知らないはずがない。


「私は…あなたの運命の相手を探す役目を担っているんです」


好きな人はいつか、自分では無い誰かと結ばれて幸せになる事をずっと知っていた。今更彼の言葉を良いように解釈して喜んだりしない。


俯くサーラにジュリオが困ったように声をかける。


「君は本当に強情だよね」

「私は、あなたに幸せになって欲しいんです」

「君と結ばれれば僕は誰よりも幸せになれるよ」

「そん、なはずは………」


縁結びの魔女が運命の乙女だった前例など聞いた事がない。ジュリオの体調に何らかの力が干渉したのは間違いないだろうが、サーラである確信が無い。フランカル家には女性の使用人も多いし、その中の誰かという可能性もある。


「ごめんね。君はもう、僕から逃げられない」

「っ!?!?」


触れた唇から伝わる熱は魔法のようにサーラを拘束して、指一本動かす事さえ出来なかった。





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