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09



それからサーラのマネキン生活が始まった。


スペンサーに身体の寸法を測られた時は多少恥ずかしかったが医者に診てもらっているような物だと思って気を紛らわせた。


そのあと好きな色は何かと聞かれて「黒」と即答すると「つまらない」と言い切られて不服に思ったが耐えた。


「でもあんたに派手な色味は似合わないだろうな」

「……………」


ではどうしろと言うのか。


ムッとするサーラを他所に、スペンサーはじーっとサーラを観察しながら少し考える素振りを見せた後、近くに置いてあったペンを持った。何か閃いたのか、メモ用紙にサラサラと書き込んでいく。


「何か希望はあるか?」

「まあ、仕事がしやすいとありがたいですけど」


と言うか、サーラは基本的にローブを羽織っている事が多い為、中の服なんて多少見え隠れはするだろうが何を着ていても大差は無いと思っている。


「私としては洋服より先日のようなローブの方が重宝します」


先日受け取ったローブはサーラの目から見ても見事な物だった。あまり汚したく無いからと、着る頻度が減ったのは本末転倒だがそれほど感動的だった。


サーラはスペンサーが手を加えたあのローブを誉めたつもりだったのだが、それを聞いたスペンサーは眉間に皺を寄せた。


「あんた、四六時中ローブを付けてるのか?」

「………寝る時以外は」

「プライベートでもか?」

「ええ、まあ…」


魔女なのだからそんなものだろうとサーラが答えると、スペンサーはがっくりと項垂れた。


「なるほどな。おばさんが頼み込むのも無理は無いな」

「え?」

「良いか?俺の服を着たら、ローブを羽織って良いのは仕事中だけだ。分かったな」

「えぇ………」


そんなのは個人の自由なのでは無いかと思うのだが、まるで大罪人を諭すようなスペンサーの静かな怒りに気づいて何も言い返せなかった。


「数日中にそのローブは引っ剥がしてやる。もう帰っていいぞ」

「……………」


とにかくローブを羽織っているのはダメらしい。魔法使いといえばローブだろうに。


それにサーラは一応客のはずなのに、追い返し方があまりにも雑だ。本当にこの男は客商売が出来るのかと不安に思うが、何やらペンを世話しなく動かしているスペンサーにわざわざ今声をかけるのも面倒だったので言われるがまま店を後にした。


店を出て自宅兼店へと戻るべく歩みを進めていると、ふとある男の姿が目についた。全く、良く目立つ男だと感心しつつ、出店の女店主と仲睦まじい様子で話しているその男の様子をまじまじと観察する。


サーラが見ているのはジュリオの容姿では無く、その頭上から伸びる数多の運命の糸だ。話している女店主との関係は、友好的な関係のようだが運命の乙女では無さそうだった。


そうだろうなとため息を吐く。そう簡単に見つかるなら苦労していない。ダンテとカレンがスムーズすぎたくらいだろう。


サーラは縁結びの魔女だ。その責務を放棄するつもりはないし、ジュリオの力になりたいという想いは嘘じゃ無い。だが、打つ手がないのも事実でどうしたものかと考え込んでいると、ふと影が落ちた。


「やあ。奇遇だね」

「……………どうも」


そこには、いつも通りに笑みを浮かべるジュリオの姿があった。いつバレていつの間にここに来たのか。先程の女店主はもう別の客の相手をしている。


「買い物?それとも散歩?」

「どちらかというと買い物です。スペンサーさんに洋服の仕立てをお願いしていて」

「へぇ」


何の変哲もない世間話はすぐに終わったというのに、ここを去る気配の無いジュリオを不審に思って見上げた。つい先程まではいつものように穏やかな笑みを浮かべていたはずなのに、今は口角こそ上がってはいるがなぜか笑っているように見えない。


「スペンサー・オルミ、だったよね。彼とは仲がいいの?」

「?ただの顔見知りです」

「そっか。確かにあのローブは見事だったけど、服なら僕が見合うものを揃えてあげても良いのに」

「仕立てをお願いしているのにも色々事情があるんです。私が望んだわけでは無いのにあちこち採寸されて挙句追い出されるなんて、理不尽にも程が……」


はて、とサーラは首を傾げた。ここに来て我慢していたものが爆発してしまった。こんな所で文句を言われてもジュリオだって困るだろう。彼は彼でこう見えて忙しい人なのだ。


「すみません、なんでもありません。では私はこれで…」


はやく家に帰って少し休めば、気持ちも落ち着くだろうとサーラは帰路に着くべく一歩踏み出そうとした。


「待って」

「っ………?」


だが、ジュリオに腕を掴まれた事でサーラは動きを止めた。何度も言うが、急に触れられるのは心臓に悪い。加えて、なぜかジュリオはサーラの肩に項垂れるようにして頭をつけていてそこから心音が伝わってしまいそうな程に心臓が高鳴っていた。


「なん、ですか…?」


もしや具合でも悪いのかと心配するサーラを他所に、ジュリオは大きくため息を吐いた。


「驚いた。自分がこんなに狭量だとはね」

「な、何言って…」

「ねぇ、一体この気持ちは何だと思う?」

「はいぃ!?」


耳元でそんな切ない声を出さないで欲しい。もう気を失ってしまいたい程に心臓が痛くて全身が火照っている。正直、こんなに近くで囁かれているのに、何を言われているのかよく分からない。


ガチガチに固まって、今にも体から蒸気が出そうなのを悟ってくれたのか、ジュリオは大きなため息のあと、体を離してくれた。


「送るよ」

「…………はあ」


まぬけな返事しか出来ないサーラに対して、ジュリオは困ったように笑みを浮かべた。





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