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プロローグ
〖三島青葉〗
―この街の魅力は、本当に透き通った海と晴れ間から顔を出す富士山だと思う。そりゃあ富士山が見える街なんてたくさんあるだろうけど、何故だか私には此処が特別に思えてしまう。
初めてこの街を訪れたのは、もう4年ほど前になるだろうか。高校を卒業して、行く当ての無い旅をしてみて辿り着いたのがこの街だった。こんなにもきれいな海があるのだと知り、あと少しだけ生きてみようと思えた瞬間だった。
けれど22歳になった今でも、私の心の雲が晴れることはなく、また此処にいる。
親も、友人も、恋人も、私は全部捨ててきた。捨てるなんて言い方失礼かもしれない。けれど、どうか許してほしい。きっと、猫が飼い主に死に際を見せないのと同じなのだから。何も許してもらえなかったから、せめて。これだけは。
秋の夕暮れの海は冷たく、私の足をゆっくり誘う。
けれど私は、どこにも行けなくて。