三日目① 「あーニトロ入れてるんですね」編
三日目
7月27日水曜日。肺炎おじさんは結局朝まで起きていた。
朝方に女看護師がやってくる。採血を4本分するらしい。
肺炎おじさんは多いなーと思いながら腕を差し出す。
採血の上手い看護師だったのか、今までで一番痛みがなかった。
その後、別の女看護師が抗生剤の点滴をセットしに来る。
更に別の看護師が熱、血圧、血中酸素濃度を測りに来る。
既に書いたように熱や血圧を担当するのはその日の担当の看護師で、それとは別に採血や点滴は別の看護師がやるようだ。
抗生剤が効いているのか、昨日から続けている心臓に溜まった水を小便に替える薬が効いているのか、呼吸が楽になり、咳と痰の回数も更に減った気がする。
一方で熱は38.0度前後を推移しており、朝の熱も37.8度だった。
肺炎おじさんは抗生剤が細菌と戦っているのかなあ?と思った。
そうこうしていると主治医の女医がやってくる。
「今日は寝れましたか?」
「咳と痰は昨日より落ち着いて楽だったんですが、暑くて結局眠れませんでした。」
「あらら。それは残念。熱が出てるので寝苦しいかもしれませんね。今日も寝れないようなら看護師に相談して下さい。」
女医はそういうと治療に話を移す。
「今日の朝も採血させてもらったように時折採血して抗生剤を変えながら肺炎を治療していきますね。今日は検査もないので安静にして薬を打ちましょう。明日は再び肺のレントゲンを撮ります。」
「分かりました。」
肺炎おじさんが頷くと女医さんは「なにか気になることがあれば聞いてくださいね。」と言って去っていった。
聞きたいことはすぐには出てこないので思いついたら聞こう。
女医さんが去った後、肺炎おじさんはお通じを出したい気持ちがしてきた。
断食しているので、新しい食べ物は食べていないが月曜の昼に食べた分は出していないはずだ。
さすがにお通じは尿瓶には出せないため、意を決してトイレに行こうと考える。
しかし肺炎おじさんは点滴台についた機械に複数のコンセントのコードが伸びていてとても勝手に触れそうにないことに気づく。
肺炎おじさんは「ナースコールを押すのも慣れてきたな(フッ)」と訳のわからないことを思いながらナースコールを押した。
やって来た女看護師にトイレに行きたい旨を伝える。
「あーニトロ入れてるんですね。コンセントを外してもしばらく機械は動いているので一度外してトイレが終わったらまた付けて下さい。」
そう言って女看護師は点滴台についた2つの機械のコンセントをそれぞれ抜いて地面に置いた。
肺炎おじさんはニトロ???と思ったが、考える前に女看護師から声をかけられる。
「トイレは自力で行けますか?」
「はい、行けます。ありがとうございます。」
肺炎おじさんは返事をしてトイレをしに行く。点滴台から右手に管が伸びており、左には鼻酸素のチューブがあるため、なかなか座りづらい。
女看護師が鼻酸素のチューブを持ち上げて頭をくぐらせて反対側にチューブが伸びる形にすると座りやすくなった。
さすがに女看護師もおじさんのトイレを覗く趣味はないようで扉をギリギリまで閉めてくれる。
自力でいけますと言ったが、結局手伝ってもらってしまった。
お通じは少しだけ出た。
ベッドに戻ると女看護師が機械にコンセントをはめてくれる。
大体トイレのやり方は分かった。
「ありがとうございました。」
肺炎おじさんはお礼を言って女看護師を見送った。
───ニトロ?ニトロ、ニトロねえ。そういえばニトログリセリンは医療でも使われると聞いたことがあるな。
肺炎おじさんが点滴台の機械をよく見ると心臓に溜まった水を小便に変える薬の方の機械には「ニトロ」と書かれたシールが貼られていた。
そして点滴の袋にはニトログリセリンとそのままな薬品名が書かれていた。
───ビンゴォ!心臓の薬ってニトログリセリンかよォォォオ!あれ?これ僕が馬鹿して爆発したら死ぬ?
肺炎おじさんは怖くなってスマホで調べたが、医療用のニトログリセリンは爆発しないと書かれていてホッとした。
みんな安心してニトログリセリンを点滴しよう!
しばらくして11時頃、痰の回数が減り、呼吸しやすい一方で、肺炎おじさんはお腹に気持ち悪さを感じていた。
お腹がタプタプしていると言えばいいだろうか。
肺炎おじさんは呼吸しやすい分、自然と痰を吐き出さずに飲んでしまい、それが胃に溜まっているのではないかと感じた。
食事は断食中で飲み物も多くは飲んでいないため、胃にたまるものはそのくらいしかないと思ったのだ。
お通じをした際に水分として一緒に出ればよかったがそうはならなかったようだ。
肺炎おじさんは胃の中の痰がダムの決壊を待っているかのように感じて、ベッドにぶちまける前に自分から出した方がいいんじゃないか?と思った。
点滴台の機械のコンセントを抜いてトイレに向かう。
トイレの洗面台に痰を吐くというよりゲロを吐くように胃の中のものを吐くと大量の痰が出てきた。
色がピンク色で粘液質なので胃液ではなく痰だろう。
肺炎おじさんは2回ほど吐くと水を流した。
なかなか気持ちの悪い図面であったが、胃や喉がスッキリしたからか、肺炎おじさんの気分はとてもよくなった。
その笑顔は今日一番の笑顔かもしれない。
熱を測りに来た看護師には痰をゲロのように吐いたことを告げたが、現時点では判断がつかないので、もし次吐いたら流さずにナースコールをするように言われた。