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二日目③ 「心臓に溜まった水を尿に変えて小便として出す薬を使います」編

夕方になっても肺炎おじさんは変わらずゴホゴホと咳を出して痰を吐いている。


家族からの差し入れで保温効果のある銀色のパックに入った飲み物が届けられた。そのうちの2本は凍っており、明日まで持ちそうでありがたい。


この病院の冷蔵庫はテレビと冷蔵庫の使用がセットで1日1000円と決まっていて肺炎おじさんは使っていなかった。

金額が高いということもあったが、肺炎おじさんは余りテレビを見ないのだ。そして冷蔵庫の位置がテレビの下にあり、左右から管が伸びている肺炎おじさんがベットから降りて回り込んでしゃがんで冷蔵庫を空けるのはキツそうだなと思ったからだった。

家族にラインで冷蔵庫は使いづらい位置にあるからしばらく使わないと告げたので気を利かせてくれたのだろう。


差し入れの整理を終えるとそこに複数人の看護師が機械を持ってやってきた。

主治医の女医もやってくる。


「心臓エコーの動画を見るとやはり心臓の動きが悪いですね。詳細は細かな検査をしないと分かりませんが、心臓に水が溜まっており、負荷になっている可能性が高いです。また、血圧が高いのでそれも心臓の負荷になります。そこで、心臓に溜まった水を尿に変えて小便として出す薬を使います。これは血圧を下げる薬にもなります。加えて抗生剤を入れる際に小便を出しやすくする薬も入れます。」

女医の説明が終わると看護師が点滴台に機械をセットしていく。


この機械が心臓に溜まった水を小便に変える不思議な機械なのだろうか、それとも薬というからには別にあるのだろうか。

この時点の肺炎おじさんは理解ができなかったが、結論から言うと心臓に溜まった水を小便に変える薬は点滴の形をした薬であり、この機械はその落ちてくるスピードを管理し、どれだけ薬を使ったか記録する機械であった。


機械は2個あり、片方はすでに付けていた通常の点滴の相方のようで、機械の中に点滴の管を通して使用するようだ。管を通した後は看護師のより、ボタンを押して設定が行われた。

次に新しい点滴が現れ、もう片方の機械に管が通される。こちらが心臓に溜まった水を小便に変える薬のようだ。

この薬は通常の点滴と混ぜてもいいようで新しく針が刺されるのではなく、抗生剤と同じように通常の点滴の管の分岐した箇所に追加で付けられた。

結果として今ベットの横にある点滴台には機械が2つ、点滴が2つ付いていた。 


女看護師が追加でなにかを持ってきた。それはなんと尿瓶しびんであった。

尿瓶はベット右の起き上がる際に足を掛ける場所の隣にフック付きスペースが掛けられそこに置かれた。


───カテーテル初チャレンジの次は尿瓶初チャレンジか……。


肺炎おじさんは落ち着いているかのようにコメントしているが実際は驚きが隠せなかった。


「これから薬の力で排尿の機会が増えるため、尿瓶を置いておくといいという話になりました。点滴台の機械のコンセントを抜かないとトイレにいけないのでそういう意味でも尿瓶は楽だと思いますよ。」

女看護婦さんはそう言って去っていく。


新しい薬が始まって15分だった頃であろうか、肺炎おじさんは猛烈な尿意に襲われた。


尿瓶を使おうと思うが蓋もない瓶がそのまま置かれていて躊躇う。尿瓶は使い終わったら液体の入ったまま上手く口を上にして置いておけばいいのだろうか。それともその都度看護師を呼んで処理してもらう?

肺炎おじさんは考えるのを諦めてナースコールを押した。


看護師によると排尿を済ませたら瓶をスペースに戻してその都度呼んでよいらしい。こぼれないように尿瓶の蓋も付けてくれた。


「ふう。」

肺炎おじさんはやっと尿瓶に用を足して一息する。薬の効果か量が多い。

尿瓶に蓋をしてスペースに置いてナースコールを行う。


「尿瓶を交換(?)してください。」

何というのが正しいのかわからないが無事看護師さんに中身を捨てて戻してもらうことができた。


しかし30分もすると再び肺炎おじさんを尿意が襲う。

薬の効果で心臓に溜まった水が小便に変わっているからだろうか、どんどん小便が出るようだ。

2回目の尿も量が多かった。


さらに30分すると3回目の尿意が襲う。肺炎おじさんは尿瓶に排尿して看護師に尿瓶の処理をしてもらいながら、座っていて気づく。


───あれ?咳減ってる???


原理はよくわからないが心臓に溜まった水が減ると息がしやすくなり咳も減ったようだ。

心臓に負担が掛かると満足に酸素が取り込めないため、呼吸を多く必要としていたということだろうか。

あるいは肺炎で咳や痰が出ることで心臓の負担となり、心臓の動きが悪いことで肺炎に更なる悪影響を与えており、肺炎と心臓の不調が相互に影響を与えているのかもしれなかった。


なんにせよ、今回の薬で多少呼吸が楽になったのは肺炎おじさんにとっては朗報である。


さらに20分近く経って肺炎おじさんがもうそろそろ次のトイレかな?と思っていると女看護師が新しい点滴を持ってきた。抗生剤らしい。


「抗生剤は1日3回点滴しますね。今日は新しい抗生剤を試すのと、時間が中途半端なので朝含めて2回です。抗生剤を入れる前に点滴のルートを使って利尿剤を入れますね。」

と言って女看護師は腕から利尿剤を入れていく。気持ち的には利尿剤のおかわりである。


利尿剤を入れ終わると抗生剤を点滴につなげて点滴が3つに増える。

そして15分もしないうちに肺炎おじさんは小便がしたくなるのであった。


その後一時間の間に2度排尿して肺炎おじさんは落ち着いた。


そしてやはり咳が減り、息がしやすくなっていることを実感する。

当然咳や痰は出続けており、ゴホゴホと咳き込むことも少なくない。だが、昨日、いや数時間前よりは明らかに楽になっていた。


───これは今日は寝れるかな?


しかしこの肺炎おじさんの考えはまだ甘かった。

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