二日目② 「〇〇がないってありえます?」編
肺炎おじさんは痰を吐きたくなって目を覚ます。喉というか口の中がカラカラで声も出しづらい。ただ、呼吸は少ししやすかった。
カラカラが限界のため、お茶を飲む。肺炎おじさんの口と喉が癒やされるが咳き込む。
少ししておばちゃんの看護師と若い女看護師がやってきて血圧と熱と血中酸素濃度を測る。血圧と血中酸素濃度は大して変わらず、悪いことに熱が38.0度に上がっていた。
肺炎おじさん的には熱はあまり実感がわかなかった。
「午後は呼び出しが掛かったら心臓エコーという検査に行ってもらいます。車椅子で移動しますが大丈夫ですね?」
おばちゃん看護師がそういうので肺炎おじさんは「わかりました。」と答えた。
「服レンタルされてますよね?着替えますか?」
若い女看護師が訪ねてくる。
昨日入院したあと着替えていないので下着を変えていないし患者がよく着る病院服すら来ていない。
「はい、じゃあお願いします。」
「じゃあ服を替えると同時にタオルで汗を拭きましょう。替えの下着はありますか?」
「はい、届けてもらったのでバッグの中のどこかに。あとは脱いだ下着を入れる袋があるといいのですが。」
「バッグはこれですね。服とタオルと袋を用意してきますね。しばらく待っていてください。」
そう言って若い女看護師は病室を出ていった。
少し待つと若い女看護師が服と青い袋に入れたタオルを持って帰ってくる。
「背中は私が拭きますが、前は自分で拭けますか?」
若い女看護師は服を脱がせながら確認する。
「分かりました。背中お願いします。」
若い女看護師は背中を拭いてくれるが少し力が弱い。しかし肺炎おじさんはただでさえ拭いてもらっているのに細かい注文をつける気はしなかった。
「じゃあ先に上着着せちゃいますね。点滴の管があるのでこっちの手から。」
若い女看護師は一時的に点滴の分岐点の取手を回して管に蓋をした(おそらく回すと液体や空気の流れが止まるようになっている)。そして一度スポンと分岐点から点滴を外すと服の袖に腕を通してから再度点滴を付けた。
服を脱がした時はよく見てなかったが同じ作業をしたのだろう。
「じゃあ残りのタオルは青い袋に入ってているので自分でズボンと下着を変えて吹いてもらえますか?少ししたら回収に来ますので。」
「分かりました。やってみます。」
肺炎おじさんは頷いた。医療のためとはいえ若い女性に肺炎おじさんの下半身を拭かせるのはよくない気がしたので自力でガンバだ。
なんとかズボンを脱いで下半身を拭いて新しいズボンを履くことは出来た。
しかし立って作業したからか咳き込んでしまった。
「あああっ。大丈夫ですかー?すみませんー。」
ゴホゴホ咳き込んでいると戻ってきた若い女看護師に謝らせてしまった。無理させてしまったと思われたかな?
もしかしたら肺炎おじさんの症状だとお願いしたら下半身も拭いてくれたかもしれない。
でもやはり悪い気がするのでこれでいいのだ。
使い終わった下着はタオルとは別の青い袋に入れてロッカーに入れてもらう。次の差し入れの時に家族に渡す予定だ。
使い終わった服とタオルを持って若い女看護師は病室を出ていった。
身体を拭いて新しい服になったため少し気分はスッキリした。
二時間ほどしておばちゃん看護師がやってくる。検査の時間が来たようだ。
管が多いので一旦酸素を車椅子に付け替えたり、入口とは反対のベッドの右側から降りて点滴台を持って歩いて車椅子に乗り換えたりと手間が掛かった。
痰を吐く用の袋とティッシュを腕の中に置いてもらう。
病室を出た辺りで、
「ああっ、マスクあります?」
おばちゃん看護師がマスクを忘れたことに気づく。
「台の上に差し入れてもらったマスクの袋があります。忘れてました。」
肺炎おじさんはマスクの位置を伝えて一つ持ってきてもらうとマスクをつけた。
このおばちゃん看護師は元気で気のよい看護師と言った感じの方で「行きますよぉー!」と言って風を切るように車椅子を押していた。これが意外と風が体に当たって気持ちよかった。
※ 風を切るように書いてあるが実際は他の方の車椅子移動より早いくらいで、ちゃんとスピードを守った安全運転です。
そして肺炎おじさんは心臓エコーの診察室にたどり着いたが、この辺りで少し咳と痰が盛り返してきた。
肺炎おじさんは診察室内のベッドに案内されて仰向けに寝るがゴホゴホと咳き込んでしまう。
「だ、大丈夫ですか?辛かったら途中で言ってくださいね。」
心臓エコーの担当の女看護師(医師?技師?)は肺炎おじさんの咳を見て驚いていた。
「は、はい。すみません。」
肺炎おじさんは鼻酸素の供給量アップで咳が少し減っていたから油断したなと思った。一度咳と痰のループに入るとなかなか収まらない。
少し咳が落ち着くまで待ってもらい心臓エコーを始める。
この心臓エコーのエコーとは超音波のことであり、身体にゼリーを塗って超音波で心臓の形や働きを確認する検査らしい。
このため、肺炎おじさんは胸からお腹まで指(目を瞑っていたのでもしかしたら棒かもしれない)でグリグリされたり、グイーとゼリーを伸ばされたりしたため、何度も咳き込んだ。
この検査、肺炎おじさんのような咳や痰が止まらない人とは相性が悪いようで看護師が身体を触ってなにかのスイッチが入ると咳き込む、逆に口に溜まった痰が限界になり、肺炎おじさんが手を上げて体を起こして痰を吐き捨てるなどして検査に随分と時間がかかってしまった。
「先輩、ちょっと音聞いてもらってもいいですか?」
肺炎おじさんを担当している女看護師が別の女看護師に話しかけている。
「〇〇がないってありえます?薄いとありえるのかな?」
「ないってケースもありえるって聞いたことあるけど、実際に見たことないわねえ。再度確認してみましょう。」
微妙に怖い会話が肺炎おじさんの耳に入ってくるが肺炎おじさんはもう聞かなかったことにした。
何度もグリグリ、グイーされ、先輩の方の看護師が声を出す。
「これ、これじゃない?はっきりしてないけどこことここでつながるし。弱ってるから分かりづらいだけでこれでいいんじゃない?」
「あー。そうかもしれないですね。その前提でやってみます。ありがとうございました。」
二人が納得しているので大丈夫なようだ。二人の会話は専門用語が多くて正直良く分からなかったが、必要なものが見つかってよかったよかった。よかった?
「すみませんー。もう少しで終わりますからねー。」
その後、再度グリグリ、グイーされて検査は終わりとなった。肺炎おじさんは最後まで咳を出していた。
車いすに乗り、肺炎おじさんの病室の担当の看護師を呼び出してもらう。
待ってる間に「咳すごかったですねー」と言われ、「波があって出るとなかなか止まらなくて」と返した。
その後心臓エコーとはどんな検査なのか聞いていると迎えが来たので話を切り上げて病室に向かった。
「検査長かったですねー。」
迎えの女看護師はおばちゃん看護師とはまた別の女看護師であった。
「やっぱり長かったですか?咳き込んでしまって何度か検査止めてしまいました。」
「仕方ないですよ。はい、着きましたー。」
肺炎おじさんはベッドまで移動して酸素を車椅子のボンベから部屋の装置に切り替えてもらう。
肺炎おじさんはお茶を飲んで一休みした。