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二日目① 「心不全を疑っているのだけども」編

二日目


7月26日火曜日。肺炎おじさんは結局一睡もできなかった。


朝6時頃になると男看護師がやってきて熱と血圧と血中酸素濃度を測っていく。

この男看護師は昨日の夜、夜勤担当ですと言っていた気がするが、正直、咳と痰が酷くて熱もあったため、記憶に自信がない。

夜中に肺炎おじさんの目にライトを当ててくれたのはこの男看護師だった気がする程度である。


申し訳ないながらこの時点では救急室も含めてすべての看護師の名前と顔が一致していない。担当になると自己紹介してくれる人もいるのだが覚える余裕がないのである。


やはり血圧が高いのか、男看護師も数回血圧を測る。


「寝れました?咳と痰酷かったですけど。」


「結局寝れなかったですねー。鼻で上手く呼吸ができないので口呼吸で息してます。」

読むづらくなるため省いているが、肺炎おじさんはこの一言二言を喋る間も咳き込んだり、むせたりしている。


「じゃあちょっと待ってて。」

男看護師はそういうと一度病室を出て何かを持ってきた。

酸素マスクのようだった。


「これ使ってみます?」


「痰が結構多く出ていてマスクを付けると吐き出すのが大変そうなのですが、大丈夫でしょうか。」

肺炎おじさんがそういうと男看護師はうーんと唸った後、ベットの枕側の壁にある鼻酸素の装置をいじる。

すると酸素の通りが少し良くなり、咳で口呼吸が止まったり鼻で息をしようとすると肺炎おじさんの鼻の中でシューッと音がした気がして鼻呼吸ができた気がした。

今までは口呼吸しないと息が止まる気がしていたが、これなら口呼吸をしなくても無理矢理鼻から呼吸ができる気がする。


「口呼吸が止まったら酸素を出すシステムでもあるんですか?呼吸が止まったら強い酸素がシューッって出てくるんですけど!」

肺炎おじさんが驚いて尋ねる。


「いや単純に酸素を強くしただけですわ。今4リットルですね。」


どうやら酸素の供給量を上げてくれたようだ。

今までは酸素の供給があっても鼻呼吸は難しかったが、今は無理矢理鼻を通って酸素が運ばれてきている。口呼吸を止めるとそれが実感できただけなようだ。

まだ咳も痰も止まらないが少し楽になった気がする。


「ありがとうございます。少し楽になったかもしれません。」

肺炎おじさんはお礼を言った。彼に目にライトを当てられたことは忘れよう。


しばらくして女看護師が点滴を持ってやってくる。通常の点滴と抗生剤だ。

通常の点滴は新しいものと入れ換えになり、抗生剤が追加される。


「抗生剤の点滴は1時間ほどで終わるので後でまた見に来ますねー。」

女看護師はそう言うと去って行った。


肺炎おじさんは朝食がないこともあり、そこからしばらくは横になったまま、咳と痰と戦っていた。女看護師が来て抗生剤の点滴を回収していったくらいだ。


あとは飲み薬が4つ出た。抗生剤と血圧を抑える薬らしい。朝に1回飲むとのこと。


夜勤の男看護師と交代で日中の担当をするという女看護師が血圧他を測りにやってくる。

小柄で若い女性の看護師である。……と記憶しているが、複数の看護師のお世話になっており、彼女が担当としてやってきていたが、サポートで来ていたかは記憶が曖昧である。

血圧等を測りに来る人がその日の担当の人であるということは後日になって理解したのであるが、この頃は担当以外の人にも世話になる機会が多い。


肺炎おじさんはちょうど小便がしたかったのでその女看護師に相談する。管が多くて勝手に動いていいか分からなかったのである。

もしまたカテーテルを刺されたらどうしようと少し怖かったが漏らすわけにはいかない。


結果として女看護師に付き添ってもらいトイレの行き方と使い方を相談して用を足した。

まず鼻酸素のチューブが短くてトイレに届かなかったので、延長してもらいベットの左側に延長分を置いてもらった。

ベッドの右側に点滴台があるため(右腕に点滴しているためと思われる)、右側からベットを降り、自前のサンダルを履いて、心電図の小型機械を左手に持って右手で点滴台を移動させてぐるりと迂回して左側にあるトイレを目指す。

途中で鼻酸素のチューブが引っかからないように注意しながら延長分を引っ張る。


肺炎おじさんは初めてのトイレ移動でイッパイイッパイだったので女看護師がトイレのドアを開けたり電気をつけたり、ベッドに引っかかった鼻酸素のチューブを解いたりしてくれた。


肺炎おじさんは小型心電図から伸びて指についているクリップもトイレの邪魔だと思ったので女看護師に相談する。


「トイレの間邪魔だったら外していいですよー。後で付けてくださいね。」

と返事があったので洗面台の脇にあまりスベースはないがそこに小型心電図ごと置く。


小型心電図の細かい線は肺炎おじさんのお腹につながっているため、トイレに本体が引っ張られて落ちないか不安だった。

実はこの小型心電図は網目状の糸の袋に入っていてその袋には首掛け用の紐があったのだが、咳と痰で疲れており、周りをごちゃごちゃした線で囲まれながら初トイレをする肺炎おじさんには気づく余裕がなかった。


なんとか小便を終えた肺炎おじさんは手洗い所と手拭きペーパーの位置も把握してトイレを出る。


管に気をつけながらベッドに戻るが、鼻酸素のチューブをお尻で踏んでしまっていたようで女看護師さんに直してもらう。

最後に指にクリップを付けて終わりだ。


「この胸に付けてる線は心電図の線ですよね?指につけてるクリップも心電図用の線なんですか?」

肺炎おじさんは何気ない質問を行う。


「これはパルスオキシメーターですねー。コロナで一時有名になったんですが聞いたことありませんか?」


「ああ、あの90ないと呼吸ヤバいってやつですね。実物見たのは初めてです。」

肺炎おじさんは納得した。たしかにこういう形だった気がする。指を挟むというのも言われるとそういう使い方だった気がする。

つまりこの小型心電図は心電図に加えてパルスオキシメーターの役割もできるということだ。


肺炎おじさんは一人ゴホゴホと納得していたが、自身の血中酸素濃度が90落ちる手前であることに気づいていない。


トイレから戻って少し経つと黒い上着(ジャージ生地のようにも見える)を着た女性が病室に入ってきた。


「主治医として担当をさせてもらう循環器内科の✕✕です。よろしくおねがいします。」

どうやら彼女が肺炎おじさんの主治医のようだ。


主治医という言葉から想像するイメージより数段若く、笑顔で話しかけてくる美人の女医さんと言ったところである。

美人の女医さんに見てもらえるとは物語の中のお話のようで本来ありがたいことだが、女医さんが自己紹介している間もゴホゴホしている肺炎おじさんにはそんなことで喜んでいる余裕はなかった。


「肺炎は採血で有効な抗生剤を調べて治療していきます。肺炎とは別に心臓に不調が起きている可能性が高いので平行してそれも調べて行きますね。」

昨夜の救急の医師も言っていたが心臓が怪しいらしい。肺炎おじさんは今回の入院まで心臓が悪いとは考えたこともなかったのでこの話には軽くショックを受けている。


「私たちは心臓の動きが悪くなっているので、心不全を疑っているのだけども、まずは心臓の形や動きを確認したいので、今日の午後に心臓エコーという検査を入れたので受けて下さい。」

女医さんは笑顔で説明する。

安心感を与える笑顔であり、相手が若い男であれば喜んだことだろう。


「わかりました。よろしくおねがいします。」

しかし咳と痰で地獄に落ちている肺炎おじさんはなんとか返事しなきゃと考えるのでいっぱいいっぱいであった。


女医さんは顔合わせと説明を終えて病室を出ていった。


肺炎おじさんは鼻酸素の供給量が増えたことと午前中になったことで咳と痰の回数がやっと減った。

しかし鼻酸素チューブをつけていると常に酸素が送られてくるせいか鼻も口の中もカラカラになりやすい。

意外なことにこの状態だと鼻酸素を使った呼吸がとてもしやすく口呼吸に頼る回数が減っていた。

咳の回数も昨日より減っている気がする。痰は変わらず出ているが吐く回数が減っている気がする。


───口も喉もカラカラだけどお茶飲まない方が楽なのかなぁ?点滴あるから飲まなくても死なないと思うけどこのカラカラはカラカラで辛い。


肺炎おじさんは飲み物を飲むことを我慢するかどうか悩んだ。

悩んでいると肺炎おじさんは自然と欠伸が出た。欠伸が出る間はなぜか鼻酸素の供給のシューッが明確に感じられ、息ができている気がした。また欠伸をしてシューッと音が耳に響くと眠気を実感できた。

欠伸してたら逆に寝れるかも?肺炎おじさんはそんな風にうとうとと考えていると一時間半ほど寝れた。

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