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一日目④ 「ああ、明るくなってきた……」編

肺炎おじさんは痰が止まらない。

汚い言い方だが痰に溺れる。痰を捨てないと自分の口も喉も下手すると胃も痰で埋まって死にそうなくらい肺炎おじさんは痰が止まらない。


困るのはそれだけではない。まず鼻で呼吸ができないのだ。鼻で呼吸しても満足な呼吸はできず、口で大きく息を吸い込んで飲み込む。ここまでしてやっと息をした実感ができる。

つまり口呼吸をしないと呼吸が止まるのだ。しかし口には痰がたまるし咳が出てむせる時もある。だからもう痰を捨て続けて意識して口呼吸をする流れになっていた。

それが昨日、いやここ一週間前明け方まで寝れなかった理由である。

しかもこれらの痰は血混じりであり、今も肺炎おじさんが吐いた痰の多くは薄い赤、ピンク色に近い。


もっとも大病院に来てよくなったこともある。鼻酸素のおかげで呼吸が少し楽になったのだ。

相変わらず鼻から呼吸できている気はしないのだが口呼吸する頻度は減っている。


肺炎おじさんは咳により喉が乾いたため届けてもらった飲み物を飲む。

1つ前の病院を訪れた際、肺炎おじさんは蓋付きマイマグカップ(ハリネズミ柄)を車内に持ってきていた。このマグカップを財布やサンダルといっしょに私物として大病院に持ち込んでいたので、マグカップにお茶を入れて飲んだ。

大病院に移動すると決まった時点で一度ラインしたからか、届けてもらったお茶は半分凍っており、冷たくてありがたかった。


消灯時間は既に過ぎているのであとは寝るだけだが、おじさんは寝たら呼吸できなくて死にそうだと思い、とにかく咳と痰が収まるまで耐えることにした。

しかしその日、肺炎おじさんの咳と痰が収まることはなかった。


使い終わった抗生剤の点滴を外す看護師、通常の点滴のチェックをする看護師、夜中の見回りをする看護師、肺炎おじさんにライトの光を当ててきたせいで眩しかった看護師、肺炎おじさんはゴホゴホしながらすべての看護師さんを見送る。


疲れと微熱と息苦しさで肺炎おじさんは変な妄想を見始めてしまう。

高熱になったことのある人は分かると思うがここでいう妄想とは幻覚のように変なものが見えたり、変なことを頭に思いついたり、前後のつながってない展開が脳内で流れて勝手に一人で納得すると言った類のものである。

具体的に言うと正義の騎士団の抗生物質さんが悪の細菌たちを倒しに来てくれているという謎の物語が頭に広がっており、肺炎おじさんはがんばれ抗生物質さん!と小声で言っていた……。

さらにそこから妄想の物語が進むとなぜか細菌を奉る邪教徒が出てきてその邪教徒の中に妹(リアルな妹の姿とは全く異なり、知り合いにも似てない人で物語の設定上の主人公の妹のようなものだと思う)がいたため、「おいおい、妹よ、その宗教ヤバいって!細菌の味方してたなんて知られたら殺されるぞ!」とか心の中でツッコんでいた。


完全に狂人の領域であるが、肺炎おじさんは自分で考えてそういう妄想をしているのではない。そういう変な物語が頭に次々と浮かんでくるため、痰を吐き捨てながら見せられた妄想に心の中でツッコむという不思議な状態になっていた。

最後に測った熱は37.5度だったが深夜にはもっと熱が高くなっていたのかもしれない。


夜が明けて肺炎おじさんは「ああ、明るくなってきた……。」とつぶやく。

ベットの横のゴミ箱には大量のティッシュが捨ててあり、あふれている。

肺炎おじさんは経験上、明け方になると寝れていたのでその頃には咳と痰がマシになると思っていたが、まだ収まる気配はなかった。


いつもよりも熱が出ているし、咳と痰も酷いので今日は寝れないかもしれない。それどころか入院してなかったら鼻酸素がない分、家で死んでしまっていたかもしれない。

今まで肺炎おじさんは咳と痰が酷いだけで自身は軽症だと思っていたが、日に日に症状が重くなっており、昨日は耐えられないくらいの症状だったのかもしれないと考えた。


こうして肺炎おじさんの入院生活一日目が終わった。

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