十日目② 「夜も1粒飲むことになりました」編
肺炎おじさんは浣腸が回避できて心からホッとしていたが、男看護師の本題は浣腸ではなかったようだ。
「では四人部屋のベッドが空いたので移動しましょう。この台に荷物乗せます。」
男看護師は話題を変える。とうとう移動のようだ。
肺炎おじさんと男看護師は手分けして荷物を台に乗せる。
ロッカーの中の荷物は男看護師に任せて、肺炎おじさんはスマホや財布など貴重品を乗せて忘れ物がないかテレビ台の周りを確認する。
「リハビリで歩く距離より短いので歩きますね。マスクを忘れないでくださいねえ。」
男看護師はそう言って台を押す。
この台は小さな車輪がついており、普段は看護師たちがパソコンと必要な道具を載せている台である。
そして個室から四人部屋に移動した。
四人部屋は個室に比べるとベッドの周りに物を置くスペースが少ないので、男看護師と相談して配置を考えた。
結果としてスマホやタブレットやティッシュは枕の左右に置きっぱなしにすることとなった。
また、これまでは食事をする際はベッドの上に台を置いてもらって食事をしていたが、鼻酸素のチューブがなくなり、点滴も抗生剤だけとなり、抗生剤の点滴の時間と食事の時間は被らないので、テレビ台に付いている食事台を引き出してテーブル代わりにすることとなった。
点滴などが少なく、気軽に歩ける人はこうすることが多いらしい。
四人部屋は既に二人が入院している状況だったが両方のベッドがカーテンに完全に覆われており、自分のベッドもカーテンで覆ってもらう。
確かにこれだと他の患者と話す機会は少なそうだ。肺炎おじさんは知らない方と長々と雑談するのは好みではないのでプライベートが守られるのはありがたい。
そうしてベッドに寝転がっていると隣の患者がテレビをつける。大音量ではないが自分にはっきりと聞こえる程度には大きい音だ。
病院のパンフレットにはテレビを付けるときはイヤホンを使うことが推奨されていたが、使う様子は見られない。
───まあ日中なので文句を言うほどでもないだろう。
肺炎おじさんはそう思ってスマホを触る。肺炎おじさんのスマホは基本音を消してあり、音を出したいときのためにイヤホンも持ち込んでいる。
15時頃にリハビリ担当の女性が来る。どうも検査はまだのようだ。
「今日は100メートル歩きましょう。」
リハビリ担当の女性がそう言うので肺炎おじさんは頷く。
30メートル程歩いたところでリハビリ担当の女性は窓に近づく。
「ここで少しストレッチをしましょう。」
そう言いながら窓の手すりに手を置く。
アキレス腱を伸ばし、足を開いて膝に手を乗せて伸ばし、つま先立ちをして、スクワットをしてストレッチ&運動が終わった。各10秒 or 10回である。
少し休憩して再び歩き、病室に戻る。
夕方になってガリウムシンチグラフィの検査に呼ばれる。
まだ車椅子で移動するようで、今回は新人の女看護師が連れて行ってくれるようだ。
核検査室まで無事辿り着く。今回はエレベーターで引っかかることもなかったのでよかった。
金属を持ってないことを口頭で確認して、さらに医師(技師?)が手で持った機械でチェックする。
チェックが終わると核検査室の検査台のようなベッドに横になる。MRIほどではないが大きな機械がベッドの近くにある。
機械が被さり、15分程かけて検査を行う。
思ったよりも短い検査時間でMRIのようにうるさいということもなかった。
「はい、終わりですー。お疲れさまでした。」
核検査室の医師がそういうので肺炎おじさんはお礼をいう。
新人の女看護師が来るまでガリウムシンチグラフィの検査でなにが分かるのかなどを聞く。
もっとも注射の時に同じことを聞いているので、ほぼ間をつなぐための雑談である。
新人の女看護師が来たので病室に戻る。
病室に戻ると家族から飲み物の差し入れが届いていた。再び半分凍ったレモネードが入っていてありがたい。
夜の食事の時間になると食事の途中で夜勤の女看護師が飲み薬を持ってくる。
「朝に飲んでいる薬の1つですが、夜も1粒飲むことになりました。血圧を下げる薬です。」
肺炎おじさんは頷いて薬を受け取る。食事を終えた後に忘れずに飲む。
夕方の検査を終えてから消灯の間に隣の患者からは様々な音が聴こえてくる。
テレビの音、ネット配信と思われる番組の音、ゲーム音……などなど。
肺炎おじさんはテレビを使っていないので詳細はわからないが、おそらくテレビだけではなく、スマホでネット配信を見たり、ゲームをやったりしているのだろう。
まだ消灯前なので文句はないが、本音を言えば音を落として欲しいところである。
また隣からはせんべいが何かをバリバリ食べる音も聞こえる。
肺炎はおじさんはそこまでせんべいが好きなわけではないが、食事制限で減塩ご飯を食べている身としては羨ましい話である。
ちなみに同室の患者はもう一人いるがそちらの方は特に音を出してはいない。
消灯の時間が近づいたところで最後の抗生剤の時間が来る。
四人部屋は消灯で明かりが消えるので、個室の頃よりも抗生剤の開始が早かった。
※ 消灯時間が来てもベッドに個別の明かりがあるのでスマホをいじるくらいはできる。
抗生剤の点滴が終わり、右手の点滴の針を外してもらう。これで点滴の管はゼロになった。
点滴担当の看護師に氷枕を貰う。
肺炎おじさんは1時間半ほど小説を書いてから眠った。
隣の患者はその少し前にテレビやスマホを消して眠ったようだ。




