一日目② 「先程取った血は固まってしまった」編
MR検査が終わったあと、肺炎おじさんはしばらく待機となっていた。
そこに若い男看護師が話しかけてきた。
「もう2本採血を取ってもいいですか?先程取った血は固まってしまったらしくて。」
なかなか物騒な話である。
「もちろん構わないですけど、血が固まるってことは余程血がドロドロしているってことなのでしょうか?」
「うーん。どうなんでしょうねえ。じゃあ採血しますね。念の為左手にも点滴のルート作りたいので、今度は左手からやります。」
はぐらかされたのか、血液が固まる理由がはっきりしていないのか、若い男看護師はそう言った。そして何度も消毒して採血を行った。
先程も今回も消毒には先端にピンクの綿がついたような棒が使われており、他の注射では見ない消毒方法だった。
肺炎おじさんが気になったので若い男看護師に聞くと、棒はコロナ対応用の道具で、採血の際に何度も消毒しているのはここが救急であるためであり、コロナ対応の一環として行っているらしい。「普通の採血ではこんなに消毒しません。」とのことだった。
こんな地味なところでまで医療従事者の負担が増えているとは恐ろしい話である。
しかしコロナ対応をやめて医療従事者が感染したらどれだけ悲惨なことになるかは少し考えたら分かるため、頑張っていただくしかない。
「じゃあ後は尿検査ですね。」
若い男看護師が言う。
「ああ、小便ですね。行けそうな気がします。行きますか!」
肺炎おじさんは自分で行く気満々だったのだが……。
「救急室の医師が言うには動かさない方がいいらしいのでカテーテルを使いましょう。」
カテーテル!?「動かさない方がいい」も少し気になるワードであったが肺炎おじさんは突然のカテーテルチャレンジに衝撃を受けた。
───尿道に刺すんだよね。ヤバい。少し怖い。刺したまま出るまで放置するとかだと色々辛い。
と肺炎おじさんが考えていると……。
「じゃ行きますねー。少し痛いですよー。」
!?
中学生高校生ならばいざ知らず、30代のおじさんがこのコロナ下で慌ただしく働いている医療従事者にカテーテルつけたくないです(泣)!!なんてごねるわけにはいかない。
「はい。お願いします。」
プスッ。そして肺炎おじさんはカテーテルを初体験した。
驚いたのは入れたらすぐに勝手に小便が出たことだ。最後は抜いたあと少し漏れて布か消毒シートで拭かれた。
───すごいな。勝手に出るんだな。あとやっぱり少し痛いんだな。うん。次の機会はないことを祈ろう。
「これで全ての検査は終わったのですが、PCR検査が終わらないと部屋を決めれないのでしばらくお待ち下さい。」
若い男看護師はそう言って去っていった。
少し経つと今度は小柄だが若い男が近づいてくる。青い服(ジャージ?)を着ていて看護師とは違う恰好をしており、本人によると本日の救急室担当の医師だという。
「肺炎に加えて心臓の調子が悪い懸念があります。まずは採血の分析結果に合わせて抗生剤を打って肺炎の治療を進めます。様子を見て心臓の調査もすると思います。本格的な話は後で会う主治医の先生にしてもらってください。」
救急担当の男医師はそう説明するとお大事にーと言って去っていった。
心臓の調子が悪い懸念とは何だろうか。確かに先日ラーメンを食べに近くの店に自転車で行ったら息切れが辛かったがそういう話だろうか。
肺炎おじさんは考えても仕方ないのでとりあえず肺炎を治すしかないなと割り切った。
検査ごとの待機時間がそこそこ長くてこの時点で大病院についてから1時間以上経っていたと思う。
肺炎おじさんはそこから40分ほど待つことになる。
「〇〇さんの✕✕の結果届きました。陰性です。」
「後は院内PCRですね。」
救急室の医師や若い男看護師を含めた数人が相談している。
〇〇さんとは肺炎おじさんのことである。肺炎おじさんは放置場所が電話の近く、
つまり救急室のスタッフ待機室(?)の近くであり、部屋の前で行われる相談が大体聞こえるのである。
部屋の前には移動式の台が置いてあって肺炎おじさんを含めて4〜5人の患者の資料が集めてあるようだった。
「院内PCR陰性です。」
しばらくしてスタッフ待機室(?)から女看護師が紙を持って報告に来る。
「コロナは陰性でした。部屋を探すのでしばらくお待ち下さい。」
若い男看護師が肺炎おじさんに告げる。実は女看護師の声の時点で分かっていたが「はい。よかったです。」と返す。
そこから部屋を探して準備するのにそこそこ時間が掛かる。「他の病室が空いてないため、追加料金の掛かる個室でいいですか?」などの確認も受ける。
「じゃあ移動しますね〜。」
救急室のおばちゃん看護師がそう言って肺炎おじさんを担架ごと動かす。
肺炎おじさんは世話になった若い男看護師に個別にお礼を言いたかったが、既に次の患者の対応をしているのか、周りにいるのかも分からなかった。
肺炎おじさんは咳が酷かったので小さな声で周りの看護師に向けて「ありがとうございました!」と言った。