七日目 「まあ稀にあっちゃいますね」編
七日目
7月31日日曜日。朝方、自然と目が覚める。
そのままベットでまどろんでいると抗生剤の看護師と熱、血圧、血中酸素濃度を測る看護師がやってくる。
朝の熱は36.5度と平熱だった。
───熱は上がったり下がったりコロコロ変わって安定しないなあ。
朝の食事には生姜と醤油に漬けた焼き魚が出てきて美味しくいただけた。
西京焼きに続いて美味しい魚料理が出てなによりである。
9時過ぎに再び熱、血圧、血中酸素濃度を測ると熱が37.5度と上がっていた。
一度36度台まで落ちたことを考えると昨日より低い傾向にあると思うが、どうも安定しない。
女医がやってきて体調を確認する。
治療に関する話は昨日話したことのおさらいとなった。
女医は昨日(土曜)も今日(日曜)も来たが休みは取られてないんだろうか。
少なくとも日曜は救急以外の科はお休みのはずなので、もし自分のために来ているのであれば申し訳がない。
女医が去った後は着替えとタオルを貰って体拭きをする。
「自分で拭けますねー?使ったタオルは後で取りに来ますんで。」
他の看護師と違って「背中拭きますね。」とは言わず、着替えとタオルを置いて去っていったのは昨日のフランクな女看護師である。
───背中拭いて欲しかったけどさっさと出て行ってしまった……。まあ仕方ないか。咳も治ってきたしな。
肺炎おじさんは自力で体を拭く。背中は拭きづらかったが他は問題ない。
前回のように突然咳でむせることもない。
肺炎おじさんは体を拭きながらふと思う。
───あれ!?あの人、昨日夜勤じゃなかった???
普通夜勤明けは休みをもらえるはずである。
これだと休みどころか連勤になってしまうがそんなことあるのだろうか。
昨日は顔をじっくり見たわけではないので、昨日口論した人と今日背中を拭いてくれなかった人は似ている別の人なのかもしれない。
しかし、背丈も声もフランクな話し方も一緒に感じる。
似た顔の美人が二人いるとも思えない。
もしかすると過酷な病院勤務の闇を見てしまったのだろうか。
本人に聞くわけにもいかず、肺炎おじさんは考えるのをやめた。
フランクな女看護師が着替え終わった患者服と使い終わったタオルを回収する。
その際に肺炎おじさんは「水曜日に髪を洗った後、洗ってないので今日洗えますか?」と尋ねる。
「じゃあ午後で。」
フランクな女看護師の返事はこうだった。
その後は昼の食事までのんびり過ごす。
そしたら午前のリハビリを忘れたので午後多めにすることにした。
女医の宣言通り、通常の点滴が終わる。
もっともニトログリセリンと抗生剤があるので腕から針が取れるわけではない。
午後14時頃にフランクな女看護師が車椅子を持って来る。洗髪の時間のようだ。
「自分で髪洗えますー?」
フランクな女看護師の第一声はこうであった。
体拭きもそうであったが、フランクな女看護師はあまり肺炎おじさんの身体に触れたくないのかもしれない。
まあ汚いおじさんの身体なので若い女性には抵抗があるのかもしれない。
あるいは昨日の口論が気に入らないから塩対応の可能性もある。
よい風に捉えれば患者の体調が良くなってきた分、自力でできることを増やしたいのかもしれない。
「できれば洗ってほしいんですけど大丈夫です?」
肺炎おじさんがそう言うと少し間を置いて「はーい。」と返ってきた。
肺炎おじさんは車椅子に乗って洗髪室に行く。
結論から言うと髪はとても丁寧に洗ってもらうことが出来た。
肺炎おじさんは「この看護師さんはルールに厳しそうな印象がある分、根が真面目なんだろうな。」と思った。
「ありがとうございました。とてもスッキリしました。」
「はーい。」
こうして病室に戻った。
「〇〇さん(肺炎おじさんの名前)、昨日酸素の供給減らしましたけど、呼吸は大丈夫ですかー?」
フランクな女看護師が点滴や鼻酸素のチューブを車椅子から病室の設備に戻しながら聞く。
───あれ?酸素の供給を下げたのは長身の女看護師さんだったような……。
「呼吸は特に困ってないです。確か酸素の供給を減らしてくれたのは他の看護師さんだったような?」
肺炎おじさんは疑問に思ったことをそのまま言う。
「ああ、患者さんになにがあったかって情報はパソコンに入力してあるんですっ。」
フランクな女看護師は答える。
「ああ、そうなんですね。まるで自分で減らしたかのような言い方だったので自分の記憶違いかと思いました。それだと日勤と夜勤が連続してしまうから違いますよね。はははは。」
「酸素の供給を減らしたのは私じゃないですよー。それはそれで夜勤が続いたり、日勤と夜勤が連続することもまあ稀にあっちゃいますね。」
フランクな女看護師はさらっと恐ろしいことを言う。
───もしかしてリアルタイムなお話しされてます?
「それは大変ですね。お疲れさまです。」
肺炎おじさんはそれ以上突っ込んだ質問をしてはいけない気がした。
その後、一人になった肺炎おじさんはモンストをする。
日曜だけ合って予定がない日なのでジョジョの追加超究極に挑戦するがやはり勝てない。
ネットで調べるとアンチアビが完全適正ではないキャラが強いという声が多かったので、そのキャラを入れて再挑戦する。
電話イベントの24時間待機は短縮する方法があるので、何度も挑戦しているとやっと勝つことが出来た。
───おおー。勝てた。今回は駄目かと思った。
ゴホゴホ。スマホを触りすぎたのか咳き込む。乾いた喉にお茶を流し込む。
長くプレイしてしまったが、今日は日曜なのでまあよいだろう。
夜の食事には焼いたチキンにマスタードとマヨネーズを混ぜたソースが掛かった料理が出る。
珍しい料理だが美味しかった。
消灯の前に熱、血圧、血中酸素濃度を測ると熱は37.2度であった。やはり昨日に比べると低い。
その代わり、咳と痰が昨日より出る。
───もしかして熱が下がったのは肝臓にダメージ与える抗生剤やめたからかなあ?でもそのせいで咳がまた出るようになったんだったりして。
肺炎おじさんは自分なりに考えてみるが答えは出ない。
氷枕を貰って少し小説を書いて寝る。
この小説は4日目くらいから少しずつ書いている。他の予定があって書けない日もその日にあったことをメモしている。
今日も夜中に一度目が覚めるがその後はぐっすり寝れた。