三日目② 「もう一つ持ってきましょうか?」編
胃がタプタプで気持ち悪い事件の後は熱がある以外は昼間ということもあって苦しまずに過ごせた。
抗生剤の点滴を打つまでの間に1時間ほど寝れた気もする。
さてその抗生剤の点滴であるが、抗生剤を持ってきた女看護師が肺炎おじさんの腕を改めてチェックしている。
「うーん?左手にも点滴のルートがありますねえ。」
「救急室の看護師に念の為と言われて採血のついでに付けられました。」
肺炎おじさんは答える。
「じゃあ、ちょうどいいからこれを使おうかな。今から使う抗生剤は通常の点滴とは混ぜてはいけないものなのです。今後は今まで使ってた抗生剤に加えてこれも使っていきます。」
女看護師はそう言うと点滴台をもう一つ持ってきてベッドの左側に置き、抗生剤を付けた。
両手に点滴の管が付き、胸には心電図があり、鼻には酸素を供給するチューブがある。
───これだけ見ればまるで重症患者だな。
肺炎おじさんはゴホゴホと咳き込みながら笑った。
1時間が経つ。
「両手に点滴があるとトイレや移動が大変そうなので、左手のルートは取っちゃいますね。次この抗生剤が来たら右手に新しいルートを作ってもらおう。それでいいですか?」
無事抗生剤の点滴を終えて女看護師が提案する。
「はい、トイレ不便そうなのでそれでお願いします。」
肺炎おじさんは了承して左手の点滴のルートを取ってもらう。
女看護師が病室を出て、昨日からの薬の投与で多少呼吸に余裕が出てきた肺炎おじさんはスマホをいじる。
───よし。原神のデイリーとモンストのオラオララッシュクエだけやっておこう。
肺炎おじさんは2日振りにソシャゲを遊んだが、希望する短い時間のプレイでも疲れたので気をつけようと思ったのであった。
その後は咳と痰を出しながらも初日よりは楽になった状態で時間が過ぎていく。
夜になって3回目の抗生剤を入れる際に点滴の女看護師とは別に女看護師が来て熱と血圧と血中酸素濃度を測る。昨日のおばちゃん看護師である。
「血圧は143まで下がったけどまだ高いですね。先生は140以下で安定するようにしたいらしいのて、ニトログリセリンの速度をあげますね。これは心臓の水を尿に変えるだけでなく、血圧を下げる効果があります。4から6にします。」
おばちゃん看護師はそう言って点滴台の機械をいじる。
「あとは熱が高いですね。38度を超えてます。解熱剤飲みました?」
おばちゃん看護師は熱に触れる。
「今日は飲んでないです。」
「じゃあ持ってきますね。」
「氷枕も貰っていいですか?」
「はーい。持ってきますね。」
こうして肺炎おじさんは解熱剤を飲み、氷枕をもらった。
───今日も空調切れたら暑くなりそうだけど寝れるかなあ。
氷枕が最初からあるので首周りが冷えて気持ちがよい。
しかし消灯時間が過ぎて空調が弱くなった頃、肺炎おじさんは暑くなりやはり眠れなくなった。
※空調は切れていると言ってもいい状況だが弱くなったとどちらが正しいのか、正確なところは分からない。
熱の暑さによる妄想も始まってしまう。肺炎の残党を狩る抗生剤騎士団の戦いといったところだ。
咳と痰が減ったことの影響だろうか、妄想の設定にも肺炎おじさんの状況が反映されているのは面白いところである。
夜中になって見回りの男看護師が顔を覗いてくる。
肺炎おじさんは寝れていなかったので目を開けていた。
「あー、眠れませんかー?」
少し野暮ったい話し方と手に持ったライトを見ると初日に目にライトを当ててきた彼であろう。
最初の印象こそあまり良くなかったが、鼻酸素の供給を増やしてくれた彼である。
「暑くてなかなか眠れませんでして。」
「うーーーん、氷枕変えましょうか?それともう一つ持ってきましょうか?」
男看護師は肺炎おじさんが想像してなかった提案をする。
「もう一つ?」
「ええ、脇を冷やすとよいかなと。」
確かに熱が下がらない時は脇を冷やすといいとは聞く。
氷枕が2つもらえるとは思わなかったので脇を冷やすとは考えてもいなかった。
「じゃあ貰ってもいいですか?頭の氷枕も交換お願いします。」
男看護師は使用済みの氷枕を受け取ると病室を出て、数分して戻ってきた。
「頭の氷枕はこれ。脇はどっちに置きます?」
「右手は点滴多いから左手かなあ?」
肺炎おじさんがそう言うと左手に氷枕が差し込まれる。
これはかなり冷やされていいかもしれない。
「大分冷やされてきた気がします。ありがとうございました。」
肺炎おじさんはお礼を言って男看護師を見送った。
彼の提案は結構助かることが多い気がする。ありがたいことだ。
肺炎おじさんは気持ちよく冷えるように頭や腕を動かして冷やす場所を変えていく。大分冷えてきて暑さも減った気がした。
「ふああああああ。」
肺炎おじさんは欠伸をする。少し眠気が出てきたようだ。
咳と痰も出るには出るが寝たら呼吸が止まる量ではない。
───やっと寝れるかな?
しかしまだまだ熱が収まらず、肺炎おじさんが寝れたのは朝方になってからだった。