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入れ替り  作者: はるあき/東西
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6. 最後の攻略対象者 後編

残酷な表現あり。

「何も殺さなくてもよかったんじゃないか?」


 この世界はゲームの世界に酷似しているだけでゲームの世界じゃないんだからさー。


「はあ! あいつが死ななきゃ、ルーク様のルートが開かないじゃない!」


 それこそ、はあ? なんだけど。

 お前のためにルークが、この世界の人間がいるんじゃない。


「お前、七回生きているっていったよな?」

「ええ、今回で八回目よ。今度こそ、て思っていたのに」


 ボサボサの髪に血走った目、イライラと爪を噛む姿。悪鬼って、こんな感じなんだろうか?


「悪役令嬢が死んだら、また戻るのか?」


 なら、コイツを殺せない。またゲームのスタートまで戻ってしまったら最悪だ。ルーク(おれ)のルートはもう開いている。

 いや、ちょっと待てよ、そういえば………。


「違うわよ。ちゃんと一生を終えるわ。まあ、一回目(さいしょ)は無難に王道カイセルを選んだわ。王妃となって子供を生んで幸せな家庭を築いたのよ。成人した子供夫婦に早めに王位を譲って悠々自適な隠居生活をしていて、もうそろそろ死ぬんだなーて時にふと思ったの」


 あっ、きっと碌なことじゃない。


「どうせならルーク様と結ばれたかった! て。カイセルとの結婚式だけ参加したルーク様はやっぱり格好よくて。カイセルを選んだのを何度後悔したか……」


 やっぱり碌でもないことだった。寒気に体が震える。ルークハンドはそのルートに入るかカイセルの結婚式にしか姿を現さない。レア度の高い隠しキャラだ。


「そしたら、ゲームが始まる直前に戻ってて。戻るって分かったら、もうルーク様を狙うしかないでしょ」


 いや、それは違うと思う。たぶん戻ったのもお前のためじゃないと思う。うまく説明できないけど。

 で、ルーク・ルートを開くためにゲームと同じであと五回エルサを攻略対象者に殺させた。エゲツねぇ。本当に鬼だな、コイツ。


「なあ、知ってるか? あのゲーム、裏技があるって話」

「あー、なんかそんな話、出てたわね。けど、誰も成功したって聞いてないわ」


『浩一! これの裏技、試すわよ。エルサ救済ルートが開くらしいの』


 姉ちゃんが仕入れてきた情報。難易度が高過ぎて成功した者が誰もいなかった。姉ちゃんも俺も色んなサイトを覗いて攻略法を探したけど見つからなかった。


『エルサがね、攻略対象者じゃない人に殺されたらルートが開くのに』

(攻略対象者に依頼されて殺されたのは該当しない)

『ガセじゃないか、誰も成功してないし。それに殺されたら開くって、どんだけ鬼畜なんだ、このゲーム』

『そうよね。けど、エルサも幸せになってほしいなー。エルサだけが悪いんじゃないもん』


「七回目、エルサは攻略対象者じゃないものに殺された。()()()()()している」


 目の前で呆けた顔があった。が、一瞬で笑い出す。


「自死よ、自死。自殺が裏技なんて。それにその後、私、散々な目にあったんだから」


 そりゃそうだろう。公爵令嬢が人前で自死するまで追い込まれたとなると色々と調査されただろうな。冤罪もバレたはずだ。だが、コイツは癒しの力があるから神殿で監禁されただけですんだはずだ。国に恵みをもたらす癒しの力を持つ者を殺すようなことはしないから。


「けど、エルサは攻略対象者じゃない。ゲームだったら、エルサ救済ルートが開いたってことだ」


「で、でも今はエルサは私よ。なら、私が幸せになっているはずよ!」


 中身が違うだろ。救済されるべきはお前に七回も殺されたエルサの方だ。


「たぶん、もう悪役令嬢(エルサ)になりたくなくて、この世界で一番幸せになれそうな者に……」


 救済なんだから、確実に幸せになれる者になったはずだ。マーラはバッドエンドでも癒しの力がある限り大切にされる存在だから。


 ああ、だから俺は〇〇〇に惹かれたんだ。ゲームのマーラはよくいる乙女ゲームのヒロインで惹かれる要素なんて一つもなかった。悪役令嬢(エルサ)だった時の孤独と気品を今の〇〇〇は持っている。その孤独を俺が埋めたいと思った。俺が癒し、癒してやると。


 よし、聞きたいことも聞いたし、戻るとするか。俺も可愛い〇〇〇に会いたくなってきたし。


「ちょっと、何してるのよ!」

「えっ、戻るんだよ。こんな所、長居したくないし」

「なんで! なんでルーク様のくせに私を助けないのよ!」


 なんでお前を助けなきゃいけないんだよ。


「ルーク様なんでしょう。私を助けるべきなのよ! 私が一番ルーク様を愛しているんだから」


 いや、お前が愛したのはお前がしていたゲームのルークだし、俺じゃないから。

 それに俺はお前の愛なんてお断りだし。


「ゲームでルークとエルサが結ばれたか?」


 コイツはグッと黙りこんだ。そんなルートは存在しなかったよな。ゲームに拘ったんなら最後までゲームに拘れよ。都合のよい時だけゲームから脱線しようなんて、ほんといい性格していやがる。


「けど、ラノベなんかでは悪役令嬢救済の話は多いじゃない」

「悪役を止めて、断罪を回避しようとしてたからな。お前はどうだ?」


 救済された悪役令嬢たちは断罪されないように努力していただろうが。それこそ二回目からのエルサのように。


「でも、でも、でも」


 さすが悪役令嬢、諦めない。


「この世界、ゲームと違っていたところあるんだから、悪役令嬢(わたし)の扱いが違ってもいいじゃない」


 ほんとにお前がそれを言う? 違っているの分かっててゲームに拘り、ゲーム通りに進めたのはお前だろう。


「だから、違うようになっただろ。ゲームではエルサが直接マーラ嬢に手を下すことはなかった。今お前がここにいるのはその行動の結果だ」


 そう、あのパーティーでエルサの断罪は行われ、庭で〇〇〇が襲われるようなことはゲームにはなかった。襲わなきゃ〇〇〇の恩情で修道院か領地に幽閉になっていたんじゃないか? ゲームのように処刑されることにはならなかった。


「違う、私のせいじゃない。悪いのはアイツよ!」


 鉄格子を激しく揺らしながら、悪鬼が叫ぶ。金切声と金属音でさすがに耳が痛くなってきた。


「いや、お前だろ。ゲームに拘ってエルサを殺し続けたお前が悪い」

「違う、私は悪くない!」


 コイツと話していてもキリがない。

 俺はとっととその場から退散した。まだ耳がキンキンしている。もう二度と会うことはないだろう。


 俺は癒しを求めて〇〇〇のいる離宮に足を向けた。

お読みいただき、ありがとうございます。


誤字脱字報告、ありがとうございます。

『ろくでもない』ですが、『陸』を元にしていますが、『碌でもない』でも良いみたいです。この話では『碌』を使いたいと思います。ご指摘、ありがとうございます。

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