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入れ替り  作者: はるあき/東西
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2. 悪役令嬢 後編

残酷な表現あり。

「七度目の今回………、わたくしは何度もお願いしましたわ。カイセル殿下にも父であるタルテハッタ公爵にも」


 そう本当に今までを思い出してからは何度も何度もお願いしました。


「首・背中の痣があること、左腕・右足が上手く動かないこと、火が怖いこと、わたくしに瑕疵があるので婚約はなかったことにして欲しい、と」


 頭の傷は髪で隠れますので入れませんでしたわ。本当は解消理由に入れたかったのですが仕方がありません。

 カイセル殿下がグッと顔をしかめられました。思い出されました? つい最近もお願いにあがりましたよね?


「殿下はわたくしに何と仰いましたか?」

「……」


 ………。そう答えられないのですか。


「礼儀作法にダンス、上手く動かせない左腕と右脚で四苦八苦していたわたくしを見かねた父が陛下に解消を願い出ようとしたのを止められたのはヒルメハ様でしたわね」

「………」


 こちらも答えないのですか。自分がフォローするから大丈夫だと、父に言っておりましたのに。


「それから、カイセル殿下が仰る非道な行為、わたくしはしておりませんわ。何故、する必要があるのでしょう?」


「そ、それは嫉妬で……」


 ニーク様が口をモゴモゴさせながら呟くように言われましたが、婚約解消を望む者が嫉妬などするでしょうか?


 確かにカイセル殿下をお慕いしている時期はありました。今は悲しく恐怖を感じておりますわ。


「一度目もカイセル殿下たちとマーラ様の距離があまりにも近く、男女の仲と噂され始めたためにご注意しただけですわ。聞き入れいただけなかったので苛烈になってしまったのは申し訳ありませんでしたが」


 あの時は国内外にも噂になり、カイセル殿下たちだけではなく癒しの力を持つ女性のイメージも悪くなっていました。未来の王子妃としてどうにかするよう陛下から命じられたのもありました。どの方も聞く耳を持ちませんでしたが。


「二度目と三度目はマーラ様に淑女教育を覚えていただきたかっただけですわ」


 二度目はまだカイセル殿下をお慕いする心が残っていました。淑女教育で学べは男女の距離間も分かっていただけると。

 三度目はマーラ様がマナーを完璧に覚えていていただけたのなら、カイセル殿下と婚約を解消出来るのではないかと希望を持っていましたわ。


「四度目からはこのような左腕になってしまいましたので、私がマーラ様に教えられる立場でもなく……、皆様とは関わらないようにしていたのですが……」


 本当に避けておりましたのに同じようにマーラ様を虐げていると噂されて…。


 火が怖いのに燃え盛る焼却炉にマーラ様の私物を放り込むことが出来るでしょうか? 

 階段も手摺りや壁で体をささえながら使っているのに人を突き落とすなんて出来ますでしょうか?

 よくお考えになったら分かられたのに。


「だが、マーラは貴様に虐められた、と。貴様に色々された、と言ったのだ」


 カイセル殿下が叫ばれました。いつもそのお言葉ですね。マーラ様がそう仰ったからそうなのだ、と。わたくしの言葉は何一つ聞き入れてくださいませんのに。


「証拠は? 証拠はございますの?」


 わたくしの言葉にカイセル殿下は目を泳がせました。これもいつも通り。本当に一人の証言だけで悪と決めてしまうことがどれだけ危険なことか分からないのでしょうか。


「被害者がそう言ったのだ、そうに決まっているだろう」


 ソウント様がイライラしながら言われました。被害者の意見だけが正義となる世界ならわたくしは………。


「疲れましたわ。婚約を解消したいと申し出ても解消されず、破棄を叫ばれるこの状態に」


 本当に誰も何もおかしいと言わないこの状態に。


「ウソを吐くな。お前から婚約を解消するはずがないだろ」


 ハサラ様が忌々しそうに睨んできますわ。わたくしから婚約を解消するはずがないとまだお思いなのですね。


「先日、城で行われたお茶会。王妃様も参加されました。わたくしが婚約を解消したいと書簡を出しておりましたので確認されましたわ」


 とりあえず保留という形になりましたわ。王家としてはわたくしが正妃、マーラ様が側妃または愛妾としたいのでしょう。マーラ様は正妃とするには色々と足りませんから。


「わたくし、本当に疲れましたの」


 わたくしは髪飾りを構えましたわ。この髪飾り、護身用の武器ですの。同色の鞘を外すと刃が現れます。

 ソウント様、何をそんなに驚かれているのですか? こんな物を持っていても何も出来ない、と?


「早まるな、エルサ」


 ヒルメハ様、お兄様と呼べた頃は幸せでしたわ。ヒルメハ様をまだ信じることが出来ましたから。


「顔に傷があれば婚約者に選ばれなかったでしょうか?」


 分かりませんよね、どうなっていたのかは。顔に傷があっても婚約者にされたかもしれませんし。

 だから、わたくしは禁忌を犯します。神殿が許さない最大の罪を背負いましょう。


「本当に疲れたのです」


 私は刃を自分の喉元に当てました。自死は禁忌中の禁忌。神の元には行けません。死後の世界で苦しみ抜いて最後は消えることになります。

 それでよいのです。神の元でもカイセル殿下たちには二度と会いたくありません。わたくしの無実を分かっていながら何もしなかった方々にも。

 苦しんで苦しんで消える方がマシです。


「皆様、ご機嫌よう。さようなら」


 誰かの声が聞こえましたがわたくしは髪飾りを持つ手に力を入れました。手入れを怠っていなかったので切れ味はとてもよいはずです。

 ほら、もう目の前が真っ暗です……。

お読みいただき、ありがとうございます。

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