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0996:ぼけー。

 夜。ぼけーっと子爵邸の自室でここ数日で起こったことを考えていた。


 グリフォンさんの卵さんが孵って数日が経っている。まだ予断は許さないけれど、グリフォンさんの幼体さんたちの毛並みや目付きは確りとしている。グリフォンさんも大丈夫そうだと太鼓判――少し不安であるが――を押してくれたし、外にはポポカさんとエル一家も一緒にいるので、なにかあれば直ぐに声が掛かる。


 幼体さんたちはまだまだ小さいけれど、身体の大きさはポポカさんたちとほぼ変わらない。三十センチほどの大きさで、卵から孵ってからはポポカさんたちと一緒に日向ぼっこをしている。

 ポポカさんたちがポエポエ鳴けば、それに答えるかのように幼体さんたちがピョエピョエ鳴いている姿は可愛いものである。鳴き方のお手本とばかりにグリフォンさんが『ピョエーーー!』と咆哮を上げると、彼らはビビり散らしていた。脅すつもりなどなかったグリフォンさんはしゅんとして暫く落ち込んでいたのだが、今日の朝、ようやく機嫌が元に戻ったようでいつも通りの雰囲気であった。


 グリフォンさんの幼体のご飯はお店から買い付けたワームを美味しそうに食べている。ちなみにポポカさんが一度食べてからグリフォンさんの幼体に口移しという、鳥の習性そのものの行動を見せていた。

 グリフォンさんはその姿を見てやりたそうにしていたが、鳴き方のお手本で学んだのかぐっと堪えていた。母性本能が強くなっているなら自身で育てても良い気がするが、幼体さんたちはポポカさんを親と認識しているようでグリフォンさんが近づくと警戒している。せっかく自分で子育てできる環境にいるのに、それができないのは今まで托卵をしてきた定めであろうか。


 しかし、まあ。


 グリフォンさんの卵さんが孵ったから、次はポポカさんたちが卵を産んでくれれば良いのだが。あと一週間後にはヤーバン王国の国王陛下がミナーヴァ子爵邸にやってくる。


 もちろん、孵ったばかりのグリフォンさんの幼体を愛でるためなのだそうだ。私宛の手紙にグリフォンさんの幼体を愛でたいと力強い綺麗な字で書かれており、断ると絶対に凹むよなと私はアルバトロス上層部に相談をして国家間の転移陣を借りることにしたのだ。話が随分とスムーズだったのでヤーバン王国側からアルバトロス王国にも打診をしていたのだろう。ヤーバン王はちゃっかりしているが、子爵邸の使用人の皆さまは大忙しである。

 

 アストライアー侯爵家が雇った隠密の方々は無事に聖王国へと辿り着いており、情報収集に励んで頂いている。随時連絡が届くようになっているので、聖王国内の様子は私の耳に届いていた。


 ――フィーネさまは部屋に引き籠っているままだそうだ。


 聖王国のフィーネさま派閥の方はリーダーがいなくなったことにより右往左往しており、大聖堂の信者の皆さまにフィーネさまがこなくなったことを訝しがられているのだとか。長期休暇の際はフィーネさまが信者の皆さまに直接『お休みに入ります』と伝えていたので問題にならなかったが、告知なしの突然の出来事に信者の皆さまの不安が広がっているらしい。

 

 とはいえ新たな大聖女さま誕生に湧いている聖王国である。大聖女は二人も必要ない論に、二人とも女神さまから聖痕を受けたのだから必要だ論にそもそも大聖女さま不要論まで飛び交っているそうだ。大聖女ウルスラさまも大聖堂に頻繁に赴いて、精力的に活動しているらしい。彼女の側には黒衣の枢機卿さまが頻繁に侍っており、聖王国の国民の皆さまの間で彼の顔がどんどんと売れているとか。

 

 彼は三年前までうだつの上がらない聖職者だったというのに、フィーネさまの奮起に乗る形で成り上がった人である。


 「欲が出たんだろうなあ……」


 私はベッドの上で声を上げる。天蓋付きのベッドの天井を見上げていたのだが、私の声に反応したクロが近寄ってきて顔を覗き込む。


 『ナイ。いきなりどうしたの?』


 こてんと首を傾げたクロは私が突然声を上げたことが気になったようだ。絨毯の上で寝ている毛玉ちゃんたちも気になるのか、起き上がってベッドの縁に顎を乗せて私を見始めた。

 

 「ごめん、驚かせたね。聖王国の聖職者で真っ黒な服に赤の差し色を施している人がいたでしょ?」


 私は右手を伸ばして毛玉ちゃんたちの頭を順番に撫でる。その間にクロが移動して私のお腹の上に乗り胸を通って、私の顔をまた覗き込む。


 『うん。禁書部屋でナイにいきなり話しかけた人だよね』


 クロの彼に対する認識は無粋な人となっているようだ。私にアポも取らずいきなり彼が現れて大聖女ウルスラさまに会って欲しいと懇願された。私はフィーネさまの立場もあろうと彼の言うまま、聖女ウルスラの紹介を受けた訳だけれども。アルバトロス王国から聖王国を経由して抗議が届いているはずだが、彼は新たな大聖女誕生によって屁とも思っていないのかもしれない。


 「彼は三年前にフィーネさまに協力して枢機卿の座を得たでしょ。そして今や新しい大聖女さまの後ろ盾っていう美味しい位置にいる。上昇志向の人なら上を目指すよねえ』


 『えっと、枢機卿より上って教皇だっけ。うーん……聖王国を破滅に導きたいのかなってボクは考えちゃうけれど』


 クロが首を捻って彼の思惑を不思議がっている。クロは平和志向だし、地位や名誉に興味がないから仕方ないか。でもクロの言う通り、聖王国をまた破滅の道へと進ませる気なのだろうか。

 フィーネさまの扱いが不遇であれば私はキレる気がする。たとえフィーネさまが納得していたとしても。そりゃ公爵さまや陛下が止めるのであれば我慢をするけれど、止められない限りは単身で聖王国に突っ込む覚悟である。


 「私と繋がれば他大陸とも縁ができる可能性があるから、それで私に話しかけたのかなあ……まあ、内容が薄くて殆ど忘れかけてるけれど……」


 うん。私は黒衣の枢機卿さまとなにを話していたのかはっきりと覚えていない。というか内容が薄くて記憶の彼方に吹っ飛んでしまったようだ。毛玉ちゃんたちは興味を失ったのか、ベッドに乗せていた顎を戻してまた絨毯の上で団子になって寝息を立て始める。


 『それは、少しでも覚えていてあげよう? ボク、ちょっと可哀そうになってきたかも』

 

 「名前も知らない気がする」


 黒衣の枢機卿さまの名前と出身と経歴はソフィーアさまとセレスティアさまに聞けば答えが返ってくるだろう。私がちゃらんぽらんな当主なので、その分お二人が確りしてくれている。


 『ボクたちは名乗らない習慣だから違和感を覚えなかったけれど、そういえば人間は名乗るのは普通だっけ?』


 「そうだね。単純に自己紹介っていう意味もあるんだけれど、爵位や立場に役職を持っている人は身分を明かして相手との関係を明確にするためでもあるからね」


 私はクロに苦笑いを向けると、長い尻尾で私のお腹をてしてし叩く。


 「まあ、なるようになるかな。最悪の場合はエーリヒさまがフィーネさまを迎えに行くだろうから大丈夫なはずだよ」


 私はクロの顔を見て笑うと、クロは不思議そうな表情で首を傾げた。


 『エーリヒが? ナイが行かないの?』


 「私が聖王国に赴くと大聖堂を消し炭にしかねないからね。フィーネさまもお迎えはエーリヒさまの方が嬉しいんじゃないのかな?」


 エーリヒさまの後ろ盾は私と同じハイゼンベルグ公爵さまである。彼がなにも手を打っていないとは思えないし、面白いからと言ってエーリヒさまを使者として出すのではなかろうか。外務卿さまもエーリヒさまと仲が良いみたいだし、エーリヒさまは世渡りが上手なので羨ましい限りだ。


 『うーん、良く分かんないや……』


 「そっか。そろそろ寝よう。明日も執務があるし、侍女さんや下働きの人たちに迷惑を掛けるわけにはいけないから、お昼からは庭でポポカさんとグリフォンさんとエルたちで日向ぼっこしようか」


 渋い顔をしたクロに私はあくびをしながら、そのまま目を瞑る。


 『たまにはまったりするのも良いねえ』


 「そうだね。おやすみ、クロ」


 私の言葉に『おやすみ』と返してくれたクロの声が聞こえて暫くすれば、深い眠りに落ちていた。


 ◇


 ――どうしよう。どうすれば良い?


 夜。アルバトロス城内にある官僚用宿舎の自室の椅子で俺は唸っていた。聖王国は今、新たな大聖女の誕生で沸き立っている。風の噂で大聖女フィーネ不要論が出ているそうで、彼女の立場が追いやられているとか。

 女神さまから与えられた聖痕持ちと言って大聖女という地位に就かせたはずなのに、上位の聖痕を持つ者より格下だと決めつけて彼女を大聖女の座から降ろそうと画策するのは如何なものだろうか。それにフィーネさまは聖王国崩壊の危機を救った立役者なのに、三年前のことすら忘れて盛り上がっている聖王国上層部や聖王国の人に不信感を持ってしまいそうである。


 フィーネさまは派閥のアレコレに悩まされて、自室に引き籠ってしまった。俺宛ての手紙にも記されているし、ナイさま宛ての手紙にも書かれているし、アルバトロス王国にもフィーネさまの個人名でご迷惑を掛けるかもしれませんが……と事情報告のみ入れている。

 フィーネさまの下にはナイさまのヴァナルたちが控えており、身の安全は確保されているので俺はこうして部屋で悠長に悩めるわけだ……。

 

 「いっそ攫ってしまおうか……いや、駄目か。俺、魔術の才能なんてないのに一人で乗り込んだところで捕まるのがオチだ」


 俺は頭の中でフィーネさま救出作戦を立ててみる。一番手っ取り早いのが彼女を聖王国から連れ出して、アルバトロス王国へと逃げることだ。

 城勤めを続けられるなら、給料と準男爵位の年金で二人慎ましく生活できるくらいのお金はある。仮に彼女を攫った責任を取って爵位や職を失ったとしても、王都で必死に働けばなんとかなるはずだ。贅沢はできないし、させられないけれど……彼女が俺と一緒の気持ちであれば嬉しい。って、待て待て。対策は一つとは限らない。


 「ジークフリードに力を借りるか……それも駄目だ。ジークフリードを俺の我が儘に付き合わせるわけにはいかない……」


 ジークフリードはナイさまの護衛騎士だ。なのに俺が彼を借り受けて聖王国に乗り込むには無茶がある。何気に優しいジークフリードだから俺が願い出ればきっと迷って、ナイさまと相談したあと俺を手助けしてくれるだろう。そんな優しい奴を俺の勝手で巻き込むわけにはいかないと首を横にぶんぶんと振った。


 「政治的に解決できる力を持っていればなあ」


 これに尽きる。俺がナイさまのように侯爵位でも持っていれば個人の権限で聖王国に乗り込んで、フィーネさまを救っていたのに。できないことを考えても仕方ないと、俺はハイゼンベルグ公爵閣下に相談してみようと筆と紙を取る。公爵閣下と俺の相談が聖王国騒動解決の糸口になれば良いのだがと、願わずにはいられなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 [気になる点] 聖王国も気になりますが、ナイさんの創造神のお家訪問の前に、子爵邸へのヤーバン王国の国王陛下のご来訪が決定。 スケジュールが埋まりますね。 [一言…
[良い点] 今回はグリフォンさんも可愛いw [気になる点] いやぁー本当、クロ様の言う通り聖王国を潰したいんですかね?奴は フィーネ様を下ろすか取り込みを狙ってる様だけど、彼女を御せる器もなく下ろし…
[良い点] お昼から庭でポポカさんたちと日向ぼっこ…羨ましすぎます。裏庭ならナイちゃんが育てている農作物もあるし、そういえば畑の妖精さんもいますねーもしかして混沌と化すかも笑。 [気になる点] ヤーバ…
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