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0921:加工依頼。

 ルカに早く天然石が欲しいと急かされた日の夜。


 アガレス帝国で買い付けた天然石をルカの額飾りを作ると約束すると、エルとジョセとジアも同じ物が良いとお願いされ、グリフォンさんは脚輪が良いとお願いされた。ポチとタマも首から掛けるよりは、角に引っ掛けられるタイプの物で大丈夫と教えてくれたので、腕輪に近い物に加工して贈ろうと考えている。

 お猫さまとジルヴァラさんにも無事に渡せたし、明日は亜人連合国の皆さまにお土産を渡しに行こう。一緒に行動していたけれど、三日目は完全に外交組とお出掛け組に分かれてしまい、彼らはアガレス帝国の商業区に赴くことはなかった。

 

 自室でゆっくりとした時間が流れており、あとは寝るだけとなっている。私は椅子に腰を下ろして領地経営の手法を記している本を読んでいた。少し難しいけれど、ゆっくりと落ち着いて読めば理解できるし、参考になることや役に立つことが沢山記されている。

 面白いことが記述されていれば、いつかの機会に領地で試してみようとメモを取っている所だ。私の足元では毛玉ちゃんたちが五頭みんなが集まってすやすやと寝息を立てている。

 ヴァナルも大あくびをしているし、雪さんと夜さんと華さんは彼を見てご機嫌そうに尻尾をばふばふ振っていた。クロも籠の中でこっくりこっくりと船を漕いでいるので、そろそろ灯りを落として寝ても良いかなと私は笑みを浮かべる。

 

 「ナイ」


 開いたままの自室の扉からひょっこりとそっくり兄妹が顔を出した。私の名を呼んだのはリンであり、嬉しそうに笑って部屋の中に足を進める。二人の肩に乗っていたアズとネルはクロがいる籠の中に無理矢理入って、すし詰め状態になっていた。


 「どうしたの、リン?」


 読んでいた本を閉じて姿勢を少し変えてリンと向き合うと、ジークは彼女の後ろに立って苦笑いを浮かべていた。なんだろうと少し首を傾げると、リンは小さな袋を差し出した。


 「天然石のお店でナイの分を買っていなかったから……これ、あげる」


 「いつの間に買ってたの? 全然気づかなかった。開けても良い?」


 袋を受け取って大事に抱える。そういえばリンからなにかを貰ったのはこれが初めてかもしれない。平民は一年が明けるとみんな一斉に一つ歳を取るから、誕生日を祝う習慣は薄くお金持ちの一部の人のみのイベントである。

 お貴族さまは産まれた日を誕生日として盛大に誕生祝のパーティーを開くけれど……そういえば貴族になってからも誕生祝は開いたことはなかった。孤児仲間みんな貴族籍に入ったから、イベントとして開いてみても良いのかもしれない。

 しかしまあ、彼女はいつの間に天然石のお店で会計を済ませたのだろうか。私の護衛に就いているからそんな暇はなかったはずだ。袋の封を丁寧に解いて中身を確認すると、真っ黒な天然石が入っていた。私がみんなの瞳の色に合わせたから、リンも気を使って黒色の天然石を選んでくれたようだ。


 「ナイが一生懸命選んでいる間に私の代わりにあの二人が買ってくれて、あとでお金を返した」


 なるほど。ソフィーアさまとセレスティアさまが気を使ってくれたようだ。真剣に選んでいる最中なら私は他の方の行動を気にすることはないので、こっそり会計を済ませたのだろう。リンの懐事情もあるから、彼女に無理のない額の品をチョイスしてくれたようだ。この手の品の良し悪いは私もリンも良く理解していないので、ベストな方法かもしれない。


 「ナイが買った物と比べれば品質が落ちると、渡すかどうかさっきまで迷っていたからなリンは」


 「あの人と一緒に買い物に出掛けたから兄さんは狡い……私もナイになにか渡したかった。同じものでごめんね」


 リンを見ながらくつくつと笑うジークに、彼女がむっと抗議の声を上げながら最後はへにゃっと情けない顔になった。


 「リン、ありがとう。大事な物がまた増えた。嬉しい」


 片方の手にはリンから贈られた天然石を大事に握って、私は手を伸ばしてリンの頬に添える。


 「ううん、私もナイから貰ったよ。他にも沢山貰ってる」

  

 リンは言い終えるなり両手を伸ばして私を抱きかかえる。いつもであれば降ろして欲しいと抗議するが、今日くらいは良いかとリンの首に腕を回して彼女と視線を合わせる。

 

 「いろいろなことがあると思うけれど、これからもよろしくね、リン。ジークもよろしく」


 これから先、グリフォンさんの卵さんが孵るのは確実だし、南の島でバカンスを楽しむけれどなにか起こりそうだし、夏を越えると南大陸の王族の方の浄化儀式が待ち構えている。

 他にも共和国の研修生がきちんと学べているか、猫背の魔術師さんの引き籠もり具合が少しでも改善するのか、ヤーバンの元第一王子殿下はきちんと冒険者として生活できているのか、領地運営は上手く軌道に乗るかとか沢山気にすることもあるのだ。


 「うん。ナイと一緒ならどんなことでも乗り越えられるし、大丈夫だよ」

 

 「ああ。離れてくれとナイに言われても付いて行くからな」


 ぎゅっとリンの腕に力が入ってお互いの顔が近づくと同時に笑みを浮かべる。ジークは私たちを見ながら片眉を上げていた。未来はどうなるか分からないけれど、できるだけ彼らと一緒に過ごせたら良いのになあと願ってしまう。

 

 「私もジークとリンとクレイグとサフィールがいるなら、なにがあっても平気だし、どこまでも行けるよ。きっと」


 私はリンに抱えられたまま笑って、もう遅いから寝ようとジークとリンに告げる。ジークはおやすみと言い残して、リンは私と一緒に寝ることになった。アズとネルもクロと一緒に籠の中で寝るようで、三頭で器用に尻尾を絡めている。

 開けっ放しにしていた部屋の扉を閉めて灯りを落とす。窓から星明りが煌々と差し込んで、部屋は丁度良い暗さになっていた。いつも首から掛けている卵さんを机の上に置いて、ベッドに潜り込み目を閉じて暫く、隣にいるリンの体温がゆっくりと伝わって眠気が私を襲う。


 「おやすみ、ナイ。良い夢を見てね」


 リンの柔らかい声が耳に届いたけれど、彼女の言葉に返事をする間もなく眠りに就くのだった。


 ――翌朝。


 「……ん?」

 

 寝返りを打って隣で寝ていたはずのリンがいなくなっていることに気付いて、ベッドから身体を起こして背伸びをする。リンが私よりあとに寝て先に起きるのはいつものことだ。クロが籠の中から私を見ていることに気付くのだが、アズとネルも起きてそっくり兄妹の下へ行ったようで籠の中にはクロしかいなかった。


 『おはよう、ナイ。リンは先に起きて自分の部屋に戻ったよ。そろそろ誰かが起こしにきてくれる時間かなあ?』


 「クロ、おはよう。教えてくれてありがとう」


 私はクロにお礼を伝えると、ベッドにもう一度寝転がる。朝は侍女さんがいつも起こしにきてくれるのだが、それよりも先に主人である私がベッドから抜け出していると良く思われないらしい。

 ヴァナルと雪さんたちも既に起きているけれど絨毯の上でまったりとしているし、毛玉ちゃんたちは五頭揃って部屋の扉の前でお座りをして侍女さんがくるのを待っている。セレスティアさまが見れば凄く喜びそうな光景だけれど、彼女は辺境伯家のタウンハウスで過ごしている。

 残念だなあとベッドから魔術具で写真に収めて、今度見せてみようと笑っていればクロが籠の中から飛び立ち私のお腹の所にちょこんと乗っかる。そこから私の胸に移動して、クロは首を伸ばしながら顔を私の頬に擦り付ける。

 

 「くすぐったいよ、クロ」


 ご機嫌な様子のクロには申し訳ないが、少しくすぐったいので手加減をお願いしたい。ぺしぺしと長い尻尾でシーツを叩いて良い音を出している。


 『駄目?』


 上目遣いで私を見ながらクロがこてんと首を傾げた。相変わらず凄い角度で首が回るものだから、もげてしまわないか心配だ。


 「駄目じゃないけれど……起こしにきた侍女さんに見られるのは恥ずかしいかな」


 『そうなの?』


 部屋にきた侍女さんが凄く微笑ましい顔を浮かべて『仲が宜しいですねえ』としみじみと声を零すのだ。クロは無意識の行動なのかもしれないが、侍女さんの私に向けられている視線が生温かいというかなんというか。


 「まあ、クロより毛玉ちゃんたちの攻撃の方が凄いけれどね」


 『あの仔たちはねえ~ボクでも勝てないから』


 毛玉ちゃんたちの攻撃を防げる方はいるのだろうか。五頭一斉に掛かられると防ぎようがない上に、上目遣いで鼻を鳴らしながら甘え鳴きされた時は少し罪悪感を抱いてしまう。毛玉ちゃんたちは深く考えていないだろうけれど、それが私たちの心に刺さるのだ。

 セレスティアさまが特に効果は抜群で、胸を押さえてなにかを耐えている所をよく見る。第三者として見ていると面白いが、当事者となると少し恥ずかしい。クロと視線を合わせて笑っていると扉をノックする音が部屋に響いた。私は返事しないまま待っていると、侍女さんがゆっくりと扉を開けて部屋に一歩足を進めたようだ。


 「ご当主さま、起床の時間でございます」


 「……おはようございます」


 侍女さんの声にむくりとベッドから起き上がって、返事を少し遅らせて寝起きを装った。今日の起床当番は三年前から侍女を務めてくれている、騎士爵家出身の方である。


 「起きられますか?」


 彼女は綺麗な笑みを浮かべて、ゆっくりとベッドに近づいてくる。その後ろを毛玉ちゃんたちがちょこちょこと着いてきて、立ち止まった隣に五頭が並んでお座りをした。


 「はい」


 「では、お召替えを手伝わせて頂きますね。申し訳ありませんが、皆さま退室をお願い致します」


 侍女さんの声に反応して、毛玉ちゃんたちもヴァナルと雪さんたちが歩き始め、クロがベッドから飛び立って行く。影の中にいたロゼさんもポーンと飛び出して何度か跳ねるとヴァナルの頭の上に乗った。

 毎日見ているけれど、知らない人には凄い光景だろうなと侍女さんと一緒に笑ってしまう。桜ちゃんが器用にドアノブに脚を掛けて扉を開くと、みんなが出て行き最後にヴァナルが尻尾を上手く使って部屋の扉を閉めた。


 そうして侍女さんの手を借りて着替えを済ませ、グリフォンさんの卵さんを首から下げて朝ご飯を食べようと食堂に足を進める。いつも通りのメンバーで料理長さんたちが丹精込めて作った料理を楽しみつつ、雑談を交わしてそれぞれの持ち場に就く。


 午前中は執務をこなして、お昼からは亜人連合国の領事館に顔を出すことになっている。ソフィーアさまとセレスティアさまと家宰さまに挨拶をして、執務を開始すれば直ぐにお昼がやってきた。

 ご飯を済ませて、ジークとリンと私たちは亜人連合国の領事館へお邪魔すると、ダリア姉さんとアイリス姉さんが直ぐに迎え入れてくれ、お二人の後ろで呆れながらディアンさまとベリルさまが見守っている。


 お貴族さま的な挨拶は必要なく、アイリス姉さんに背中を押されながら来客室へと通された。そうして正面にダリア姉さんとアイリス姉さんがソファーに腰を掛け、ディアンさまとベリルさまは彼女たちの後ろに立っている。私は一人でソファーに腰を掛けて、肩の上にはクロが乗り背後にはジークとリンとアズとネルが控えてくれた。


 「えっと、ドワーフの職人さんにお願いしたいことがありまして」


 「またドワーフの連中に?」


 「私たちエルフも頼って~」


 むーと口を尖らせているダリア姉さんとアイリス姉さんは少し不満げだった。でも装飾品系となるとどうしてもドワーフの職人さんの領域となってしまう。デザインとなればエルフの方々のセンスが発揮されるけれど、今回はシンプルな品を贈るつもりだ。何故かディアンさまとベリルさまは微妙な顔になっている。どうしたのか気になるけれど、話を進めなければとエルフのお姉さんズを見た。


 「すみません。エルたちに天然石を渡したのですが、首に掛ける方法が思いつかなくて額飾りにしようとなりまして」


 「ああ、なるほどね」


 「確かに天馬やグリフォンには難しい話だね~」


 天然石は私が仲の良い方々に贈っているので、お姉さんズの話の理解が早かった。もちろん亜人連合国の皆さまにもお渡ししてある。身に着けなくても部屋に置いて飾ることもできるから、装飾品として加工はしていない。


 「じゃあ、ナイちゃん。こうしない?」


 ぱんと手を叩いたダリア姉さんが素敵な提案をしてくれた。金具の部分はドワーフの職人さんにお願いして、紐の部分はエルフの方が編んだものを額の部分に付けようとなった。

 どうやら魔法を施して伸縮自在にできるそうだ。クロにもお願いすれば良かったねと少し話が脱線すると、あれよあれよという間にクロたちとヴァナルと雪さんたちと毛玉ちゃんたちの分も用意してくれることになった。あとはリンから貰った天然石を首から下げられるようにと発注を掛けて、よろしくお願いしますと黒い天然石を預けたあと、お土産を先に渡すべきだったのに最後になってしまったことを謝る。


 ディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんは凄く喜んでくれ、この場にいない赤竜さんと緑竜さんと青竜さんの分もお願いしますと渡せば、何故か微妙な顔になるのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 微笑ましい光景だなぁ…………… でもそれって成人女性に向けるような目じゃない気がするなぁ…………… なんでだろうなぁ……………w
[良い点] アニマル’sの移動する様子を思い浮かべて萌えたw [一言] ナイさんに渡せて良かったとは思うけど、それを自分で選べる様にならんとねぇー… リンさんもまだまだ子供ですねー?(苦笑)
[良い点] 装飾品はやっぱりドワーフさんに頼むのが安心ですよね。天馬ズとポチタマ、グリフォンさんの分に、クロたちとわんこーズの分にリンからもらった黒い天然石。そして紐部分はエルフさん作の魔法が付与され…
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