0070:処分は続く。
2022.03.28投稿 1/2回目
謁見場にて陛下による処断も終わったので、さて帰るべーよと気を抜いた時だった。
「聖女、ナイ。――前へ」
「へ」
小さく間抜けな声が出たのは仕方ない。終わったと思っていたのにまだ続きがあったのだから。うわー元第二王子殿下とソフィーアさまの婚約破棄劇に割って入ったことが、こんな所で響いてくるだなんて思ってもみなかった。
こちらへとやって来る案内役兼見張り役の騎士に連れられて、陛下の御前へと立つ。取り敢えず両膝を付いて平伏するのだけれど、何を言われるのか。
命までは取られない筈だ。そもそも問題があるならば、婚約破棄の現場で取り押さえられていただろう。そこまで間抜けな王家ではないだろうから。
「王族であったヘルベルトとその婚約者であった公爵令嬢ソフィーア・ハイゼンベルクとの間へ割って入ったことは、聖女であれ平民である其方が取ってよい行動ではない」
一旦話を切って陛下は私を再度見下ろす。理解はしている。聖女ではあるもののお貴族さまと平民では乗り越えられない壁があることも。
「だが、この四年間の其方の振る舞いは報告として聞いておる。今は其方を失う訳にはいかぬが、不問という訳にもいかぬ……」
取り敢えず首の皮一枚は繋がっていることに安堵して、陛下の言葉を待つ私。あとヴァンディリア王には感謝しないとなあ。外交問題となりかねないから簡単に私を切ることが出来なくなってる。
「よって学院で特別講義を設け、貴族と平民との違いを叩き込んでもらえ。――ついでに我が国の歴史と周辺国の成り立ちや背景、歴史文化もだ」
なんでやねんっ! と心の中で叫ぶ。これ国内のお貴族さまの相手や、諸外国のお偉いさんたちの相手をしろと言われているようなものじゃないか。
私は一介の聖女だから外交なんて貴族家出身の聖女さまがやればいいのだ。魔力量が多いだけの平凡な容姿なんてハニトラ要員になりもしな……まさか逆に目立ってる? お貴族さまって美男美女が多いから、こう珍獣的な意味合いで。チビだしすとーんな体形だし。
まあ黙ったままだと印象が悪いので、言葉を発しなければと考えるのだけれど、あまり良いものが思い浮かばない。
これ了承したら、政の現場に出されることは確定だ。でも拒否したら印象が最悪だし、国王陛下からの恩情を断った大馬鹿者になってしまう。
「――陛下のお心遣いに感謝いたします」
なので、私が取る選択肢は陛下の言葉に感謝を述べるしかなくなる訳である。首が繋がっただけ良かったのかもしれないけど、首輪を嵌められたようなものだよなあ。いや、まあ聖女になった時点で国に縛られているようなものだけれど。
もう用は終わったとばかりに下がれと言われ。扱い悪くないかなあと感じるけれど実際はこんなものというか、破格の扱いのような気もしなくない。
平民が王城の謁見場で国王陛下と顔合わせをするなんて、ないだろうしなあ。気苦労だけが増えたような気もするけれど、仕方ない。割って間に入ったのは間違いなく私なのだし。
ふうと息を吐いて謁見場を出ると、公爵さまとソフィーアさまが待っていたようで、廊下の端に寄って立っていた。一番最後に退出した私に気が付いて、こちらへとやって来る。
「よかったな、陛下に認識されたぞ」
「よかったのでしょうか……嫌な予感しかしません」
「それは自業自得だろう。あの場に割って出たということは、その覚悟があったという証拠だし命までは取られないと判断していたのだろう?」
公爵さまはソフィーアさまと私のやり取りを黙って聞いているだけだ。
「それは、まあ……そうですけれど」
「諦めろ。国にとって利用価値があると陛下に認められたことは悪くない。貴族ではないお前は、不利益をもたらさなければ国を利用してやるという気概でいればいいさ」
苦笑を浮かべながら背の低い私を見下ろすソフィーアさま。
「そういうものですかね」
「そういうものじゃないか? 私は貴族だから果たさなければならないものがあるが、お前は聖女ではあるが平民だ、貴族として振舞う必要はないからな」
難しいところだよねえ実際。聖女を一定期間務めて引退したら、一代限りの男爵位を叙爵され年金生活ができる。歳を取っている場合が大多数だし、年金を与える為の名分だから社交にも出なくても構わないから気楽なもの。
私はそれを目指しているだけで、国政なんてものには興味はないのだけれど。
まあ、今は陛下から何かを命じられた訳でもないから考えても無駄だし、公爵さまとソフィーアさまはこれから陛下と話し合いだそうだ。
おそらくは今回の件と婚約解消か白紙にすることの、理由説明や今後のことに謝罪も含まれるのだろうなと二人と別れ、教会へと戻る為にジークとリンと私の三人で馬車へと乗り込むのだった。