0066:抜け出して。
2022.03.27投稿 1/4回目←4回更新へ変更です。
――イケメンの壁ドンだった。
ただし、相手はジークなのでなんとも思えないのが残念な所。リンは私たちの様子を伺っているだけで、何もする気はないようだ。
「なんでお前はしゃしゃり出たっ!!」
建国を祝うパーティーの最中、私が一人になった瞬間にホールから廊下へと連れ出され今に至る。カンカンに怒っているジークを見るのは久方振りだ。随分と昔に馬車から降りた貴族の前に出て行って、私がキレちらかした時以来か。
「だって、誰もアレを止めないし……口も出さないし……」
一人で踊ってる第二王子殿下を見ているのもしんどかったというのもある。あとソフィーアさまの面子が丸つぶれになるだけだし。
一回アウト判定貰っている殿下だというのに、まだ婚約を続けるという優しさである。いや、まあ、なにかしらのメリットがあるから続けていたのだろうけれど。
「阿呆っ! 言うだけ言わせてた可能性もあるだろうが!! 爵位も何もない聖女の役職だけのお前があの場に出ても意味がないっ!」
勝手に自爆するのを待っていたという訳か。そこまで考えてなかったなあ、殿下のあの道化っぷりが哀れすぎて……。
あのままじゃあ処刑一直線だし、公爵さまや隣国のトップも見ていたわけだし。ああ、でも根回ししていた可能性もあるのか。さすがに他国の来賓がいる席で、あんなことになると自国の品位を疑われるものね。
「あだっ!!」
ジークに手刀を頭に落とされる。以前に『不能』と言い放った時より痛かった。
確かに王族に意見するなんて馬鹿がやることだけれど、見ているだけというのも耐えられなかったし、どうにかしたかっただけだ。
首ちょんぱの可能性もあったけれど、やらかした第二王子殿下が更にやらかしてる。命までは取られない確信はあったし。私が出ていく場面でもなかったけれど、ね。
痛みが引かない頭を撫でながら、リンに助けを求めて視線を移すと小さく左右に首を振られて、すげなく断られる。まだジークの説教は続くのかと諦めそうになった時、複数の足音が聞こえてきた。
「もうそろそろ勘弁してやれ、ジークフリード。王族の前にしゃしゃり出た馬鹿への怒りは理解できるがなあ」
私たちを見てくつくつと笑い巨躯を揺らしながら、こちらへとやって来る公爵さま。その隣には彼の孫娘であるソフィーアさまの姿もある。
「……しかし」
「心配はいらんよ。――あの娘の魔眼に惑わされたのみならず、本気で惚れこんで己の進むべき道を見誤った人間に未来などあると思うか?」
魔獣討伐以降の彼は随分と錯乱していると判断された様子。ヒロインちゃんと隔離措置を取られ、魔眼の効果が薄くなってきていたというのに、まだ拘っていたからね彼は。
他の四人はちょっと酔いが覚めたようで、少しずつ現状を理解していたようだし。パーティー前に見た第二王子殿下と緑髪くんと紫髪くんのやり取りで、最終判断されたのかもなあ。
おそらく彼らから上に報告がいったのだろうね。そうでないと国王陛下や公爵さまたちの、あの異常な落ち着きっぷりに説明がつかないし。周囲の人間にも第二王子殿下はもう駄目だと、イメージづける為もあったんじゃないかな。
「…………」
「まあ、その辺りも加味していたのだろうが、無茶をしたなあお前さんは」
公爵さまの言葉にジークは黙り込む選択肢しか取れなくなる。これで反論でもすると公爵さまの意見に楯突いたことになるし、これ以上喰い付いてもしかたないと判断したのだろう。
ジークの渋面にくくと笑っている公爵さまなので、怒ってもいないし咎める気もなさそうなので、そろそろ話しに加わってもいい頃合いか。
「駄目、でしたかね閣下」
「ただの学院生ならば、見せしめも兼ねて首を刎ねねばならぬだろうが、聖女だからなお前さんは。国としても処分は出来んし、厳重注意くらいだろうよ。――ヴァンディリア王を釣りだしよったし、妙なことをすれば外交関係にも問題が出てしまう」
本当にお前さんはなにをやっているのだと、笑っている公爵さま。絶対に面白がっているよなこれと、渋面をすると更ににやにやしているから、やっぱり面白がっている。
「すまないな、私の問題に巻き込んで」
「いえ、勝手に動いた結果です。――それよりもソフィーアさま……今後は?」
第二王子殿下は地に堕ちたのは誰が見ても明らかだ。公衆の面前で国王陛下が『馬鹿な息子』と口にしていたので、用済みと言われたと同じであろう。
側妃さまの子供だし、正妃さまの子である第三王子殿下がいらっしゃるから、あまり問題視はされないかもなあ。第一王子殿下の立太子も決定しているのだし。
「ああ、何の心配も要らんよ。殿下が強行すれば婚約は白紙に戻すという確約は王家から取ってある」
「そうせざるを得んだろうなあ。一方的に破棄などしてみろ、陛下を葬ってワシも腹を切るわ。その時は一家全員連座だがなっ!」
人の往来がある中で、このような会話を繰り広げられるのは、第二王子殿下が自爆したお陰だろう。普通は誰も居ない密室で話すような内容である。
さっきからジークは微妙な顔をして周囲をきょろきょろ見渡しているし、公爵家の護衛の人たちも冷や汗を掻いているし。当の本人が一番あっけらかんとしてガハハと笑っているので、まあそういうことである。
「……」
笑っているけれど、笑えない冗談である。王都の人たちと公爵領の人たちをどうするつもりなのだろう。冗談だろうけれど、笑えぬ冗談だ。この人ならやりかねないし、人望があるので軍関係者の反感を王家は買うことになるのだけれど。
「……お爺さま、それは如何なものかと」
「冗談だ、冗談。――だが下手をすれば、それくらいのことを公爵家はやってのけねばならんということさ」
まあ第二王子殿下に覚悟がなさ過ぎだが、と付け加える公爵さま。私が聞きたかったことは、第二王子殿下と婚約を白紙に戻してからのことを聞きたかったのだけれど。
んー国を守る軍を統括している公爵家のご令嬢だから、第二王子の後釜に入る人はどんな方なのだろう。私が心配しても意味ないし、国王陛下も婚約者を見繕ってくれるだろうから妙なことにはならないかと、存外すっきりした表情を見せるソフィーアさまと公爵さまを見つめるのだった。