0061:建国祭。
2022.03.25投稿 2/2回目
――建国日、当日。
朝の早くからこの日はどこもかしこも騒がしい。教会もこの日は貧民街の人たちに向けて炊き出しを行ったり、無料で治癒院を開いたりと上を下への大騒ぎ状態。
学院が終わったら手伝うと教会の面々には伝えて、学院へと登校。この日ばかりは授業もなく、お祝いのパーティーのみなので気楽に参加するだけである。
お貴族さまたちは制服ではなく、ドレスや燕尾服で参加するそうな。平民は学生服でも構わないと通達がきていたので、お貴族さまと平民の融和への道は程遠い。
会場は学院の敷地内にあるホールで開催するそうな。何気に政に携わる重鎮の人たちも参加するそうで、警備がいつもより厳重になっていた。
「制服でいいのか?」
「うん。学院生として参加するんだし制服で大丈夫」
「聖女の服も似合うのに」
何度も言うけれどあれは染色代をケチっているただの白い布で、しかも薄いときたもんだ。いやさ教会が見栄を張って、生地自体は良いものを使っているけれど。
ばんきゅぼんな美人さんなら似合うけれど、こう起伏のない体つきの私にはどうにも似合わない。ただの嫌がらせとしか思えないのですよ。
「流石にあの格好はねえ……」
正装になるから聖女の格好でも問題ないけれど、目立つし恥ずかしいので今回は制服である。
それに私が正装すれば二人は騎士の格好をしなくちゃならなくなるので、楽しめないだろうに。ということでパスだパス。
道行くお貴族さまたちは既にドレスや燕尾服へと着替えている。流行りのドレスとかさっぱり分からないけれど、ぴしりと背を伸ばして歩く姿はカッコいいし奇麗である。
学院内で婚約者が居る場合は一緒に入場するそうで、専用の出入り口が設置されているそうだ。順調な婚約関係を築けている人たちは仲睦まじそうに歩いているし、逆の人たちは出入り口で合流するそう。
明暗が分かれているなあと目を細め、入場開始時刻までホール近場のベンチに座って待っている。
学院に入学してから二ヶ月。いろんなことが起こり過ぎていて時間が過ぎるのがあっという間だった。
今はまだお通夜状態の教室も、時間が経てば明るさを取り戻していくだろう。
「ん――こんなところで何をしているんだ?」
ソフィーアさまがベンチに座っていた私たちの前に立っていたのだった。 藍色のパーティドレスを身に纏い、繊細なレースにビーズや金糸の刺繍。指輪は端正で上等な細工物が嫌味にならない程度に身に着けていた。
流石公爵家のご令嬢。どれも一流のものである。
「いえ、ソフィーアさまこそ、何故こちらに」
座ったままだと不敬になるので、がばりと立つジークとリンに少し遅れてベンチから立ち上がる私。
本来ならばパートナーと一緒に待機部屋で開始時刻を待っているはずだというのに。ソフィーアさまが連れていた侍女や護衛の人たちの空気が、かなり妙なんだけれど何かあったのか。
「恥ずかしながら、殿下にエスコートを断られてな」
「は」
あの人、一度アウト判定下っているのに、速攻でやらかしているんだけれど。
どうしようかとジークの顔を見るけれど、ジークじゃあ彼女と釣り合わない。家格が。
ジークの顔は整っているし身長も高いのでソフィーアさまと並ぶと良い感じなのだけれど、こればっかりはどうしようもない。
せめて騎士服でも着ていればまだ良かったものの制服だから代理にはならないし、高位貴族でソフィーアさまの相手が務まりそうな人ってこの学院内だと居ないのでは。
いや、学院なので夜会のように必ずパートナーと二人でというルールはないけれど……。
「かまわんさ。――もう、何を言っても届かないのだろうな、あの人には」
来賓の人とかいるんだし、二人で居ないと不味いだろうに。仮にもこの国の第二王子殿下なのだから体裁は大事だろう。十五歳の王族に婚約者の席が空いているなんて、国や本人が無能であると喧伝しているようなものだろうに。
「大丈夫ですか」
「ああ。やることは全てやっているさ」
ようするに自分の評判は落ちることはないだろう、と。随分と落ち着いている様子なので、根回しや大人組への報告は既に済ませているのだろう。
「セレスティアさまは?」
彼女の婚約者はヒロインちゃんハニートラップ騒動に巻き込まれた一人である。ヒロインちゃんと離れて時間が経った所為なのか、元の調子に戻っているそうだ。
セレスティアさま曰く『馬鹿は治っていませんが、まあ元々ですものね』と割と酷いことを言い放っていたけれど。幼い頃からのお相手なので、情がある雰囲気だった。
「抵抗していたのを引っ叩いて連れて行ったな。強制参加ともいえるか」
物理で納得させてパートナーとして一緒に会場へと行くようだ。しかし本当に、どうなってしまうのやら。
公爵家の後ろ盾を失ったらどうなるかなんて、分かり切っていることだろうに。
「さて、そろそろ時間だぞ」
「すみません、先に行きますね」
お貴族さまより先に入場しておかないといけないので、断りを入れてこの場を後にしたのだった。