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0597:空から降ってきた。

2022.12.05投稿 1/2回目

 島で生活すること三週間目。


 私が探検にでるとなにかしらに出くわすので、浜辺周辺で王都や子爵領で育てられそうな果物やお野菜がないか探したり、海へ行ってお魚さんを手で捕まえてみたり、磯にいる生き物で食べられるものを探していた。

 日差しの強い島にいると、随分と肌が日焼けしており戻った時の子爵邸侍従頭さんの反応が怖い。侍従頭さんはお貴族さまとしての誇りが強いので、お貴族さまのマナーやルールには厳しいお方。

怒られそうだけれど、公爵令嬢であるソフィーアさまと辺境伯令嬢であるセレスティアさまも同様に日焼けしているから大丈夫だろうと高を括る。肌が日焼けしても、数年後には戻っているかもしれないので目くじらを立てることでもないし。うんうん。


 私たちのお世話を担ってくれている侍女さんたちは何度か入れ替わっていた。流石に四週間の長丁場は堪えるようで、竜の方のご厚意で王都に戻って交代メンバーを乗せて島に戻るを何度か行っている。

 その際に島で採れた果物を持って帰って貰ったのだけれど、喜ばれただろうか。島には果物や食べられる草花が沢山生えているけれど、原種に近いようで味が独特。甘味が足りないとか、苦みが強すぎるとかいろいろと問題がある。畑の妖精さんに改良してもらうべく、少量は残しておいてと伝えているけれど。さて、どうなるやら。


 天幕の中で着替えと朝食を済ませて、外に出ると朝だというのに日差しが強い。今日も暑くなりそうだと、背を伸ばし気合を入れた。

 

 「今日はなにしようか?」


 三週間も時間が経つとみんな飽きてきたようで、お仕事組以外は自由気ままに遊んでいる。

 クレイグとサフィールはダークエルフさんと仲良くなって、畑の開墾や集落の建築を手伝っていた。

 アリアさまとロザリンデさまも島で見つかったお宝がどんなものか調べている。お宝と同時に見つかった書庫は大昔の情報が沢山あるのだとか。見つかった魔導書は誰もページが捲れないようで、中が読めないとのこと。そのうち私が召喚されそうだけれど、呼ばれるまでは知らんふりしておく。

 

 『なにしよう?』


 クロが私のボヤキに答えてくれた。首をこてんと傾げ、尻尾を揺らしながら機嫌良さそうにしている。島の果物は魔素が多く備わっているようで、美味しい美味しいと食べている。

 おデブちゃんになりはしないかと心配するけれど、かなり大量に食べないと無理らしい。食事を摂っている時に話したものだから、控えている侍女さんが凄く羨ましそうな顔になっていたのを見逃さなかった。私の場合は食べた栄養が体に回り辛いようなので、もう少し太っても良いのではないかと考えてしまう。成長期はいずこ? と首を傾げたくなるくらいにチビだしなあ。魔力による成長阻害というよりも小人症とかそっち系なのでは……と疑ってしまうのも仕方ない。


 そんなことを考えていると頬に一粒の雨が落ちる。随分と生暖かい雨だなあと、頬に着いた雨粒を手で拭ってなんとなく掌を見た。


 「え?」


 掌には一筋の真っ赤な液体が付いていた。一瞬でそれが血だと理解できた。


 『ナイ! どうして血が付いているの!?』


 クロが私の肩の上で大きな声で問うたけれど、私だって同じことを聞きたい。どうしてと考え始めたその時。


 『マスター、上っ!』


 ロゼさんの言葉に倣って、空を見上げると黒い小さな点がある。そこからぼたぼたと赤い液体が落ちてきており、小さな黒い点がどんどんと大きくなってこちらへ近づいてくるのが分かる。……あれは。


 「――ルカ?」


 私の声に反応して、肩の上からクロが凄い勢いで飛び立った。赤い液体を落としながら近づいてくる黒い点は、距離が近くなるにつれて黒い翼を広げた馬だと理解できた。エルとジョセよりも一回り小柄な六枚羽の黒い天馬なんてルカしかいないだろう。


 「ルカ!!」


 クロがルカと上空で合流すると、力尽きたのか重力に逆らうことなく落ちてきた。このままでは地面にぶつかって息絶えてしまうと目を細めた時、ヴァナルが元の大きさになって後ろ脚の力だけで上空に飛び、上手く背中の上でキャッチした。

 安堵の息も吐く暇もなく走り出して、ヴァナルが着地した場所へと向かう。魔力を練って、いつでも発動できるように前準備も怠らない。急いでいる時に限って、みんながいないことに舌打ちしながらヴァナルの近くに寄る。


 「ヴァナルありがとう。クロ、ルカは大丈夫?」


 伏せの体勢になったヴァナルの背にはルカが横たわっていた。黒い馬体だから血が分かり辛いけれど、大きな傷を抱えて力なく息を吸ったり吐いたりしている。不味い状況というのは一瞬で理解できてしまい、ヴァナルと一緒に戻っていたクロの言葉を聞く前に乱暴に魔力を練ると、髪がぶわりと揺れる。

 

 「――"母の腕の中で眠れ"”安寧と癒しを齎せ""罪なき子には幸福を""罪人(つみびと)には、絶望を”」


 滅多に使うことのない四節分の治癒魔術を発動させた。クロが心配そうにルカを見て、ロゼさんは塞がっていない傷口がないか確認している。ヴァナルは珍しく何度も遠吠えをして、みんなを呼んでいた。


 『ナイが魔術を施してくれたから大丈夫。でもルカにこんな傷を負わせることができる生き物がいるなんて信じられないよ……』


 クロが言うには、ルカは六枚羽なのでかなりの速度を出せるとのこと。ルカに追いつける生き物なんて滅多におらず、大きな力を持った魔獣や竜でもない限り無理なのだとか。ルカが誰かに喧嘩を売るなんて考え辛いし、仮に人間が手を出したとしても先ほど見たような傷をつけるのは難しいだろう。

 傷の形はなんともいえない切り傷で、鯨を助けた際の傷に似ていた。まさか同じ者が、と訝しむけれど答えなんて出ない。とりあえずはルカが意識を取り戻すまでは、このまま安静にしておいた方が良いだろうと、魔力を放出させながらルカの顔を膝の上に乗せてじっとしておく。


 「ヴァナルはあとでお風呂に入ろうね。血、流さなきゃ」


 声を掛けるとヴァナルは狼よりも少し大きなサイズに戻って、私の横にちょこんと座って顔を近づけた。ルカを背負った時に血が付いており、固まると毛が大変なことになる。ヴァナルの顔をそっと撫でると目を細めながら受け入れてくれた。


 『ダイジョウブ。シンパイナイ、ルカツヨイ』


 「うん」


 ヴァナルの言葉に確りと頷く。呼吸は落ち着いているから、あとは目を覚ますだけ。確りとご飯を食べて失った血を作らなきゃ駄目だし、回復まで少し時間は掛かるかも。命を失う危機は脱出したけれど、空を飛んでいて事故に会ったのか、故意にルカを傷つけたのか。分からないことだらけだなあと、空を見上げてもなにも見えない。

 ふう、とひとつ息を吐くと、急いだ様子でみんなが私たちの下へやって来たのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 珍しく荒事の予感 誰も傷ついて欲しくはないけど、悪者には天誅を
[一言] ルカが傷付いた理由が人的なものなのか、それとも幻想種等の超常の存在による物なのか分かりませんけど、人的被害なら如何してくれましょうかね~…
[一言] 怪我をしたルカ、いったい彼に何が起きたのでしょうね。
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