0589:大賢者が記した魔導書。
2022.12.03投稿 1/4回目
なにが出るかと期待していたけれど、流石に打ち止めだったようだ。それでも地下遺跡の中には財宝と魔術陣、書籍が見つかったのだから十分だろうか。
資料的価値があるようだし、財宝は換金すればかなりの値段が付くはず。財宝も昔のモノなので、資料として保管するのかもしれないが。判断は亜人連合国の方々に権利があるだろう。あとは島の主である大蛇さまに念の為に問い合わせだろう。
「皆さま、戻りましょう」
ダークエルフのお姉さんが声を上げた。遺跡の全容が解明され、マッピングも終わったようだ。これを元に更に調査を進めるらしい。エルフの方やダークエルフの方々は古代の事に興味があるようで、研究対象なのだとか。魔法や魔術の解明に、失われた技術の再生、当時の食事事情など興味が尽きないらしい。緊張感から解放されて遺跡の通路を歩いていると、ダリア姉さんとアイリス姉さんが私の隣に並んだ。
「ナイちゃん、家の魔導書とさっき見つけた魔導書ってよく似ていたの?」
ダリア姉さんが私の顔を覗き込みながら問いかけてきた。子爵邸の魔導書は浄化を施した後、本棚の中に鎮座している。
勝手に動いたりすることもなく、中を開かなければ普通の本。中身はアレな魔術が記されているけれど、見なきゃ良いだけ。封印措置ができないかと考えたけれど、相談先の副団長さまが血の涙を流しながら、魔導書の有用性を説いていたので分からず終い。
「はい。装丁が同じに見えました」
子爵邸の魔導書と遺跡の魔導書は本当に似ていたので、ダリア姉さんの言葉に素直に頷く。ロゼさんも同じと言っていたので間違いはないはずだ。
「なるほどね~。ねえ、ダリア。アレかなあ~?」
「そうかもしれないわね、アイリス。……大昔、五大賢者が記したという魔導書があると噂されているわ。――」
ダリア姉さんとアイリス姉さん曰く、魔術師として極めた五人の老人が賢者として称えられていたそうな。賢者五人が魔術を記した本が、時間が経って魔導書に変化したらしい。
彼らの叡智を凝集した五冊の魔導書は大陸各国へ散らばって、いずこかにあるのだとか。どこにあるのかは謎に包まれている上に、魔導書自身が力を持って勝手に移動するので、存在だけが噂されて伝説となっているみたい。
「五冊全部そろえると、大賢者になれるんだって~」
アイリス姉さんが右手の人差し指を立てて教えてくれた。大賢者ってなんだそりゃ、と首を傾げるとダリア姉さんが苦笑いを浮かべた。
「簡単に言えば、魔術師や魔法使いの上位存在ね。まあ、定義がいろいろで差があるかもしれないけれど」
大賢者の他にも大魔導士とか大魔法使いとか呼称があるみたい。一番通りがいいのが『大賢者』なのだとか。筆頭とか大とか付けるのが好きだな。権威って分かりやすいから、欲しがる気持ちも理解できるけれど。いわば社長さんとか大学教授とかと一緒だろうし。
「五冊集まるかな~?」
アイリス姉さんが無邪気に笑う。まあ五冊揃うと願いが叶うとか、世界の覇者になるとかじゃないだけマシなのかなあ。二冊は子爵邸と島だから、あと三冊探せば揃うけれど、一体何処にあるのだか。
「どうでしょうね? 魔術師や魔法使いが集めている可能性があるし、難しいかもしれないわね」
ダリア姉さんの声が耳に届く。有名な魔導書みたいで、欲しい人は多いようだ。副団長さまのように魔術や魔法を研究している方ならば魔導書を欲しがりそうだ。悪用しないならば子爵邸の魔導書を譲渡しても問題ない……はず。私の判断で渡すことはできないだろうから、アルバトロスや亜人連合国の方たちと相談の上となるかな。
「そっかあ。面白そうだから五冊揃えてみたいけれどね~」
アイリス姉さんは魔導書に興味があるようだし、ヴァナルの頭の上に乗っているロゼさんもぽよんぽよんと跳ねている。この場に副団長さまが居なくて良かった。居たら私の顔を見ながら至近距離で『是非、全て集めましょう』とか言い出して魔術の素晴らしさを延々と述べるはすだ。
「難しいでしょうね。各大陸に散っているみたいだもの」
ダリア姉さんの話だと、残りの三冊は西大陸以外に在るようだ。東大陸は魔素が薄いから可能性が薄そう。残りは北か南大陸だろうか。東大陸の情報はかなり制限されているけれど、北と南の情報も全く手に入らない状態で、どのような土地で国があるのか。どんな方たちが住んでいるのか、情報が得られない。
知ろうとしなければ、情報が手に入れ辛いのが現状だから仕方ないが。北大陸と南大陸との関りがないので、平民や爵位の低い貴族が知ることなんてないのだろうな。アルバトロスの陛下でさえ知らない可能性もあるのだし。
「――外に辿り着きましたね」
先導役のダークエルフのお姉さんが、遺跡の外に辿り着いたことを教えてくれた。暗い遺跡の中を彷徨っていたので、外の光が随分と眩しく感じる。暑さと湿気に包まれた森の中、遺跡へ侵入した場所とは離れておりきょろきょろとみんな周囲を見回していた。仮に迷ってしまったとしても、ディアンさまとベリルさまにクロがいるので問題ない。
空を飛んでもらえば一発で浜辺の拠点に戻れるのだ。迷子にならないという条件に、戦力飽和しているメンバー、なんつー安心感と驚くが、私も戦力過剰メンバーにカウントされる。一年前まで防御系の魔術とバフしか扱えなかったのが懐かしい。
「さ、戻りましょうか」
「うん~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんの言葉に全員が頷くのだった。